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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第55話 陽動と突撃

 二百ほどの歩兵隊は、カオルの活躍もあり、百程度しかいないオーロイス伯爵の軍勢を攻めきれないでいた。魔法と弓矢の援護があってである。

 なぜなら、魔法と弓矢の攻撃は、到達する前にカオルの一撃によってすべて叩き落とされているからだ。つまり、援護の体をなしていないというわけである。


「むぅ、かなり腕の立つやつがいるな。よし、全軍を突入させる。皆殺しだ」


「はっ! 全軍突撃ぃっ!」


 将軍の指示により、残っていた騎馬隊と槍兵隊も攻撃を開始する。

 百対千の戦いだ。普通に見れば、千の方が圧倒的に有利だろう。

 兵士たちの誰もがそう考えていた。ただ、将軍だけは、それでも厳しいものになると見ている。

 魔法と弓矢は合わせて百ほどがいる。つまり、初手の時点ですでに攻撃三倍の法則に当てはまっていた。絶対的な指標ではないものの、十分有利に進められる戦局である。

 だが、耐えきられた上に反撃をも許している。そのことが、将軍の不安を誘っているというわけだ。

 地形は川の左岸であり、オーロイス伯爵の軍勢の背後には強固な壁を持った街がある。攻め込める方向は二か所に限定されている。これが攻めきれない理由なのだろうか。

 攻めあぐねている状況を見て、将軍は更なる動きを見せる。


「一部の兵力を街の別の入口に迂回させろ。中に入って背後からも叩くのだ」


「はっ!」


 将軍は機動力の高い騎兵と援護を撃ち落とされている魔法隊を街へと突撃させる方向に切り替える。

 相手がこちらを正面から迎えているのであれば、街の中は無防備になっていると考えたのだ。

 現状のままでは兵力をすべて活かしきれないのは事実。だが、あえて数を多くそろえたのは、こういった展開も予測してのことだった。

 街へと押し込む形で攻め込んでいるため、この行動には気付かれないだろうと考えていた将軍だが、実は甘かった。


「旦那様」


「なんだ、カオル」


 抜兎術で敵軍を押し返しながら、カオルはオーロイス伯爵に話しかけている。


「連中、街の中へと攻め込もうと、予想通り軍勢の一部を迂回させております」


「そうか。お前の読み通りだな」


「はい。あとはしっかりと罠にかかってくれることを祈るばかりですよ」


「まったく、恐ろしいやつだな」


 にやついた顔を見せるカオルを見て、オーロイス伯爵は苦笑いである。


 この展開は街の構造上、がっつり予測済みだった。ついでに、橋の爆破が起きたことにより、川からの侵入も予測できたので、扉や門はがっちりと閉ざされている。

 下流域から攻めてくることは報告で分かっていた。相手の数はかなり多いので、回り込んでくることは容易に想像がつく。だからこそ、その経路には大量に罠を仕掛けておいたのだ。

 とはいえ、これは気休め程度。敵の動きを見たカオルは、自分の左側を見た後、再び真正面を見据える。


「まあ、狙い通り敵の勢力が分散したわけで……、俺はいっちょ本体を叩きにいってきますよ」


「お、おい、カオル」


 オーロイス伯爵は、突然動き出したカオルに驚いている。

 だが、その動きはかなり早く、止めることはできなかった。オーロイス伯爵は結局その姿を見送るしかできなかったのだ。


「抜兎術、空!」


「ぐわーっ!」


「ぬわーっ!」


 兵士たちの間を、うさ耳メイドが駆け抜けていく。刀をひと振りすれば、多くの敵兵が吹き飛んでいく。

 あまりに豪快に吹き飛んでいく様子は、敵味方関係なく唖然としてしまう光景だった。


「て、敵じゃなくてよかった……」


「あれは、人間なのかな?」


 もう言われたい放題のカオルだが、そんなことを気にしている場合ではなかった。


(見えてきたな。明らかに格好の違う兵士が一人いるから、あそこが本陣か)


「た、たった一人にこの陣を突破されてたまるか!」


 弓兵がカオルに向けて構えている。


「抜兎術・閃!」


 声に反応したカオルは、弓兵たちに刀を振るう。


「うわーっ!」


 衝撃波を受けた弓兵たちは、死を覚悟した。

 だが、体にはなんともない。こけおどしかと思ったが、手に持っている弓矢を見て恐怖した。


「ひぃっ!」


「そ、そんな弓が!」


 持っていた弓矢がすべてぶった切られていたのだ。これでは攻撃ができない。弓兵はたったの一撃で全員が無力化したのだ。

 弓兵への攻撃を仕掛けたカオルだったが、その右側から強力な気配を察知する。


「おっと!」


 間一髪、カオルは攻撃を躱す。


「まったく、気配なくこんなに近くまで寄ってくるたぁ、やっぱ大将はすげえ奴だな」


「この俺の攻撃を躱すとは……。その顔立ちなどからして、ただのメイドではないな」


 地面に突き刺さった剣を見ながら、カオルは冷や汗をかいている。


「一応、冒険者もやってるメイドなんだよ。カオルって名乗っている」


「ふん、死にゆく者の名など興味はない。だが、その奇妙な術には興味がある。こいつらではお前は止められんみたいだから、この俺が直々に相手をしてやろう」


「それは光栄だね。俺が勝ったら、おとなしく退いてもらえるかな?」


「ありえんことだろうが、よかろう。お前が勝てたのならば、その望み、叶えてやる」


 カオルの申し出を、将軍は笑いながら聞き入れている。やれるものならやってみろと。

 言質を取ったと、カオルはにやりと笑っている。

 攻めるイダンカ帝国の将軍。守るオーロイス伯爵軍のカオル。

 二人の強者が、今ここで激突する!

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