第49話 撃退と修繕
「俺たちは急いでいるんだよ」
「変なメイドさんよ、おとなしくそこをどいて、道を開けてくれねえかな?」
男二人組は指を鳴らしながら、カオル相手に凄んでいる。
普通のメイドなら怯んで逃げるか腰を抜かすかしただろう。だが、相手が悪かった。
「やだね。お前たちが通り抜けた直後に橋がタイミングよく爆破されてるんだ。となりゃあ、お前らが何らかの方法で橋を爆破してると考えるのが、当然というものだろうがよ」
「はっ、大した言いがかりだな」
「寝言は家で寝てからいいな、メイドさんよ」
当然ながら、どう見ても悪役な姿をした男たちは素直に認めるわけがない。武器を構えてじりじりとカオルに近付いてきている。
「どう見てもか弱いメイドに対して、強い圧をかけてくるな。だが、お前らの圧はその程度か」
「んだとぉ?」
カオルが煽りを入れると、男たちはさらに凄んでくる。それでもまったくカオルは動じない。
「はぁ、涼しい視線だな。本物の圧ってのを教えてやるよ」
カオルはそう言った瞬間、ギンという音が聞こえてきそうなくらい鋭い視線を男たちに向けている。さっきまでの雰囲気とは明らかに違う。
カオルから視線を向けられた男たちは、完全に動きを止められ、怯んでいるようにすら見える。
他に人がいないとはいえ、メイド相手に怯まされた男二人組は、なんとも情けない状況だ。
「な、何をやってるんですか。とっととそのメイドを始末して下さい。爆破犯という容疑をかけられてしまっているんですからね」
「お、おう。今すぐ片付けてやりやすよ」
御者の男に言われて、武装した男たちはカオルへと襲い掛かってくる。
「ふん、やっぱりてめぇらが犯人か。まだまだ対岸までは距離があるし、ここで最後とも思えねえ。爆破が起きない以上、お前らが犯人で間違いねえみたいだな!」
「ハッ! その生意気な口、今すぐ利けなくしてやるぜ!」
斧を持った男と、鞭を持った男が同時に押しかかってくる。だが、カオルは動かない。いや、動く必要はないのだ。
「抜兎術……」
刀に手をかけて、足を開いて大きく腰を落とす。
「空!」
大切な証人だからと、カオルは非殺の一撃を繰り出す。
風の魔法をまとった刀が振り抜かれ、男たちへと襲い掛かっていく。
「おぼぉーっ!」
「だはーっ!」
なんとも情けない声を上げながら、振り抜かれた一撃によって男たちは吹き飛んでいく。壊れた橋のギリギリの位置に、男たちはそのまま墜落する。
刀を鞘に納めたカオルは、男たちを見ながら安堵の息を漏らしていた。
「ふぅ、危うく川に落とすところだったな。だが、これでこいつはしばらく起きれまい」
厄介な連中を黙らせたと思った瞬間、カオルに別の攻撃が繰り出されようとする。
「こうなったら俺が!」
そう、御者が襲い掛かってきたのだ。だが、予測できたことなのでカオルはまったく慌てない。刀を抜かず、その鞘の先で男の股間を思いっきり小突いていた。
「おっ、ぼぉーーっ!」
あまりの激痛に、御者はその場に崩れ落ちてしまう。
「悪いな。その激痛は俺もよく分かんだが、黙ってもらうには一番手っ取り早かったんでな」
「お、おぼべぇーっ!」
もはや言葉がまともにならないようだ。
カオルがしばらく待っていると、オーロイス伯爵側から兵士たちがやってきた。どうやら、馬車から逃げた馬が対岸まで到達したようで、兵士たちが様子を見に来たようだった。
「こ、これはカオル殿。どうなさったのですか、この状況は」
「見ての通りだ。こいつら、橋を爆破して回っていたみたいだ。これじゃ、旦那様も戻ってこれねえ」
「な、なんと! 橋が、なくなっている!」
目の前の惨状を見た兵士たちが騒ぎ始める。
「こいつらが一応容疑者だ。魔法の使えるような連中には見えねえから、多分馬車の中に秘密があるんだろう。絶対に吐かせてくれ」
「しょ、承知致しました。では、応援を呼んでまいります!」
やってきたのは一人だったので、とても対処できないらしい。
再び兵士が戻ってくるまでにはかなりの時間があった。どうやら橋を渡っていた人たちに引き返すように指示を出していたものだと思われる。
兵士たちが男たちを捉えている間、カオルはじっと目の前の光景を眺めている。
(リバーファングが襲ってこないな。いよいよ俺の強さに恐れをなしたか。ならば好都合というものだな。試してみたいことがあるんだよなぁ)
じっと壊された橋を見ていたカオルは、なぜか再び刀に手を添えている。
再び腰を深く落としたかと思えば、その目がきらりと輝く。
「抜兎術、地!」
風魔法を飛ばす抜兎術・空を土魔法に置き換えてみたのだ。
そもそもカオルは風、土、無の三属性に適性がある。ならば試してみる価値があるのではと考えたというわけだ。
空と同じ要領で放たれた斬撃は、なんと、壊れた橋の部分に盛り土を出現させてしまった。これには馬車を調べていた兵士もびっくりである。
「つ、つ、土が?! 一体どこから……」
「うーん、やっぱりイメージかなぁ。鉄道の盛り土みたいになっちまったじゃねえか。これじゃ、川の流れで簡単に削れるな、くそっ」
一応魔法を発動させることには成功したものの、考えていたものとは違う結果が出てしまって、カオルは悔しそうである。
怪しい連中を捕らえたのはいいが、爆破崩落してしまった橋の修繕には少しばかり時間がかかりそうである。




