第48話 爆発と追跡
ミリスリーナ伯爵の側にも、やはり怪しいやつは入り込んでいた。そいつをとっ捕まえて安心したのも束の間のことだった。
ドカーンッ!!
街の外から大きな爆発音が響き渡ったのだ。
大慌てでカオルたちは屋敷の外へと出て、サズー川に架かる橋の様子を見に行った。
「うっわぁー……。マジでやりやがった……」
川に架かる橋の途中から、もうもうとした煙が上がっているのである。
どうやらカオルが懸念したように、橋を落としにかかったようなのだ。
ドカーンッ!
立ち上がる煙を眺めていると、再び橋が爆破される音が響き渡る。
そうかと思えばもう一回。
「野郎……。旦那様の街に向かいながら、次々と橋を爆破してやがる……。これじゃ、旦那様に容疑がかかっちまうじゃねえかよ」
怒りのあまり、ギリギリと歯を食いしばっている。
「もう見てられねぇ。旦那様、俺、ひとっ走りして連中をぶちのめしてきます」
「お、おいっ、カオル!」
オーロイス伯爵は止めようとするも、カオルはそのまま突っ走っていってしまった。
「オーロイス、なかなか血気盛んな若者を手に入れたようだな」
「え、ええ……。そうですね」
ミリスリーナ伯爵に肩を叩かれたオーロイス伯爵は、なんとも呆然とした感じで返事をしているのだった。
一人で突っ走っていくカオルだが、当然ながら橋を渡っているとリバーファングたちに襲撃される。
あれだけ倒したというのに、一体どこにどれだけ隠れているのやら。
「邪魔だ!」
カオルは抜兎術を使い、リバーファングを真っ二つにしていく。ぼとぼとと気持ち悪いくらいに橋の上に落ちていくのだが、今はそんなものに構っている場合ではない。
しばらく進むと、止まってしまっている馬車が見える。つまり、その目の前では橋が崩落しているというわけだ。
「あらよっと!」
カオルは馬車を踏み台にして、大きくジャンプをする。
元がウサギの魔物だけに跳躍力には自信がある。馬車てっぺんは地面から二メートル以上の高さがあるので、それだけの高さがあれば、勢いを利用してやればかなりの距離を跳べる。
「う、うわぁ……」
馬車から飛び越えるので、当然ながら御者からはスカートの中が丸見えだ。覗かれたところで中はドロワーズだ。なに、気にすることはない。
何事もなかったかのように、カオルはそのまま壊されたその先へと無事に着地をして走っていく。なにせ早く止めないと、橋がシャレにならないレベルで壊されてしまうのだから。
走り去っていくうさ耳メイドの後ろ姿を、馬車に乗る人たちは呆然とした姿で眺めていた。
いくつ壊された箇所を飛び越えてきただろうか。
その度にリバーファングの襲撃を受けて、カオルはげんなりしている。
(まったく、こんなに倒しているのにまだいんのかよ。どんだけ繁殖力が強えんだ、リバーファングはよ)
おそらく一千匹以上はもうぶっ倒している。それでもまだ襲撃を受けるのだから、もうゲームの世界かよという気分になってくる。
やはり、巣を作ることと天敵がいないという状況が、リバーファングをこれだけ増やす結果になったのだろう。それでいて誰にもその存在を気づかれていないのだから困ったものだ。
(見えた!)
カオルの視界に、先へと進んでいく馬車の姿が捉えられる。
この馬車が通り過ぎた後に橋が大爆発を起こしているので、この馬車が原因とみて間違いないだろう。
「止まれ!」
カオルはさらに加速し、馬車を飛び越えてその目の前に降り立つ。
「うわぁっ!」
急に現れたカオルを見てびっくりした御者が馬車を急停止させる。
「あ、危ないじゃないか!」
「悪いな。あんたらには橋の爆破犯としての容疑がかかっている。悪いが、改めさせてもらうぜ」
「め、メイドごときに何の権限があって……」
馬車の中を調べようとするカオルに、御者が文句を言ってくる。
「悪いな。俺はオーロイス伯爵付きの侍女なんだわ」
カオルがそう答えた瞬間だった。
「うおっ!」
馬車が唐突に走り始めた。
「やっぱそうか! 逃がすかよ!」
走り始めた馬車を見て、カオルは追いかけることなく、刀に手を添えている。
「抜兎術、閃!」
カオルは馬車に向けて抜兎術を放つ。狙ったものだけを斬り裂く”断”である。
次の瞬間、馬車が急激に失速する。
「う、馬が!」
そう、馬車と馬をつなぐ木材や手綱といったものだけを斬ってしまったのだ。
なので、馬車からフリーになった馬は、完全に放馬をしてしまったのである。馬車もしばらくは惰性で走り続けるが、推進力を失った状態では、摩擦で徐々に失速して止まってしまったというわけである。
「くそっ!」
「おっと、それまでだ。てめえらが橋を爆破した犯人で間違いないんだな?」
「な、なんのことかな?」
とぼける御者だったが、カオルが刀を目の前に突き立てる。
「ひっ!」
「素直に吐いた方が身のためだ。さぁいえ、何のために橋を壊していた。知ってるんだろ、この橋がどういう位置づけにあるのか」
カオルは御者に迫っていく。その時だった。
左側から殺気を感じたカオルは、とっさに後ろに飛びのく。
「おいおい、なに邪魔してくれてんだよ」
「変な言いがかりはよしてもらおうか」
声を聞いて顔を上げたカオルの目の前には、いかにも悪そうな顔の、武装した男たちが立っていた。




