第46話 対岸の街と初対面
屋敷を飛び出したカオルとオーロイス伯爵は、門番のところへと向かう。理由は橋に異常がないかの確認をするためだ。
リバーファングによる妨害や、領主の殺害に失敗したのなら、次に考えられるのは橋の破壊。そう、物理的な妨害工作に出る可能性があったのだ。
だが、門番の回答は怪しい者はいないというものだった。
正直なところ疑わしくは思うが、橋はオーロイス伯爵側だけで管理しているわけではない。門番には引き続き警戒をするように伝えると、伯爵は橋を渡り始める。
だが、カオルも同行しているということは、当然予測される事態が起きる。
バシャバシャバシャッ!
そう、リバーファングたちの襲撃だ。
リバーファング全体でカオルのことを敵認定しているのだ。当然ながら飛び掛かってくる。
「いちいち相手してられねえ! 抜兎術、断!」
カオルは最大出力で抜兎術を繰り出す。すべてを断ち切る”断”である。
その威力は恐ろしいもので、リバーファングだけではなく、川の流れはおろか川底まで斬ってしまっていた。すべてを真っ二つにする瞬間を見てしまったオーロイス伯爵は、思わず青ざめてしまう。そのくらい、とんでもない威力だったのだ。
「急ぎましょう、旦那様。もちろん、怪しいものがいないか最大限注意しながらですが」
「ああ、そうだな。対岸にも協力してもらう必要があるからな」
馬で橋を渡るオーロイス伯爵に対して、カオルはなんと自力で渡っている。そんな状態だというのに、全力の馬にしっかりとついていけている。改めて、カオルは自分の身体能力の高さに驚かされている。
そうしている間にも、二人は対岸に到着してしまう。その間に、カオルは何度もリバーファングを刀の錆に変えており、その好戦的な姿にげんなりしている。
「すまない。対岸のオーロイスだが、怪しいものは見なかったか?」
「これはオーロイス伯爵様。いえ、私は特に見ておりません」
オーロイス伯爵の問い掛けに、門番は正直に答えている。見ている限り、嘘ではなさそうだ。
「そうか。この川にはこんな魔物が住みついている。正直言って、私としてもふがいないと思っている。ここまで来るまでにも大量に倒したというのまだいるみたいなのだ」
「こ、これは、リバーファングですか。冒険者ギルドの図鑑でしか見たことない魔物ですよ。なぜこのようなものが……」
門番も図鑑を見て姿を知っていたようで、見ただけですぐに分かってしまっていた。それだけ冒険者ギルドには徹底して情報が出回っているらしい。
「分からん。だが、私の命を狙った連中がいるので、おそらくは王国を目の敵にしている連中がいるのだろう。こちらの領主にも既に話はいっていると思うが?」
「ああ、そういえば来ましたね」
門番は覚えていたようで、あごに手を当てながら考えるような仕草をしている。
とりあえず話を終えたオーロイス伯爵は、対岸の領主に会うために街の中へと入っていく。
初めてやってきた対岸の街だが、こちらの街もオーロイス伯爵の治める街と似たような雰囲気になっている。
街を移動するカオルたちだが、当然ながら周りから視線を一身に浴びている。
「めっちゃ見てくるな」
「それはそうだよ。君のような姿を珍しいんだ。カオルは時々自分の姿を忘れているな」
「あっ。そ、そうでしたね」
伯爵に言われて、カオルは自分がどういう姿をしているのかを思い出していた。
服装こそはメイド服だが、顔はどう見ても垂れ耳ウサギなのだ。見るなという方が無理である。だが、今さら隠したところでもう遅い。カオルはあえて堂々と伯爵の少し後ろを歩くことにしたのだった。
そうしてやってきたのは、対岸の街を治める領主の館。オーロイス伯爵領と隣接する、ミリスリーナ伯爵家の屋敷である。
オーロイス伯爵がやって来ると、屋敷の衛兵が止めてくる。伯爵はいいとして、後ろにいるカオルを危険と感じたのだろう。まあ、しょうがない反応である。
「このメイドは私が雇っている者だ。見た目はこんな感じだが、危険はない。ミリスリーナ伯爵に会わせてもらえるだろうか」
オーロイス伯爵が胸を張ってはっきりといえば、衛兵たちは主人であるミリスリーナ伯爵に来客を伝えに行った。その間、二人は待たされることになる。
しばらくすると衛兵が戻ってきて、中へと招き入れられる。
同じ川を挟む領主とはいえど、必ずしも仲がいいとは限らないようだ。
「伯爵様、オーロイス伯爵様をお連れしました」
「うむ、中へお通ししろ」
「はっ!」
扉が開き、中からこの街の領主と思われる男が姿を見せた。
オーロイス伯爵よりも年上で、オールバックの髪型。白髪交じりの頭を見る限り、初老という印象を受ける。
「久しいな、オーロイス。立ち話もなんだ、こっちに来て座りなさい」
「はっ、お言葉に甘えさせて頂きます」
オーロイス伯爵が丁寧に対応している。
なんとも眼光鋭い男性を見て、カオルの本能は何か危険な雰囲気を感じ取っているようだ。
サズー川の王都側を納めるミリスリーナ伯爵。彼は一体どんな人物なのであろうか。




