第45話 進まない調査と新たな不安
ライツという兵士と侵入者は捕らえられてしっかりと頑丈な牢へと放り込まれる。
そこは自決もできないように、魔法のかかった立派な牢屋だ。すべてを吐くまできっちりと聞き出すことになる。この二人にとってはおそらくこの世の地獄だろう。
侵入者によって襲撃を受けた使用人たちは、一応命に別状はなかった。だが、念のためにいろいろな検査を受けることになり、一時的に伯爵邸を去ることとなった。
「大丈夫でございますか、旦那様」
「ああ、一応ね。もうちょっとカオルが遅ければ、分からなかったがな」
「それはよかったですね」
ごたごたが一段落したところで、オーロイス伯爵とカオルはようやく胸を撫で下ろせたようである。
しかし、彼ら二人だけが犯人とは限らないので、まだ油断はできない。それに、カオルはいろいろとショックを受けている。
容疑者として目をつけながらもライツの悪意に気が付けなかったこともだが、その直後の侵入者の気配にまったく気が付けなかったことだ。
今の体は魔物の垂れ耳ウサギをベースにした人型の姿。魔物としての能力は残っているので、においや気配には敏感なはず。だというのに、両方とも気が付けなかったのは護衛を兼ねたメイドとしては失格だと考えている。
リバーファングや毒のことに気を取られ過ぎていたにしても、反省点が多すぎるというわけだ。
とはいえ、一時的にではあるものの、使用人が大量に抜けてしまう事態となってしまった。そこでカオルは、反省を兼ねて抜けた使用人の仕事を受け持つことにした。
早速仕事始めるカオルではあったが、やはり姿のことが影響しているのか、一部の使用人とはまだ疎遠なところがある。怖がって近づいてこないのだ。
結構、前世知識で篭絡はしたはずなのだが、屋敷で働く使用人は多いので、時間的なこともあってさすがに全員は落せていないのだ。よりにもよって、一時的に去ることになった使用人たちが、カオルに好意的になった使用人ばかりだったことも災いしたのだ。実に踏んだり蹴ったりである。
それでも、自分が未熟だったことから招いた事態なので、カオルはしゃーないかという感じで受け入れることにした。
こうしたカオルの気持ちの切り替えと、前世での一人暮らしのスキルや魔女のところで暮らしていた経験が活き、魔物として敬遠していた残りの使用人たちとも、案外簡単になじむことができてしまった。面白いほどみんなちょろかった。
メイドとしての仕事はこれで軽くなったかと思えば、今度は兵士たちに呼ばれる。
何かと思えば、剣術を教えてくれという話だった。
正直カオルの剣術は、前世で教えてもらった真剣を使った技術に、独自のものが混ざった独特なもの。とてもじゃないが人に教えられるようなものじゃない。
ところが、伯爵の危険な状況を救ったという話が伝わっているために、兵士たちからは尊敬のまなざしを向けられるようになっていた。
カオルは困惑している。
あれから七日が経過して、ようやく使用人の仕事も落ち着いたというのに、今度はこっちかと、なんともめんどくさそうな顔をしている。
結果、断るに断り切れず、伯爵家の兵士たちの剣術を見ることになってしまった。
「カオル、ずいぶんと疲れているようだな」
その夜、伯爵と久しぶりに食事をしたカオルはそのように指摘されてしまう。
「えっと……。そんなに顔に出てますかね」
「ああ、いつもの覇気がないから、私でもすぐに分かるよ」
「ははっ、はははは……」
オーロイス伯爵に理由を言われたカオルは、ただ笑うことしかできなかった。だが、カオルもやられっぱなしではない。
「そういう旦那様こそ、目にクマができてますよ。最近、全然休まれていなのでは?」
そう、オーロイス伯爵もあんまり顔色がよろしくない。
話によれば、ライツと侵入者の取り調べが進んでいないらしい。黙秘を続けているとのことで、リバーファングや毒草のことがまったく明らかにならないのである。
「なるほどですねぇ。結構、口が堅いんですか」
「ああ。二年間雇ってきたが、今までにまったく見たことのない感じで驚いているよ」
「ただ、動機は予測できますかね」
「想像くらいはつく。ここは王国の中でも主要な街道だからな。ここを落とせば交通が滞るゆえ、王国に大打撃を与えられると見たのだろう」
「そういうことですか」
伯爵の見立には、カオルもものすごく納得がいく。
なにせ王都側には大きな川が流れている。これだけの長大な川であれば、橋を架ける労力は相当なものだ。
カオルの現状の知識では、サズー川に架かる橋はこの街につながっているものだけ。
そこに思い当たった時、カオルの頭にとある可能性が浮かび上がる。
「旦那様」
「どうしたカオル」
急なカオルの発言に、オーロイス伯爵は驚かされる。
「橋、橋の警備はどうなっていますかね」
「人を配置するには現状は厳しいから、巡回という形で対岸との間で兵士を往復させているが……。カオル、一体どうしたというのかな」
「リバーファングの存在に気付かれ、旦那様の始末に失敗した。となると、あいつらが次に狙うのは……」
カオルの言葉に、オーロイス伯爵は青ざめる。
食事もほどほどにして、二人は早速屋敷を飛び出していったのだった。




