第43話 疑惑と知識
冒険者ギルドから人を呼んできて鑑定してもらった結果、オーロイス伯爵とカオルの食事の双方から毒が検出された。カオルの鼻は確実に毒を捉えていた。
ただでさえリバーファングの対応で面倒な状況にあるというのに、さらに面倒ごとが増えた。これにはオーロイス伯爵も頭が痛くなってくる。
「この街を共によくしようとしてきた仲間ゆえに、疑うのは正直心苦しいものだな。だが、私の命を狙ったとなれば、とてもではないが看過できない。徹底的に洗い出してやらねばならんな」
「その通りです、旦那様。俺の行動も原因でしょうし、協力しますよ」
「あ、ああ。頼む」
カオルが力強く協力を申し出れば、オーロイス伯爵は少し顔を上げて返事をしていた。
とはいえ、犯人探しは難航しそうだ。
それというのも、リバーファングがここまで増えるまで誰一人として気付かせることがなかったのだから。そして、料理に毒をしれっと混ぜ込ませるくらいだ。相手は相当の手練れである。
「それはそうと、カオルはよく気が付いたな」
「ああ、師匠に教えてもらってたことをとっさに思い出しただけですよ。結構印象に残ってるんでね」
オーロイス伯爵は改めて用意させた食事を食べながら、カオルに話しかけている。
ちなみにだが、この料理はカオルに作ってもらったものである。現在、オーロイス伯爵が一番信用している人物だから、安全だと考えられるというわけだ。
カオルの料理の腕前は、前世で一人暮らしをしていたこともあって相当なもの。ありあわせの食材でも、ある程度食べられるものができ上がっている。
「お食事中、失礼します!」
「どうした、騒々しい」
ノックをしつつも、返事を待つことなく兵士が部屋に入ってくる。同時にカオルが構えたため、兵士はびびっている。
そのカオルに待つように指示をしたオーロイス伯爵は、兵士からの報告を聞くことにした。
「先程、お二人に出された料理を川に捨てたところ、リバーファングたちが集まってきまして、食べてからしばらくすると、ぱたりと動かなくなって川に大量に浮かび上がってきました。調べてみたところ、毒物によって死んでしまったようです」
「そうか。リバーファングは雑食ゆえに、毒であっても平気で食べるとは聞いているが、まさかそこまでとはな……。とりあえず、数をさらに減らせてよかったよ」
「そうでございますね。私も昨日と今日と初めてリバーファングを見ましたが、なんて言いますか、グロテスクで怖いですね」
報告にやってきた兵士は、伯爵の言葉に同意しつつ、そんな感想を漏らしていた。こんな感想を言うということは、この兵士は本当にリバーファングを見たことがないのだろう。なにせ表情を見る限り、本当に怖がっていたのだから。
「それにしても、あれだけカオル殿が減らしてくれたといいますのに、まだあんなにいるんですね。とんでもない繁殖力で身震いがします」
「ああ。巣を作ってそこで繁殖をするらしいからな。カオルが大量に潰してくれたので、この調子ならだいぶ減りそうだ。お前は持ち場に戻って、引き続き監視を頼むぞ。くれぐれも周りに注意してくれ」
「はっ! では、失礼致します」
オーロイス伯爵から気を抜かないように追われた兵士は、元気よく返事をして持ち場に戻っていった。
誰が敵なのか分からない以上、兵士たちにも危害が及ぶ可能性は高い。だからこそ、オーロイス伯爵は最後のひと言を付け加えた。優秀な部下を減らすわけにはいかないのだ。
さて、兵士が去ったことで、オーロイス伯爵は話の続きをすることにしたらしく、カオルの方へと再び顔を向ける。
「時に、その師匠とやらのことを、詳しく話してもらえるかね」
「あ、いや、その……」
師匠のことを聞こうとすると、カオルはなんとも不可解な態度をとっている。さっきまでとはまるで様子が違うので、伯爵はどうしたのかと困惑している。
だが、伯爵がじっとカオルのことを見つめていると、カオルは圧力に耐えかねて渋々といった感じで話を始める。ただし、師匠が誰かということを知られるわけにはいかないので、そこはうまくごまかしながらである。
「……なるほどな。話を聞いている限り、かなり薬物知識がありそうな感じだな」
「師匠は本当にすごいですよ。あれこれ知っていますからね。俺のこの刀だって、俺から話を聞いた師匠が作ってくれましたからね。本当にあの人は天才ですよ」
師匠を褒められてちょっとだけ舞い上がってしまったカオルは、刀を作った人物も師匠であると口を滑らせてしまっていた。
「ふむ。鍛冶にも精通しているとなると、私も興味がわいてくるな。この事態が収束してからでいいので、私にも紹介してもらいたいものだな」
「いえ、それは無理ですね。師匠……、人を嫌っていますから」
伯爵はカオルの師匠に興味津々ではあるが、カオルの反応を見て、何かあるなと悟ったようだ。
現状、カオルの協力なしには事態は好転しないであろう。その心をあんまり乱すわけにはいかないと、伯爵はそれ以上を聞くことはしなかった。
「よし」
話を打ち切り、食事を終えた伯爵は立ち上がる。
「どうなされたんですか、旦那様」
「使用人たちの聴取だ。私たちの命を狙ったという事実がある以上、取り調べをしないわけにはいかないからな。カオルも同席してくれ」
「御意」
カオルも食事を終えると、伯爵と一緒に部屋を出る。
街の中にいる不穏分子。これ以上の活動を食い止めるためにも、その正体をはっきりさせるべく、伯爵とカオルは動き出したのだ。




