第42話 真相解明と解明の妨害
朝を迎えると、屋敷の裏手にはとんでもない惨状が広がっていた。
「なんだ、このおびただしい魚の量は」
「何がどうなったらこんなになるんだよ」
「おら、お前ら。つべこべ言ってないで片付けろ。魔石だけ回収したら、全部燃やせ」
「は、はい!」
明るくなってはっきりとした大量のリバーファングの死骸。屋敷と街の兵士に加え、冒険者ギルドまで加わって必死のお片付けである。なお、騒ぎを起こした当の本人であるカオルは、領主邸の中で反省中である。
椅子の上に正座をさせられた状態で、カオルは領主であるオーロイス伯爵の仕事を手伝っている。
「旦那様、さすがに足がしびれてきますよ」
「ダメだ。今日は一日、その状態で過ごせ」
「そんな、殺生な!」
正座を崩そうとしても、足はしっかりと椅子に縛り付けられている。動かそうと思えば動かせるのだが、その度にギラリとお目付の使用人の目が光る。
「まったく、確かに急いで対処した方がいいのはいいのだが、無茶をしてくれるなというものだ。おかげで、兵士総動員でリバーファングの処理にあたっている。これで街に何かあったらどうするというのだ。反省をしてくれ」
「わ、分かっていますよぉっ!」
椅子の上に正座は慣れないことなので、カオルの足は既に悲鳴を上げつつある。
こんな書類整理をさせるくらいなら、いなくなった兵士の代わりに街の警備をさせてくれればいいだろと思うカオルだが、試用期間中の使用人ではまったく文句の言える状態ではなかった。最悪追い出されるからである。
なので、カオルは甘んじて正座で事務処理の刑罰を受けている。
お昼を回った頃になると、ようやく伯爵のところに兵士がやって来る。
「伯爵様、ご報告いたします」
「うむ、申してみよ」
「はっ、ようやくリバーファングの解体が終わりまして、魔石をすべて回収いたしました」
兵士がこう報告すれば、大量の魔石が部屋に運び込まれる。二人がかりでも持ち切れないほどの重量と数である。なかなか見ることのない状況だった。
「ただ、素材ですが、腐敗が始まっておりましたゆえに、魔石以外の部分はすべて焼却処分いたしました」
「そうか。それで、地上に落ちていただけで、何匹くらいいたかな?」
「はっ、おおよそ二百かと」
「げっ……」
とんでもない数値が出てきて、カオルの表情が引きつった。
そう、地上に落ちた数だけで二百である。半分以上が川の中に消えたのだから、少なく見積もっても五百近くを討伐したことになる。
「どうしたカオル」
「いや、かなりの数が川に落ちたんで、地上だけで二百というのはさすがにねぇ……」
「まぁ、それはそうだな」
引きつった顔のまま答えるカオルに対して、オーロイス伯爵は淡々と頷いていた。そんなのは分かっているという感じである。
外壁からの明かりだけでよく見えなかったとはいえ、カオルはとんでもないことをしでかしていたものである。オーロイス伯爵が叱って当然なのだ。
これならば、少々遅くなっても伯爵に相談した上でやればよかったと、今さらながらに反省するカオルなのであった。
翌日、カオルは伯爵の仕事を手伝いにやって来ると、伯爵から別の仕事を言いつけられた。
「これから、川の中の巣を完全に潰す。お前も手伝うんだ、カオル」
「分かりましたよ」
そう。いよいよリバーファングの掃討作戦が実施されることになる。
だが、その前に腹ごしらえというわけで、カオルたちは朝食を食べることにする。
いつものように食堂……と思いきや、伯爵の私室の料理が運ばれてきた。
一体どういうつもりなんだろうなと思うカオル。
(ふぅ、実にいい香りだが、なんだろう、なんだか鼻につくような妙なにおいが混ざっているな。このにおい、どこかで嗅いだことが……)
カオルの脳裏に、何か記憶がよみがえる。
『この草は毒になる。絞った汁はにおいは弱いし、味もしない。こっそり始末するにはうってつけだぞ』
(そうだ。師匠が言っていた毒草のにおいだ!)
次の瞬間、カオルは叫んでいた。
「旦那様、口をつけてはなりません!」
その瞬間、部屋の中の使用人たちを含めて、ぴたりと動きが止まる。
「どういうことかな、カオル」
当然ながら、オーロイス伯爵はカオルに事情の説明を求める。
だが、説明するよりも先に、カオルは土魔法を使って扉を封鎖してしまう。逃げられては困るからだ。
「俺の師匠から教えてもらった毒草のにおいがかすかにしたんだ。使用人の誰かが、俺たちを始末しようとしたってことだな」
「めめめ、滅相もございません」
「なぜ、私たちがその様なことをしなければならないのですか」
カオルが語気を強めていると、部屋の中にいた使用人たちは震えながら弁明をしている。
「わかったわかった。とりあえず、料理を鑑定してもらわないと証拠は出てこない。今の話だとカオルの感覚だけが証拠だ。とりあえず落ち着いてくれ」
オーロイス伯爵は慌てなかった。いついかなる時も冷静沈着でいろという、先代からの言いつけを守っているのだ。
オーロイス伯爵は、すぐさま冒険者ギルドから鑑定魔法の使える職員を呼んでくるように指示を出す。
はたしてカオルの感じたにおいは本物なのか。本物だとした場合、誰が毒を仕込んだのか。
オーロイス伯爵邸の中に、緊張した空気が漂い始めた。




