第35話 中間地点と立派な街
乗合馬車で王都に向かい始めてから七日目を迎える。
街道沿いの魔物たちは普段から冒険者が処理をしてくれているので、実に平和なものだ。盗賊たちも、最初に出てきて以降はまったく出てきていない。
「はぁ、実に平和な旅だな」
「まあ、それが一番さ。その平和を守るために、お前が目指す王国騎士団や、俺たち冒険者たちがいるわけだしな」
馬車の隅っこの方でもたれかかって座るカオルとバリトンは、周囲を警戒しながら話をしている。
ところが、見た目がウサギの魔物であるカオルと、筋肉だるまでいかついバリトンには近づこうとする者は、いまだもって皆無である。
初日に盗賊から守ってもらえたことは知ってはいるのだが、だからといって一般人からすれば二人はお近づきになりたい雰囲気を持っていないということになる。
出発地点の街であんなに熱烈な見送りをされていたカオルだというのに、なんとも街の人と旅人の間の温度差があるものだ。
そうしている間に、空が少しずつ日暮れの赤色に染まり始めてくる。ということは、そろそろ次の宿場町が見えてくるはずだ。
「おっ、見えてきたな」
幌から外へと顔を出したバリトンが、前方に何かを見つけたようである。
気になったカオルも、同じように幌から顔を出して外を見る。
視線の先に見えてきたのは、これまでの宿場町とは様相の違う大きな街だった。
「おや、今までの街とは違うな」
「そりゃそうよ。あそこは領主様が治める街だからな」
「へえ。やっぱ国があるってことは領主もいるっていうことなんだな」
「お前、どんだけ世界のことを知らなすぎんだよ……」
話をしている二人だが、カオルの発言を聞いて、バリトンはあまりの知識のなさにびっくりしている。よくこんな状態で王国騎士団に入るとか言えたものである。
そこで、街の到着までもう少しあるので、バリトンは知っている限りのことをカオルに教えてあげることにした。
「っと、そろそろ街だな。お前はそんな姿だから念入りに調べられるだろうが、冒険者カードを渡して実績を見てもらえ。そうしたら、簡単に解放されるだろうからよ」
「へえ、姿よりも実績が評価されるのか。そいつは教えてくれてありがとよ」
「なあに。王都までは一緒に旅をする仲だからな。いいってことよ」
宿場町に到着するとあって、一度話を打ち切るバリトンだったが、カオルのことを心配して早く切り抜けるコツを教えている。
実際、街に入る前の検問で、カオルはバリトンの言ったとおりに念入りに調べられることになった。……のだが、冒険者カードを提示して内容を見てもらったら、本当にその場で解放してもらえた。その瞬間、マジかよとつい声に出てしまうほどだった。
「なっ、いった通りだろ?」
「ああ、本当にその時点で検査が終わったよ。サンキュな、バリトン」
「へへっ、いいってことよ」
カオルにお礼を言われたバリトンは、まんざらでもない様子である。
ただ、その間柄は男女というよりは、冒険者仲間といった感じである。互いに、そんなに大した感情はないようだった。
無事に乗合馬車用の宿へとやって来る。
そこで宿を見たカオルは、なんともびっくりした表情をしている。
「これまた、立派だな……」
「ここは金属卿って呼ばれるオーロイス伯爵の領地だからな。ああ、念のために説明しておくが、取引に使う硬貨が集まるっていう意味で金属卿って呼ばれているんだよ」
「なんだ、そういう意味か。びっくりさせんなよ」
金属卿って単語を聞いた瞬間にぎょっとしたカオルだったが、意外ながらも割と問題のない由来で落ち着いたようである。
「ってことは、ここは伯爵領の中心地ってことか」
「ああ、交通の要衝だからな」
カオルの言葉を聞いて、再びバリトンが説明を始める。
ここは王都とカオルがいた街以外にも、別の街とを結ぶ街道が十字に交わるポイントなのだ。
街の中は、正円を描く街をそれぞれの街道が直交しており、そこには豊かな地の象徴として噴水が設けられている。
ちなみに領主邸は、王都側の出入り口の近くにあるらしいが、正確な位置までは分からないとのことだった。
バリトンはただの筋肉だるまだと思っていたようだが、意外にも博識なことを知らされて、カオルは目を丸くしてしまっている。
「バリトン、お前って見た目と違っていろいろ知ってるんだな。見直したぜ」
「そりゃまあ、冒険者としてあちこち行っているからな。俺の出身はここの一個前の宿場町の近くだし、このコインタの街も庭も同然なんでね」
「へぇ……、なるほどな」
バリトンの話を聞かされていて、カオルはさっきから驚きと感心を繰り返してばかりである。それだけ、バリトンの話が意外過ぎたのだ。
「だが、明日の朝もまた驚くことになるぞ」
「へえ、それはどういうことなんだ?」
「なーに、明日になればわかるさ。とりあえず、まだ半分なんだ。ゆっくり休んで残りに備えておけよ」
「ちぇっ、まったく子どもを見るように対応しやがって」
やたらと聞きたがるカオルを、バリトンは軽くあしらっている。その態度は、確かにあれこれ知りたがっている子どもを諭す大人のような振る舞いである。カオルが気に食わないのも仕方ないのかもしれない。
だが、確かにバリトンのいう通り、王都までの道のりのまだ半分が過ぎたばかりだ。
話はここまでで打ち切りにして、翌日以降に備えて、しょうがなく休むことにしたカオルなのであった。




