第33話 野宿と襲撃
初日から他の冒険者に絡まれるというトラブルはあったものの、あっさりと撃退したことですっかりカオルの立ち位置が決まってしまう。
見た目はメイドだが、戦闘技術も高いとあってあっという間に一目を置かれるようになっていた。
夜を迎えることになったのだが、この日は街がない場所で迎えてしまったために野宿だ。
普通ならばトラブルなくたどり着ける場所には街を設けるところだが、立地的に厳しい場合もある。今日のところはその設置の厳しい場所だったようだ。
馬車は護衛を務める冒険者たちが守るので、一応、一般人は安心といったところだ。ましてや、今回は強いメイドがいるのだから。
カオルは、魔女のところで家事手伝いをしていた経験を活かし、乗合馬車に積んであった食材で料理を作っている。もちろん、数日分の食料なので、無駄遣いはできないのは分かっている。なので、自分も持ち合わせも出して少しでも賑やかな食事を用意している。
(まったく、前世の一人暮らしの技術が活きてくるな。役者としてパッとしなかった頃は、節約としてありあわせの食材で料理をしたこともある。こういうのは手慣れたもんよ)
こうやってあっという間に作ったありあわせの料理は、意外と受けていた。見た目こそ人外であるものの、カオルは確かな信頼を勝ち取っているようである。
食事が終わって一般人たちが寝静まると、カオルも冒険者の一人として寝ずの番に加わる。
「お前がいるなら、任せてもよさそうなんだがな」
「よせよ。そうしたら俺の休む間がなくなる。短くともきちんと睡眠をとっておかないと、パフォーマンスは低下するもんだ」
「ぱ、パフォーマンス?」
「仕事の効率ってやつだな。睡眠が足りてないと頭の働きが悪くなる。そうなれば判断力や動作にも影響が出るからな」
「なるほどな」
カオルに一発で分からされた冒険者は分かったような分かっていないような反応をしている。
だが、カオルはそれ以上の説明はしなかった。理解に時間を取られるのもまた、パフォーマンスの低下につながるからだ。
「で、気が付いているかな」
「何をだよ」
カオルは声のトーンを下げて、冒険者に話しかけている。だが、冒険者は何のことやら理解できていないようだ。
「囲まれている。まったく、こんな乗合馬車を襲ったところで、たかが知れているだろうにな」
「……敵襲か?!」
冒険者は剣を握って構える。
「ああ。全部で十四ってとこか。で、こういう場合はどうしたらいいんだ? 無傷で捕まえるべきなのか、それとも息の根を止めていいのか」
「襲われたのなら、正当防衛で殺しちまっても問題はない。だが、基本は生け捕りにして冒険者ギルドに突き出すことになっている」
「分かった。じゃ、こっちのことは頼むぜ」
「お、おい……!」
カオルは話をしていた冒険者を放って、一人で飛び出していく。
これから魔女の仇を取るために王都まで行かなきゃいけないのだ。こんなところで雑魚の相手をしていられない。立ちふさがろうとするものはすべて排除するまで。
そう、目的のためにカオルは鬼となっていた。
ウサギという体を活かし、静かにカオルは盗賊たちへと詰め寄っていく。白い毛並みも、メイド服のおかげでほとんどが目立たないので、意外と闇夜に紛れられていた。
ある程度、盗賊に近付くと、カオルは刀に手をかける。
「抜兎術……、衝!」
左足を大きく踏み込んでブレーキをかけたかと思うと、その勢いを利用して、刀を一気に振り抜く。
断でも空でも閃でもない、新たな抜兎術の披露だ。
カオルの振り抜いた刀からは、空気の塊が放たれる。軌道がそのまま分厚い装甲となって、盗賊たちに襲い掛かっていく。
「お頭、あれって……」
「うん?」
盗賊たちも見張っていた割には気付くのが遅れる。
「あばらっ!」
突如襲ってきた衝撃波に、まったく構えることもできず吹き飛ばされてしまっている。
強い衝撃に吹き飛ばされた盗賊たちは、そのまま地面に強く叩きつけられている。あまりにも突然のことで、受け身も取れなかったのですっかり目を回してしまっているようだ。
「ちっ、ちょっとやりすぎたな。まあいいや。あとでぐるぐる巻きにして、兵士どもに突き出してやるからよ。今はそこでおねんねしてな」
盗賊たちが気絶したのを確認したカオルは、肩に刀をとんとんとさせながら、盗賊たちに吐き捨てていた。
「なんだ、てめぇ」
「なにって、ただのメイドだよ。ちょっと刀が使えるだけのな」
「くそっ、やっちまえ!」
目の前で仲間がやられた盗賊は、一気にカオルに対して襲い掛かる。
だが、頭領が一撃でやられて気絶した状態では、まったく統率が取れていない。そんな状態では冒険者として経験を積み、ウサギとしての能力も持っているカオルにはまったく敵わなかった。
「ほれっ、とっとと縄で縛りあげてくれ」
「お前……、本当に何者なんだよ」
「何者って、冒険者をちょっとやったくらいの、ただのメイドだよ」
気絶した盗賊たちを引きずって戻ってきたカオルを、護衛をしている冒険者たちが驚愕の表情で出迎えていた。
「お前みたいなメイドがいてたまるか!」
質問にはぐらかすような感じで答えるカオルに対して、冒険者たちの叫びが夜空にこだましているのだった。
なんにしても、一件落着である。




