第31話 カオルと近付く旅立ち
それからというもの、王国騎士団の入団試験を受けられるようになるため、カオルはゴードンのところでひたすら依頼をこなして回った。
王国騎士団に入るために、地方での実績ももちろんだが、王都でも目立つ実績を上げる必要がある。
だが、王都に向かうだけのお金が、今のカオルにはない。だからこそ、ゴードンの手伝いをしつつ、依頼をこなして回っているというわけだ。
最初こそ、メイド服を着た変な格好の冒険者としてしか見られていなかったのだが、実績を重ねていくにしたがって、周囲の冒険者たちは次第に黙っていっていた。
ゴードンの手伝いをしていることもあってか、街に出てきてから三十日も経てば、カオルの手元には相当の金額のお金が貯まることとなった。
「まったく、よく頑張ったもんだな」
いつものようにゴードンの手伝いをしにやってきたカオルに、ゴードンは感心したような声をかけている。
「なんなんですか、いきなり」
いつものように仕事をしに来たというのに、こんな声をかけられてはカオルが不思議がるというのも当然だろう。
だが、ゴードンがこのように声をかけるのも当然なところがあった。
ギルドマスターの手伝いというのは、意外と大変なことである。重要な書類も回ってくるし、期日だって短いこともある。なにより量が多いこともあって、人によってはあっさりと音を上げて脱落するものだ。
ところが、カオルはそんな仕事を、下地もなしに前世でいうところの一か月間、立派に勤め上げたのである。だからこそ、ゴードンはこんな言葉をかけてきたのだ。
カオルは前世のこともあって当然だろうと思うところだが、よくよく思うと休日がない状態でやり遂げただけに、ちょっと待てよ状態となっていた。
「あ、ありがとうございます」
ちょっと考え込んだ結果、お礼を口にしてしまっていた。
「だが、これでもまだ王都暮らしをするには、足りないっていうんだからな。王都はどんだけ金のかかる場所なんだろうなぁ」
「マジですか。マジで都会と田舎って相場が違うんだな……」
ゴードンが漏らした愚痴に、カオルは思わずびっくりしている。日本であったようなことが、この異世界でもあるとは思ってもみなかったらしい。
「まあ、もうひと月ほど頑張れば、大丈夫になる。正直なことを言うと、お前を王都になんて出したくはないだがな……」
「いやぁ、俺も面倒は避けたいところですが、目的を果たすためには王都に行かざるを得ないんでね」
「分かっているよ。俺には止める権利はないからな」
そういって、ゴードンは机から書類を取り出している。
「それは?」
「俺からの推薦状だ。こういうのがあった方が、別の場所で働く時には有利になるんでな。田舎とはいえ、ギルドマスターの推薦状ってのは、結構効果があるんだよ」
「そうなんですね。まあ、王都に行く際には、ありがたくちょうだいしますよ」
「ああ。だから、もうひと月はうちで頑張ってくれよ」
「はい」
ゴードンからの眼差しを向けられて、カオルは誇らしそうにしながら、元気よく返事をしていた。
とはいえ、あとひと月でしばらくお世話になった街とお別れになるのかと思うと、ちょっと寂しくなってしまうものである。
それでも、魔女の敵討ちをするという目的のためには、カオルは王都に向かい、国家の中枢である城の中へと入り込まなければならない。その足掛かりとして、王都への移住は避けられないのだ。
それからも、カオルはゴードンの手伝いをしながら、魔物の討伐や採集依頼などをこなし、こつこつとお金と実績を積み重ねていく。
さらに三十日が経過した時には、初級だった冒険者ランクも中級ランクまで上がっていた。
ちなみにだが、冒険者ランクは下から、初級、下級、中級、上級、超上級、特別級と六段階存在している。冒険者登録から六十日で中級というのは、なかなかに早いものだと思われる。
そうして迎えた六十日目の夜のこと、カオルはゴードンに呼び出された。
「お呼びでしょうか、ギルドマスター」
「ああ、入ってくれ」
「失礼します」
部屋に入ったカオルは、その様子を見てびっくりしている。今までに見たことのないくらいの料理が並べられていたのだ。
「いよいよ、王都に行くんだろ? この街での最後の夕食だ。少しくらい豪華にしたっていいじゃないか」
「ギルドマスター……。ありがとうございます」
予想外のできごとだったので、カオルはちょっと涙腺が緩んでしまう。
「これでお前と会うのは最後になるかもしれんが、あいつの忘れ形見が立派に旅立つのかと思えば感慨深い。もし、挫折しそうになったら、いつでも帰ってくるといいぞ」
「はい。そんなことはないとは思いますけれど、もしっていう時にはお言葉に甘えさせてもらいます」
優しく声をかけてくるゴードンとがっちりと握手をしたカオルは、席について食事をいただくことにした。
旅立ちの日を前に食べた晩餐は、なんだかちょっぴりしょっぱい気がした。
六十日間という短い期間ではあったものの、その間にカオルと街の人たちの間には、思った以上のつながりができてしまっていたようだ。
酔いつぶれて眠ってしまったゴードンを目の前に、カオルは一人黙って座って、夜空に輝く星を見上げているのだった。




