第30話 カオルと一つの道筋
「お呼びですか、ギルドマスター」
ギルドマスターの部屋の扉をノックしながら、カオルは中へと呼び掛ける。
「ああ、カオルか。やっぱり早かったな。とりあえず入れ」
「失礼します」
許可が出たので、カオルは部屋の中へと入っていく。
中へと入ると、そこで見たのは一枚の書類を手にしたゴードンの姿だった。
「お前ならすぐに終わると思っていたからな。とりあえず俺の横まで来てくれ」
「分かりましたよ」
ゴードンの言葉に少し納得のいかないような表情を浮かべたカオルだったが、言われた通りゴードンの隣に移動する。
「で、なんですかね」
とにかく何のために呼ばれたんだと、カオルは怪訝な表情を浮かべている。仕事の続きをさせるだけなら隣に立たせる必要はないし、疑いを向けるのも無理もない話なのだ。
「ああ。ちょっと朝から書類を整理していたら、面白いものが見つかってな」
「面白いもの?」
「プレセアのやつが指名手配を受けた時に一緒に配られた文書だ。俺は信じられないからと見ることもなくすぐにしまってしまってな。今日、久しぶりに整理をしていたら出てきたというわけだよ」
「師匠を手配した理由が書かれた書面ですか……」
ゴードンの説明を受けながら、カオルは渡された書類を手に取って目を通す。
さすがに数年も前の紙なので、少し傷みが目立っている。なので、カオルは慎重に手に取っている。
ゴードンの横に立ったまま、カオルは書面をじっくりと読んでいる。
「なんだこりゃ。師匠が国家反逆罪? 国家の転覆を謀ったとして、上記の者を討ち取ったものに膨大な報奨金を与えるだと?!」
「カオル、声に出ている。指名手配書は出回ったが、詳細なことは国家機密だ。声を抑えてくれ」
「あっ、悪い……」
衝撃的内容を見たカオルはつい大声で喋ってしまったものだから、ゴードンから注意を受けてしまう。さすがによろしくなかったと、カオルはその非を認めて謝罪している。
それにしても、見つかったからといってそれをすぐに見せてくれるとは、一体どういう意図があるのだろうか。カオルはゴードンへと顔を向けている。
「いや、お前が仇を討ちたいっていうから、その仇につながる情報を提示しただけに過ぎない。俺だって、プレセアのことはいまだに信じられないんだからな」
「ギルドマスター……」
腕を組みながら、椅子にもたれかかって大きく息を吐くゴードンの姿に、カオルはなんともいえない気持ちになっていた。
その姿を見たカオルは、再び書面に目を落とす。
その一番下には、この文書を発行したと思われる人物の名前が書かれていた。
「ネンイン・ミーラウル、こいつが発行人か。見るからに怪しそうな名前だな」
「そうか? ミーラウル家はそれなりの名家だぞ」
「そうなんだ」
カオルが名前を見て怪しんでいる。こう判断したのは、前世の知識があるからだ。アナグラムで並び替えてやれば、実にそれっぽい単語になるのだ。
ところが、次にゴードンから出てきた言葉に、カオルは驚いてしまっている。
「ああ。王国で一位二位を争う、魔法の名家だよ。俺たちの住む国どころか、近隣諸国にも広くその名は知られているんだ」
「へえ……。なら、なおさら怪しいかもなぁ」
ゴードンからの証言を聞いたカオルは、むしろ疑惑を深めていた。
それもそうだろう。魔女というのはかなり魔法に長けた人物であり、錬金術をも使う。
魔女本人の発言や、ゴードンの証言から察するに、おそらく魔女は平民であると思われる。となれば、魔法の名家の恨みを買ってもおかしくないというわけだ。
とはいえ、王国の重鎮であるのなら、それはそれで手が出しにくい。カオルは怪しいと睨みながらも、慎重にならざるをえなかった。
「今はやめておけ。実績もない上に、そんな姿のお前が何を言ったところで、誰にも相手にされない。投獄は間違いないだろうし、そうなれば逃げ出せたとしてもお尋ね者になるだけだ。プレセアのやつが、それを望んでいると思うか?」
「それは……そうだな」
魔女の書き残した手紙に、立派に成長することを望むと書かれていた以上、お尋ね者になることは避けなければならない。となれば、真っ当な手段で、このネンインとかいう人物のやってきたことを明かしてやる必要がある。
カオルは書類をゴードンに返すと、その目をじっと見つめている。
「決めた」
「何をだよ」
唐突な発言に、ゴードンは驚いた顔で尋ねている。
「師匠の仇を合法的に取るために、俺は王国騎士団に入る。そのために、冒険者としての実績を積み上げていくんだ」
カオルはしっかりとゴードンの目を見ながら、自分の決意を語っている。
最初こそその決意に驚いてはいたものの、固い決心を感じたゴードンは、嬉しそうに微笑んでいる。
「そうか。ならば、俺も協力は惜しまない。とはいえ、ギルドに回ってきている依頼を、少しだけ優先的に回せるようにすることくらいだがな」
「いや、その必要はないよ。優遇されたなんていったら、他の連中から恨みを買うだけだ。同じように依頼を受けてこそってもんだよ」
「……悪かったな。その通りだ、頑張ってくれ、カオル」
「ああ」
ゴードンと向かい合ったカオルは、その拳をこつんとぶつけ合って誓いを立てていた。
魔女の仇を取る。その目的のために、カオルの長い道のりはひとつの道筋を見出したようである。




