第29話 依頼の達成と報酬
どうにかこうにか、カオルは野ネズミ三十体の討伐を終える。
抜兎術と名付けた抜刀術を放ち、風魔法で野ネズミたちを浮かべて切り裂くだけという、実に単純な作業だった。
ただし、倒すのは、である。
倒した後は、一体一体魔石と取り出し、しっぽを切り落としていくのだから、それはもう面倒極まりなかった。
これがゲームであれば、一瞬で必要なアイテムに変わってくれるのだが、現実でそれを要求するのは酷というものである。なので、メイド服を汚しながらも、全部手作業で終えた。
野ネズミの討伐を終えて、カオルは街へと戻ってくる。
「おや、もう帰ってきたのか?」
門番はカオルの姿を見て驚いている。
解体の時の血があちこちについてはいるものの、思ったよりもきれいなメイド服に、それはもう目を丸くしてしまっている。
「ああ、もう終わらせたよ。数が多くていろいろと面倒だったがな。野ネズミ三十二匹、これからギルドに報告だ」
「そ、そうか。あと、その血は早いうちに洗った方がいいからな」
「戻ったらそうさせてもらうよ」
門番とのやり取りを終えたカオルは、さっさと街の中へと入っていく。振り返らないまま、門番たちにぶらぶらと手を振っていた。
「あれ、本当に野ネズミの討伐を終えたのか?」
「分からん。だが、腰にぶら下がっていた袋からは、確かに魔石同士が当たる音がしていた。冒険者ギルドのマスターが一目置いている相手だし、間違いないだろうな」
あまりにも堂々と歩いていくカオルの姿を見て、門番たちは信じられない気持ちを抱きながらも、その言動を信じるしかなかった。首を軽く左右に振った門番たちは、すぐさま門番の仕事に戻っていた。
カオルは冒険者ギルドの入口をくぐる。
さすがに真昼間の冒険者ギルドの中は人が少なく、あんまり視線を集めることなく、カオルは受付まで戻ってきた。
担当するのはリッツ。カオルのことは面倒を見てくれとゴードンから直々に頼まれているので、対応せざるを得ないのだ。
「お早いお戻りですね」
「ああ、もう終わったんでな」
リッツがカオルに言葉をかければ、カオルからは信じられない言葉が返ってきた。
もう野ネズミ三十体を倒してきたというのだから、そりゃまあ信じられない。
大きさがそんなに大きくなく、動きが素早い。攻撃力が弱いので初心者でもこなせる依頼ではあるが、そんな特徴から、大体度の冒険者もかなり時間をかけて狩ってくる対象なのだ。
それを、まだ昼前の時間で終わらせてきたというのだから、リッツは固まってしまったというわけだ。
カオルの方は、リッツがそんなことを思っているとも知らず、依頼書と討伐対象の証をカウンターの上に置く。
「か、確認しますね」
じゃらりという音を聞いて、リッツは戦慄していた。
くるりと振り返ると、カオルはじっとリッツの姿を見つめている。こんな表情を向けられては、戸惑っているわけにはいかない。きちんと仕事をしようと、査定部の職員を呼んで一緒にチェックを行った。
しばらくして、話を終えたリッツが戻ってくる。
「魔石三十二個、しっぽ二十七個、確かに確認しました。どうして尻尾が足りないんですかね」
不備があるので、リッツはカオルに確認をしている。
「ああ、俺の剣術で倒したのはいいんだが、加減できずにしっぽまでうっかり斬っちまってな。切れたやつも回収してあるから、確認してもらえるか?」
そういって、カオルはポケットから切り分けられてしまったしっぽを取り出した。
しっぽを見たリッツは驚いた。確かに、パッと見ただけで野ネズミのしっぽと分かる。だが、その状態はものすごく悪い。なにせ真っ二つ以上の状態にされてしまっているのだから。
「分かりました。その細かくなったのもこちらにお出しください。足りない五つ分かチェックしますので」
カオルから細かくなったしっぽを預かって再び鑑定を行う。結果、足りないしっぽ五つ分と確認されて、カオルは無事に依頼の達成をすることができた。
「まったく、何をやったらこんなに早く終われるんですか。野ネズミは素早いですから、それこそ魔法でも使わないとこうはいきませんよ」
「ああ、空気弾を撃ち込んで浮かせたところを、まとめて斬ってやったんだ。おかげで何匹か取りこぼしてしまったが、一気に倒せてなかなか爽快だったよ」
「そ、そうですか……」
ものすごく信じられないことをさらりと言ってのけたので、リッツの表情が引きつっている。
だが、これを聞いて、ギルドマスターが手元に置きたがるのもよく分かったというものだ。有能すぎる。
「はい、おめでとうございます。これが達成報酬ですね、お渡しします」
リッツはそういうと、カオルの前に積まれた硬貨を差し出していた。
目の前に積まれた硬貨を見て、カオルは嬉しそうにその硬貨を受け取っている。カオル自身は二回目の収入なのだが、今回は受けた依頼をこなしての収入なので、その達成感から笑顔を見せているのだろう。
「あっ、そうだ、カオルさん」
「なんだい?」
「戻ってきたらギルドマスターが呼んでくれと仰られていたのを思い出しました。なので、すぐにギルドマスターの部屋に向かって下さい」
「ああ、分かった」
慌てたようにリッツから告げられたカオルは、受け取った硬貨をメイド服のポケットにしまうと、受付の脇にある扉からギルドの奥へと向かっていったのだった。




