第28話 依頼と野ネズミ
カオルは、街の外へとやってきていた。
街行く人や門番には、ちらほらと視線を向けられていたのだが、冒険者カードもあることで何の問題もなく外へと出てこれたのだ。
「えっと、近くで草を食い荒らす野ネズミの退治ねぇ……。まあ、確かに迷惑っちゃ迷惑か。なんといっても街の近くだからな」
カオルが受けた依頼は、その通りである。
街の周りに生えている草は、街で飼っている馬などの家畜のえさになるので、根絶やしにされては困るのだという。討伐対象になっている野ネズミも同じ草を餌としており、そのネズミは爆発的に増えてしまう繁殖力を持つ。なので、草を食いつくされないように、時折間引く必要があるというわけだ。
「常設依頼とは言っていたが、そういうことなんだな。どこの世界でも、ネズミってのは厄介なんだなぁ」
依頼書を見ながら、カオルはため息をついた。
一瞬立ち止まりはしたものの、すぐさま、討伐対象の野ネズミが生息する地域にやって来る。
その場所を見たカオルは、あまりの状態に言葉を失ってしまう。
なんということだろうか。生息地と思われる一帯だけ、すっかり草がなくなっていた。食いつくされたのである。
「放っておくと別の場所もこうなるってことなんだよな。こりゃ、急がねえといけねえなぁ」
カオルは頭をぽりぽりとかいている。
ロップスと名付けられた垂れ耳ウサギの能力で、カオルは野ネズミの気配を探る。
(いたな……。ここから右手に少しいったところか。だが、かなり警戒されている感じがするな)
カオルは間違いなく野ネズミの気配を感じ取っていた。
野ネズミの討伐の証明は、魔物に存在する核である魔石と、ネズミの尻尾である。
野ネズミは小さすぎるので、肉を食べるには量が足りなさすぎる。魔石も石ころサイズというか砂利にも等しいものではあるが、それでも使い道はあるらしいので、回収対象となっているのだとか。
(あんまりかじってなかったが、この世界にも異世界ものによくある魔石ってのが存在しているのか。そういや、師匠も扱っていたっけかな)
カオルは魔女と一緒にいた頃のことを思い出していた。
刀を作ってもらった後には、近くで魔物の討伐も頼まれた時があった。その時にも、魔石なるものを回収するように頼まれていたのだ。食事のこともあったので、よくは分からないものの、カオルはしょっちゅう肉ごと持ち帰ったものである。
今となっては懐かしい記憶だ。
(っと、魔物の討伐をしなきゃな)
懐かしんでいる場合ではない。今は冒険者ギルドで受けた依頼をしっかりとこなすことが先決だ。
カオルは、腰に下げた刀にしっかりと手を当てている。
(抜兎術……)
足をしっかりと踏ん張り、刀に添える手に力が入る。
「空!」
一閃。
カオルは刀を振り抜き、風圧を発生させる。
野ネズミのいるあたりで着弾した風圧は、地面で大爆発を起こし、野ネズミたちが舞い上がる。
すぐさま刀を戻したカオルは、追撃となる二撃目を放つ。
「閃!」
素早く振り抜かれた刀から発生した刃が、爆発で浮き上がった野ネズミたちを切り裂いていく。
すべてを切り裂く『断』と比べると、特定のものだけを確実に切り裂く『閃』は威力に劣る。だが、バラバラになっていく野ネズミたちは、その威力の高さというものを物語っている。
「あっ、いっけね……」
カオルはしまったという表情をしている。
その理由は、討伐証明として持って帰らないといけないしっぽが、一部で細切れになってしまったからだ。魔石だけは斬らないようにと考えていたが、しっぽのことはすっかり失念していたのである。
「チュヂューッ!」
生き残った野ネズミたちが退散していく。だが、カオルはそれに構わず、まずは真っ二つになった野ネズミだけを確認することにした。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……、全部で十一匹か。いやぁ、自分でやった割には、なんともいえねえ悲惨な光景だな……」
目の前の地獄絵図に、カオルは表情が引きつっている。
とはいえ、これもこの世界のルールだと、やむなく割り切った。
野ネズミたちから魔石としっぽを回収すると、カオルは適性があるとして見出された土魔法を発動して、野ネズミたちの死骸を地面へと埋めてしまう。案外簡単に使えた魔法に、カオルは結構驚いている。
どうやら、魔法はイメージだというのは間違いなさそうである。
「よしっ、これでとりあえず依頼は達成かな」
そう思って、カオルは依頼書を確認する。
次の瞬間、カオルの表情が引きつった。
『野ネズミの討伐 30体』
まだ三分の一しか終わっていなかった。
それにしても、常設だというのにこれだけの数をまとめて要求するとは、野ネズミもどれだけ繁殖力が強いのだろうか。
カオルはやれやれと思いながらも、生息地に赴いては先程と同じような方法で野ネズミたちを撃退していく。
体感的に三十分もすれば、依頼達成に十分な数が集まった。回収用に貸してもらえた皮袋の中では、魔石同士がぶつかって音を出している。
「やれやれ。倒すよりもその後の回収の方がめんどくせぇ……。これも自動化してくれと思うが、リアルじゃあ無理だよなぁ……」
戻る準備のできたカオルは、愚痴をこぼしながら立ち上がっている。
しっかりと後始末もしたとあって、カオルは堂々と街に向かって歩き出したのだった。




