第27話 カオルと実績作り
魔女の仇を取りたいと思っているカオルだったが、ギルドマスターであるゴードンとの話の中で、仇が国の関係者であることを知った。
国が相手となると、さすがのカオルも無茶はできない。今はこうやって冒険者ギルドで世話になっている以上、自分の勝手で他人に被害を及ぼすわけにはいかないからだ。
(うーん。こうなると、俺は国の組織の中に入り込んだ方がいいのか? だが、それにはどうしたらいい……)
それからというもの、カオルはどうにかして合法的に仇を取る方法はないかと考え始めた。
ゴードンから話を聞いた翌日のこと、ゴードンから声をかけられる。
「カオル、ちょっといいか」
「なんですか、ギルドマスター」
カオルはきょとんとした顔をして作業にかかる手を止める。
「カオルは国の中枢に入り込むつもりはあるか?」
予想外の質問だった。
だが、すぐにこれは自分の気持ちを汲んでの問い掛けであることに気が付いたので、カオルはこくりと頷いている。
その姿を見たゴードンは、なにやら机の中から紙を取り出している。
「これは?」
「国の中枢に取り立てられるための方法を記したものだ。うちはかなり中心から離れた場所にはあるものの、過去にも国に召し上げられた連中は人物はいる。もちろん、今働いてる職員の中には、王都を目指す奴もいるんだ」
「へえ、そうなんですね」
ゴードンの隣に立った状態で、カオルはその紙に目を通している。
そこには、ゴードンが説明した通り、王都で働くための方法がいくつか記されている。それによれば次の通りだ。
十分な実績を積んで、王都にあるギルドに推薦されること。
同じように実績を積んで、城の文官に取り立てられること。
冒険者として十分な実績を積んで、王国騎士団の試験を受けて合格すること。
「ふむ。なるほど、戦力として取り立てられる方法もあるのか」
「ああ、とはいえ、ギルド職員になるとほとんどは一番上の王都の冒険者ギルドへの栄転くらいだな。下のふたつは難しい試験を受けて、それを突破しないといけない。それに、そこで働くのはほとんどが貴族だ。ぽっと出の平民など見下されて門前払いも珍しくない」
「なるほど……。身分による差別ってやつですね」
「そういうことだ」
ゴードンは話をしながらも、なんとも苦い表情をしている。この分では、あまりいい話を聞いたことがないのだろうと思われる。カオルはその心中を察していた。
「人間といってもこれだ。お前の場合はその見た目もある。なおさら厳しいだろうな」
「ああ、見た目は魔族ですもんね、俺」
「それに加えて女性だからな。うちの街みたいなところならいいが、王都ともなれば、特に貴族の間での女性の扱いは酷いものだ。結婚して子をなせばそれでいいってやつが多いからな」
ゴードンが王都の事情をいろいろ話してくる。それを聞けば普通は嫌がるところなのだが、カオルはかえってやる気ができてたようだ。
紙を机の上において、ダンと音を立てて手を勢いよく置いている。
「ははっ、そういう障害があればあるほど燃えるってもんですよ。師匠のくれたこの刀とともに、貴族社会に切り込んでやろうじゃないですか」
「おいおい、いうのは簡単だが、実行は難しいぞ。ただでさえ今のお前は俺の助手なんだ。魔物討伐の実績とか……」
「作ればいいんですよね?」
やる気を出しているカオルに対して、ゴードンが思いとどまらせようとしている。だが、カオルはその言葉を遮ってにこりと微笑みながら言い放つ。これにはゴードンも黙るしかなかった。
「もちろん、ギルドマスターの仕事も手伝いますよ。言いつけを守りながら鍛練をするようなことは、昔にも経験がありますからね。大丈夫、仕事をこなしながら魔物討伐だってやってやりますよ」
にこにことしているカオルだが、その背景にはめらめらと燃える闘志が透けて見えている。さすがのゴードンもこれにはため息が出てしまう。止めても無駄だという、諦めのため息だ。
わかったと言わんばかりに、ゴードンは無言で立ち上がると、受付に出向いてリッツに声をかける。
「なんでしょうか、ギルドマスター」
「こいつに、冒険者カードを作ってやってくれ」
「はい? カオルさんにですか?」
リッツが確認すると、ゴードンはこくりと頷いている。
事務員じゃないのかと思いつつも、リッツは冒険者カードを黙々と作り始める。一応、先日の訓練場での話は知っているので、確認をするだけで断ることはなかった。
冒険者カードを作るのは手慣れたもので、不思議な力でプラスチックのようなカードに情報が次々と書き込まれていく。
「カオルさん、最後に血を一滴お願いできますか?」
「ああ、構わない」
指を差しだすと、リッツはそこに針を突き刺して、カードに一滴血を垂らさせている。カードに血が触れた瞬間、きらりとカードが輝いた。
「これで登録完了です。私たち受付にこのカードを出して頂ければ、冒険者ギルドで仲介している様々な依頼を受けることができます」
「そっか。じゃあ、早速実績を積まないとな」
カオルはやる気十分である。
ところが、依頼を受けようとするカオルに対して、リッツはちょっと待つように言われてしまう。
「その前に、冒険者の仕組みについて説明しないといけません。そこに座って下さい」
そんなわけで、リッツから長々と冒険者のことについていろいろと聞かされることになった。
退屈な話ではあるのだが、カオルは最後まで真剣に聞いていた。こういうところは、前世の真面目な性格が影響しているのだろう。
「分かった。それじゃ、早速受けさせてもらうぜ」
リッツから注意を聞かされてもまったく怯むことのなかったカオルは、困った表情を浮かべるリッツから受けられる依頼を紹介してもらうことになった。
はてさて、カオルの記念すべき最初の依頼は何になるのだろうか。




