第23話 カオルとゴードンの苦悩
ロップス改めカオルは、冒険者ギルドで働くことになった。当面はゴードンが様子を見るということで、冒険者ギルドに住み込みとなる。
ひとまず、ここにいれば衣食住の心配はないだろう。
「リッツ、ちょっと商業ギルドまで依頼を出してくれないか?」
「ギルドマスター、一体何の依頼なんですか。私は受付であって、小間使いじゃないんですけれど」
ゴードンはリッツに思いっきり文句を言われている。先日からというもの、ゴードンからちょくちょく用事を頼まれるせいで、少し頭に来ているらしい。
「しょうがねえだろ。こいつの相手をしてもらえる女性がお前しかいないんだからな」
ゴードンはそう言いながら、自分のそばで働いているウサギの獣人へと視線を向けている。
そう、カオルは現在、ギルドマスターであるゴードンの付き人をして過ごしている。
カオルの方としては、さっさと魔女の仇を探したいところなのだが、冒険者ギルドで働いていればあらゆる情報が手に入るからと丸め込まれていたのだ。
カオルもカオルで、元々真面目な性分ゆえに、不満を持ちながらも仕事を一生懸命こなしている。
「それで、何の用なんですか」
カオルに視線を向けたリッツは、改めてゴードンに問いかけている。
「ああ、こいつのために、これと同じ服を用意してやって欲しいんだ」
「それって、ここに来た時に着ていたメイド服じゃないですか。ギルドマスターって、そんな趣味が……?」
ゴードンがずたぼろになったメイド服を取り出して話してくるものだから、リッツはものすごく嫌そうな表情を浮かべている。
「なんでそうなるんだよ。こいつは剣士だ。少しでも動きやすい服の方がいいだろうが。それに、こいつの気持ちを考えると、この服が一番いいんだよ」
ゴードンが必死の言い訳をしていると、リッツはカオルの方へと視線を向けている。
その視線に一瞬反応を見せるカオルだったが、再び黙々と作業へと戻っていた。こういうところを見るに、勤勉なタイプのようである。
「分かりましたよ。商業ギルドに見本を見せて、同じものを作ってもらいます。はぁ、少し給料をはずんでもらいますからね」
「まぁ、業務外のことだからなぁ。考えておくよ」
「では、行ってまいります」
ゴードンから破れたメイド服を受け取ると、リッツは頭に手を当てながらギルドマスターの部屋を出て行った。
その姿を、ゴードンはやれやれという表情で見送っている。
「なんで、メイド服を新しく?」
仕事をしながら、カオルはゴードンに尋ねる。
「プレセアのことを忘れないでもらいたいからな。俺にとっても、あいつは一番の仲間だからな」
「もしや、惚れてたんですかね、ギルドマスターは」
「……そうかも知れんな」
茶化すように発言したはずが、ゴードンは意外にも認めてしまっていた。これにはカオルも面食らってしまっていた。
「そこまで驚くことか。お前が手を止めるとはな」
「ハッ!」
ゴードンに指摘されて、カオルは自分の手が止まっていることに気が付いた。
その様子を見たゴードンは、小さく笑っている。
「実際、あいつと別れてからというもの、以前よりも冒険を楽しめなくなった感じは否めなかったからな。冒険者を引退して、ギルドマスターになったのも、そういうことがあったからだ」
「そうですか。それはすみませんでしたね」
ゴードンの話を聞いて、カオルは淡々と謝罪すると再び業務に戻っている。自分は居候の身だからと、やることをやるべきだと思っているからだ。
どこまでも仕事人間だなと、ゴードンは困った笑いを浮かべている。
「とりあえず、もうしばらく体を動かすことは我慢しておくれ。その制服じゃ、体を動かしづらいだろうからな」
「分かりましたよ。俺だって子どもじゃないですから、そのくらいの我慢はできますよ」
ゴードンから声をかけられたカオルは、手を止めて真顔で言葉を返している。
「にしても、女物の服ばっかり着せられるとはな……。この体が、本当に女だってことを、嫌でも認識させられる」
「なんだ、違うのか?」
「あ、いえ。こっちの話ですよ。実際、このウサギの体はメスを使ったということなので、俺が女なのは変えられない事実ですからね」
「……わけがわからんな」
カオルの言い分に、ゴードンはあごに手を当てて首を捻っている。まるで自分は男だと言わんばかりの言い分なのだから、今のカオルしか知らないゴードンが理解できるわけがないのである。
とはいえ、余計なことに気を取られて業務を遅らせるわけにもいかないので、ゴードンは気を切り替えて自分のやるべきことを再開させた。
その間も、ゴードンはちらちらとカオルの様子を見ていた。
魔女を殺され、気が気でないだろう。しかし、今は我慢してもらうしかない。
(犯人に目星はついてはいるんだが、いかんせん証拠がな……。こうやって業務を片付けている間に、犯人につながる証拠でも出てくるといいのだが……)
業務を続けながら、ゴードンは大きなため息をついていた。
カオルの復讐を応援してやりたいのは山々だが、冒険者ギルドのマスターであるがゆえに自由に動けない。
なんとも歯がゆい日々を送らざるを得ないカオルとゴードンなのであった。




