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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第22話 カオルと新しい生活

 ロップスが家を失ってから十日後のことだった。


 近くの街で大きな叫び声が響き渡っている。


「ギルドマスターっ!」


「なんだ、騒々しい」


 冒険者ギルドのマスターをしているゴードンのところに、門番が飛び込んできた。その表情は青ざめている。

 仕事をしていたゴードンは、あまりのうるささに顔をしかめながら反応している。

 しかし、ギルドマスターであるために、その報告は受けずにはいられない。やむなく仕事の手を止めて報告を聞くことにする。


「何があった」


 両肘をつきながら、門番の顔をじっと見つめている。


「はっ、ご報告いたします。街の外に、メイド服を着たウサギの魔物が現れたのです」


 報告を聞いたゴードンの眉がぴくりと動く。

 さらに詳しく聞いてみると、ゴードンに会わせろと叫んでいるらしい。


「そうか。案内してくれ」


「し、しかし……」


「命令だ。とにかくその魔物に会わせろ」


「はっ」


 渋る門番ではあったものの、ゴードンから強く念を押されてしまっては、断ることはできなかった。おとなしく、街の外に座り込むメイド服を着たウサギの魔物のところへと案内することになった。


 街の外にやって来たゴードンは、そこにあった姿にはっとした。

 前回はどことなく柔らかい雰囲気のあったというのに、今目の前にいるロップスは、かなり気の立った雰囲気を放っている。


「こんな風になってしまって……。すぐに俺の部屋に案内しよう。そこで話を聞く」


「ギルドマスター?!」


 ゴードンがすぐに下した判断に、門番たちは驚いてしまっている。

 だが、そんな門番に構うことなく、ゴードンはロップスを抱えて冒険者ギルドまで連れて帰った。


 冒険者ギルドに戻ってきたゴードンは、すぐさまリッツに頼んで飲み物を用意してもらう。とにかく今はロップスに落ち着いてもらわないといけない。

 リッツが飲み物を持ってくるまでの間、ゴードンはとにかく気を遣っている。

 しばらくしてリッツが飲み物を持ってきたのだが、すぐに人払いを命じて退出させてしまった。心配そうに見ているリッツだったが、信用のある職員ですらも今はそばに置いておけないというわけ。ぐっと唇をかみしめて、ゴードンに従って部屋を出て行った。


「人払いはしたぞ、ロップス」


 ゴードンが声をかけるも、険しい表情をまったく崩そうとしない。


「まぁ、大体想像はつくがな。そんな恰好でここへやって来たということは、プレセアに何かあったんだな」


 ゴードンがこう言った瞬間、ロップスのひげがぴくりと動いている。

 やはりそうかと、ゴードンは思い詰めたような表情をしている。


「心配するな。俺とあいつは昔からの仲だしな。あいつにもしものことがあった時には頼むという風には言われている。お前の姿はなにかと言われることもあるだろうが、俺の権威とお前の実力で黙らせてやろうじゃないか」


 しっかり励まそうと、ゴードンはロップスに必死に声をかけている。だが、ロップスの状態はまったくよくなりそうになかった。

 やれやれという感じで、ゴードンはロップスをじっと見ている。


「とりあえず、お前はここで暮らせばいい。服も適当に見繕ってやるし、仕事だってその気になればいくらでも回してやるからよ」


 ところが、いくらゴードンが声をかけようにも、ロップスはまったく反応しない。それだけ傷ついているということだろう。

 話も終わったことなので、ゴードンはリッツを呼ぶ。


「お呼びでございましょうか、ギルドマスター」


「ああ、こいつを風呂に入れて服を着替えさせてやってくれ。さすがにこれだけボロボロじゃ、ギルドの中に置いておけないからな」


「承知致しました。では、こちらへ。えと……」


 リッツがロップスに声をかけようとするものの、何を言いよどんだようである。

 それは、名前が分からないからだ。


「……カオル。カオル・ロップス、そう呼んでくれ」


「分かりました、カオルさんですね。では、お風呂場に案内しますね」


「ああ」


 ロップスはリッツの呼び掛けに応じて立ち上がると、その手を引かれながら、ギルドマスターの部屋を出て行く。

 ゴードンはその後ろ姿を、心配そうな表情で見送っていた。


 しばらくして、ロップスは部屋に戻ってくる。


「おお、きれいになったな」


「ああ……」


 ゴードンが目を丸くしているものの、ロップスはあんまり口を開こうとしなかった。

 ちなみに今着ているのは、ギルドの受付に座る女性用の制服だ。そして、左の腰には刀がぶら下がっている。


「その武器は外さないんだな」


「師匠の、形見だからな」


「……やはりそうか。あいつも遅かれ早かれ、こういう日が来ると察していたんだろうな。それで、俺に気付かれるのを承知で、お前を街へと寄こしたんだろう。まったく、あいつの勘の良さには、今も昔も驚かされる」


 ロップスが口にした言葉で、ゴードンはすべてを悟ったようだった。さすがは昔からの魔女の知り合いというものだ。


「まっ、しばらくはここでゆっくり過ごして、状況を立て直せ。今のお前じゃ、何をしでかすか分かったものじゃない」


「……分かった。では、しばらく世話になるよ」


「ああ、その代わり、ギルドの仕事を手伝ってもらうぞ、カオル」


 すぐにでも魔女の仇を取りに行きたいロップスだったが、確かに情報が少なすぎる。唯一持っていそうなやつは真っ二つにしてしまったし、その場には証拠がまったく残っていなかった。今はゴードンのいう通りにするしかないのだ。

 ゴードンからの提案を受け入れて、職員兼冒険者として冒険者ギルドで働くことになった。同時に、転生前の名前であるカオルと名を変える。

 魔女を殺した犯人を探すため、カオルの忍耐の日々が始まったのである。

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