第21話 ロップスと誓い
その頃のロップスは、魔女の言いつけ通りの場所までやってきていた。研究のために必要な薬草類を摘むためである。
ただ、なぜ急にこんな遠くの場所の薬草を摘むように言われたのか、ロップスの中では少々消化できずにいるようである。とはいえ、魔女の言いつけなので渋々という感じで、ロップスは現地に赴いたのだ。
薬草の摘み方についても、いろいろと注意を受けていたので、ロップスはそれに忠実に従いながら、薬草を一つ一つ摘んでいく。
ある程度、薬草を摘んだ時だった。
(うん?)
ロップスの中で、何かが騒めき始めていた。
(なんだ、この感じ。胸騒ぎがする……)
薬草摘みを頼まれていたとはいえど、ロップスはいよいよ大きくなった胸騒ぎに耐えきれなくなってしまう。
やむを得ず、薬草をしっかりとかごに詰め込み、ロップスは急いで家へと戻ることにした。
魔女の家へと戻ってきたロップスが見たのは、予想もしない状況だった。
「そ、そんな……。し、師匠の家が、燃えている?!」
目の前には大きく火の上がった魔女の家があった。さすがは魔女の家らしく、激しく燃え上がっているというのに、崩れ落ちるような気配はない。
ところが、どうしてこうなってしまっているのか、ロップスにはまったく理解ができない。
「なんだぁ? 妙なやつが現れたぞ?」
「どうしやすかね。こいつも殺っちまいますか?」
どこからともなく、聞いたことのない声が聞こえてきた。
ぴくりと耳を動かし、声の方向とは逆の方向に素早く退避をする。それと同時に、腰に下げた刀に手をかけている。
「誰だ!」
ロップスは声を荒げて叫ぶ。
そこに現れたのは、いかにも悪そうな外見の男二人。ショートソードと思われる短めの剣を持って、ロップスを見ながら気持ち悪い笑顔を浮かべている。
「てめえら、ここで何をしていた!」
「ははっ、正直に答えると思ってんのか」
ロップスが問い質すと、男はにやけた顔を浮かべながらバカにしたように言葉を返している。
「魔女の関係者なんだろうな、ここにやってきたってことは。ならば……、可哀想だがここで死んでもらおう」
この言葉でロップスは悟った。魔女の家に火を放ったのはこいつらだと。
その瞬間、ロップスに激しい怒りがこみあげてくる。ギンと鋭い視線を浮かべると、ロップスは手にかけた刀を素早く振り抜く。
「抜兎術……断!」
ロップスから鋭い横薙ぎの一閃が放たれる。
ところが、目の前の男たちには何も起きていなかった。
「おいおい、ただのはったりか?」
「あの長さの得物がここまで届くわけねえからな。さぁ、お相手をしてやるよ」
男たちがロップスを見ながらにやけている。
「……動くな」
「は?」
男たちに対して、ロップスの冷たく重い声が響き渡る。
「死にたくなかったら、動くんじゃねえ」
「いやいや、分からねえな」
忠告にもかかわらず、男たちは動こうとしている。
「はあ、もう手遅れか。そのままにしていれば、誰かに助けてもらえたろうによ」
「何を言ってやがる!」
ロップスの冷たい言葉に、男たちは逆上して飛び掛かろうとする。
ところが、男たちが前に進もうとしてもまったく進めない。どういうことなのか。男たちは自分の足元を見てみる。
「あで?」
「なんで、下半身がない?」
「お前たちはもう、死んでいる」
「いでぇ!」
「うびゃらあっ!」
なんということだろうか。男たちは腰から真っ二つになってその場に倒れてしまった。先程のロップスの一閃で、すでに真っ二つになっていたのだ。
ロップスはそんな男たちには目もくれず、燃え上がる魔女の家へと視線を向ける。早く消さなければ。ロップスはもう一度、太刀を鞘に納めてしっかりと構える。
大きく深呼吸をして、精神を集中させる。
「抜兎術、空!」
大きく振り抜いたロップスの刀から、強風が吹き荒れる。鋭く刃のようにした『断』とは違い、風圧を大きく広げる『空』は、魔女の家を囲む炎を一瞬で吹き飛ばしてしまう。
炎の吹き飛んだ家へとロップスは急いで向かっていく。
「師匠! 師匠ーっ!」
ロップスは大声で呼ぶも、魔女の反応はまったくない。
家の形こそ保っているものの、家は全体的に損傷が大きい。どこを見てもすべてが黒い灰になってしまっていて、どれだけ激しい炎が家を包み込んだのかがよく分かる。
家を一周してみたものの、家の中には魔女の姿はなかった。これだけ燃えてしまえば、ロップスの鼻も役に立たない。
見当たらない魔女の姿に、ロップスは愕然とする。
「そんな、師匠……。俺は、一体これからどうすれば……」
そんな中、家の目の前に黒い塊を発見する。燃え盛る家にばかりに目がいってたために、ロップスは今まで気が付かなかったようだ。
「し、しょう……」
その大きさから、ロップスは一瞬で悟った。そこに横たわる黒い塊が、魔女なのだと。
黒い塊を抱え上げると、その隙間からポロリと一枚の紙がこぼれ落ちる。これだけ激しく燃えているというのに、何事もなかったのように無傷である。
ロップスは紙を拾い上げる。
『すまんな、ロップス。おそらくおぬしが戻ってくる頃には、私は生きてはおるまい。私の因縁にお前を巻き込みたくなかったのでな、許しておくれ』
「師匠……」
どうやら書置きのようだ。だが、文面からするに自分が死ぬことを覚悟した遺書といえる。
『ここには住めなくなるだろうから、ゴードンを頼っておくれ。ただし、迷いの森から来たことをくれぐれも悟られぬようにな。お前が立派に成長してくれることを、心より願っておるぞ』
手紙を読んだロップスは、思わず涙ぐんでしまう。
「分かりました、師匠。俺は、師匠に師事できたことを誇りに思いますよ」
ゆっくりと立ち上がったロップスは、燃え尽きた家の近くに黒焦げになった魔女を埋葬する。
そして、薬草摘みのそのいでたちのまま、魔女の家を去ることにした。
「師匠、必ず仇は取りますからね」
墓の前で手をしっかりと合わせて誓いを立てたロップスは、ゴードンのいる街を目指して、遠回りで出発する。
魔女を殺した犯人たちに必ず復讐をしてやる。そのことを胸に、ロップスはしっかりと一歩一歩を踏みしめた。




