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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第20話 魔女と過去の因縁

 それは夜にさかのぼる。

 都の宿に泊まっている一人の人物が、なにやらぶつぶつとしゃべっている。


「ふふっ、これは間違いない」


 目の前にあるのは水晶球のようだが、それをじっくり見ながら不気味な笑みを浮かべている。


「ここには、あの女の痕跡がある。本人ではないようだが、その魔力は隠せないというものだ。ひひっ、先日大きな魔力の異変を感じたので、抜き打ちの視察と称してやって来たかいがあるというものだ」


 声の感じからすると男のようだが、その風貌からはどちらとも取れるような感じである。

 男はすっと立ち上がると、部屋にかけているローブを羽織る。


「さて、闇夜に乗じて、準備をしませんとねぇ……」


 真っ黒なローブに身を包んだ男は、こっそりと宿を抜け出していく。

 高い壁に囲まれた街を出るには、門番が詰める門を抜け出さないといけない。はたして、非力そうな男がどうやって抜けるというのだろうか。

 門までやって来た男は、当然のように門番に止められる。


「おい、こんな時間にどこに行くというんだ」


「怪しいやつだな。捕らえて冒険者ギルドに突き出すか」


「ひひっ、この私の邪魔はさせませんよ」


 男はにやりと笑うと、門番に向けて何か魔法を使っている。門番たちは目をぐるぐると回したかと思うと、男をすんなりと通してしまった。


「ひひっ、鍛えているだけのやつなど、私の魔法に抗えるものか」


 男は街を出て、迷いの森の方向へと急いだ。


 迷いの森までやって来ると、その前にはどう見てもろくでもなさそうな連中が待ち構えていた。


「遅かったですよ、旦那」


「すまないな。役人どもが頭が固くて、抜け出すのに手間取ったのだ」


 男はそのならず者たちと言葉を交わしている。


「にしても、何なんですかね、この森は。中に入っても、外に戻ってきてしまう。気味悪いですぜ」


「ここは迷いの森といってだね、特殊な魔法によって、方向感覚を狂わされるという森なのだよ。奥に進めないのはそのためだ」


「うへぇ……。なんでまた、俺たちを雇ってこんな場所に?」


 質問に対する男の回答を聞いて、ならず者たちは少しばかり怖気づいているようだ。

 ところが、男の方はその態度に構うことなく、聞かれたことに対して答える。


「ふふっ、お前たちへの依頼は、この迷いの森に住むとある人物の始末さ。なあに、私がいればこの程度の幻覚などたやすいから心配するな」


「で、そのターゲットってのは、誰なんですかい?」


 不気味に笑う男の様子に顔を引きつらせながらも、興味津々に問いかけている。

 そのならず者たちの態度に満足したのか、男の方はさらに歪んだ笑みを浮かべていく。


「魔女プレセア、だ」


 男が名前を告げた瞬間、ならず者たちは騒めいている。

 それもそうだろう。魔女プレセアは国家反逆の罪に問われ、とんでもない金額の賞金が懸けられているお尋ね者だ。仕留めることができれば、それこそ一生遊んで暮らせるような大金が舞い込むことになる。

 このことを聞いたならず者たちは、ものすごくやる気を出していた。


「さあ、行くとしようか」


「おーっ!!」


 男は魔法を使い、迷いの森の幻覚を打ち砕いていく。

 あっという間に道が開け、男はならず者を連れて奥へと進んでいく。


 しばらく歩いていると、魔女の今の住処が目の前に現れる。そこには、少し幼い印象を受ける女性が立っていた。


「おやおや、わざわざお出迎えですかな、プレセア」


「ふん、その名で呼ぶな。とうに捨てた名前なんだからな。にしても、物騒な連中を連れておるな、ネンイン」


「ええ。あなたを殺しに来ましたからね」


「ふん。一度も私に魔法で勝てなかった上に、冤罪を着せてでしか追い出せなかった男が、何を言う」


「黙れぇっ!」


 魔女にネンインと呼ばれた男は、逆上している。


「原因はどうあれ、今のお前はお尋ね者だ! お前さえ死ねば、名実ともに私が世界一の魔法使いになるのだ!」


「……まったく哀れよなぁ」


 あまりにも情けないとしか言いようのないネンインの姿に、魔女も呆れるしかなかった。いや、もう同情の域といってもいいくらいである。

 だが、そんなやり取りをしている中、魔女は唐突に違和感を覚える。


「むぅ、これは……」


 魔女は周りをゆっくりと確認する。隠れていたならず者たちが、魔女の家の周りに何かを仕掛けたようだった。


「ひゃーっひゃっひゃっ! お前の周りに、魔封じの罠を仕掛けさせて頂きましたよ。お前の魔力ならば時間をかければ解けるでしょうが、これだけの数を相手に、魔法なしでどれだけ耐えられますかねぇっ!」


「まったく、どこまでも汚いやつだな……」


「ひゃーっひゃっひゃっひゃっ! 生き残ったやつが正義なのですよ! 死ね死ねっ、むごたらしく死ねっ!」


 辺りにネンインの実に汚い笑い声が響き渡る。


(あやつがいれば問題なかったであろうが、これは私の問題だ。すまんな、ロップス。この場にお前を置いておけなかったことを、謝らせてもらおう)


 魔女はロップスを向かわせた方向へと視線を向けている。

 周囲には魔法の使えるネンイン、十名近くのならず者たちが群れている。

 魔女と過去の因縁との対決が、今始まろうとしていた。

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