第17話 居合と魔法
ロップスとの打ち合いに満足したゴードンは、街へと戻っていく。その際、魔女とロップスのことは秘密にしてくれると約束をしてくれたようだ。どうやら、指名手配のことはいまだに信じていないようで、昔の友人との義理を通したようである。
すっかりとゴードンの姿た見えなくなると、ようやくロップスは魔女に声をかけている。
「師匠って、昔は冒険者だったんですか。しかも、いい名前も持ってるじゃないですか」
「あの名前はとうに捨てた。今の私はただの魔女だ。あやつと一緒に冒険をしていた頃は、確かに楽しかったが、今の私は己の追い求めるものにしか興味がない」
「そうなんですか」
にこやかに話しかけるロップスに対して、魔女は淡々と言葉を返している。ただその横顔は、どことなく寂しそうに見えた。
あまりにも哀愁に満ちた表情なので、ロップスの表情もつられて曇ってしまう。
しばらく沈黙が続いていたかと思うと、魔女は大きくため息をついてロップスへと顔を向ける。
「さて、先程のゴードンとの打ち合いなのだが、一体何をしたのだ」
「えっと、何のことでしょうか」
魔女から向けられた質問が理解できなかったのか、ロップスは聞き返している。
魔女は思いっきり眉間にしわを寄せて、改めて質問を投げかける。
「ゴードンとの打ち合い、いきなり木の棒を叩き折っておっただろうが。あれは一体何をしたのだと聞いておるのだよ」
「あっ、あれかぁ」
ようやく質問を理解できたロップスは、頬をぽりぽりとかいている。
「あれは、師匠に見出してもらった風魔法を俺の持っている抜刀術に合わせてみたんですよ。いや、抜刀術というか居合ですかね」
「居合?」
ロップスの話した内容が理解できないらしくて、魔女は顔をしかめながら首を捻っている。
なんと言ったらいいのだろうか、ロップスはちょっと困っているようだ。
「えっとですね……」
口で説明するのも難しいので、ロップスは実演してみることにした。
持っている木の棒を腰に下げて、足を大きく開いて静かに木の棒の端に手を添えている。
集中を高めるために一度目を閉じたロップス。再び目を開くと、一気に木の棒を振り抜く。
払い、斬り上げ、斬り下ろし、薙ぎと続けて、最後にはそっと静かに木の棒を腰へと戻している。
なんとも無駄のない洗練された動きに、魔女も思わず感嘆の息を漏らしてしまうほどだった。
「ほう、これはなんとも美しい動きだな。今までには見せたことがないようだが」
「まぁ、なんて言いますかね。実戦向きではないというか、必ず納刀した状態から放ちますのでね。普段の鍛錬の中でもあんまり見せられないんですよ」
「なるほどのう。鞘に納まったカタナを抜き、それを再び納めるまでが一連の動作というわけか。いやはや、面白いものを見せてもらったよ」
「へへっ」
楽しんでくれたような表情を浮かべてくれたので、ロップスとしても満足したようである。
そこで、改めて最初の質問に戻ってくる。
「で、ゴードンと打ち合いをした時の、最初のあれは何だったのかな」
「あ、ああ……」
結局この質問には答えないといけないようなので、ロップスはなんとも気まずそうな表情を浮かべてしまう。
一度魔女から目を逸らしたかと思うと、観念したかのような表情を魔女へと向けている。
「さっき言いかけましたけれど、師匠に見出してもらった風魔法を、抜刀術の初太刀に乗せてみたっていうやつですね」
「ふむ、もう一度見せてみぃ。あの木なら伐り倒しても構わんから」
「分かりました」
魔女の頼みとあっては、ロップスも断れない。観念して、実演してみせることにする。
先程と同じように木の棒を構える。
魔女の目の前での再現となると緊張するのか、ロップスは発動前に一度深呼吸をしている。
ぐっと木の棒に添える手に力が入る。
「抜兎術……、閃!」
ロップスは叫ぶと、思い切り木の棒を振り抜く。
先程とは違い、低い位置から縦方向に振り抜かれた木の棒から、ロップスに顕現した風魔法が衝撃波となって駆け抜ける。
その次の瞬間だった。
魔女が指定した木が、なんと縦方向の真っ二つとなって裂けていた。
「ほう、これはすごいな……」
そこそこの高さのある木が、地面付近からてっぺんまで真っ二つなのである。
この状態を見せつけられた魔女は、ただただ感動するばかりだった。
「うむ、素晴らしいな。だが、このままの状態では危険すぎるな」
真っ二つに裂けた木は、放っておくとどこに倒れるか分かったものではない。魔女は魔法を使って、不安定な気を切り刻んでしまっていた。
地面へと散らばっていく木を見ながら、ロップスはちょっと反省しているようである。
「すみません、師匠。尻拭いをさせてしまったようで」
「なぁに、構わんよ。私がやるように言ったのだから、後始末をするのは当然というものだ」
ロップスが謝ると、魔女はただただ笑っている。それだけ、ロップスの実力に満足したということなのだろう。
これほどまでの力を見せつけられた魔女は、ますますロップスのことを鍛えがいのある弟子と見たらしく、思わず考え込んでしまっている。
「師匠?」
「なんでもない。さあ、散らかった木を片付けようではないか」
「はい」
魔女の雰囲気に違和感を覚えたロップスだったが、さすがに逆らうわけにはいかないと、魔女と一緒に片付けを手伝ったのだった。




