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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第15話 来訪者と魔女

 翌日のこと、ゴードンは迷いの森までやってきていた。

 昨日、あんな夢を見てしまったがゆえに、どうしても自分を抑えきれなかったようだ。


(ここが迷いの森か。……懐かしいな。あの頃はただの絶好の狩場だったのにな)


 迷いの森と呼ばれている大きな森林を目の前にして、ゴードンは腰に手を当てて、軽く首を傾けている。

 冒険者どころか、一般人である街の人間にまで不気味がられている森だが、ゴードンは不思議と何も感じないようだ。


「よし、行くとしようか」


 覚悟を決めたゴードンは、森の中へと入っていった。

 森の中の雰囲気は、どこにでもある普通の森だ。適度な密度を保って木が立ち並び、あちこちから鳥の鳴き声も聞こえてくるような、本当にどこにでもある森である。

 その森の中を、ゴードンは現役中に使っていたロングソード一本で突き進んでいく。

 時々魔物には遭遇するものの、牽制で一度剣を振ってやれば、ほとんどの魔物たちが気迫と相まってとっとと逃げていってしまう。いつまでうろうろとしているか分からないので、ゴードンとしては戦闘を避けたいようなのだ。


 どのくらい歩いたのだろうか。

 ゴードンはまったく森の外に出ることなく、どんどん遠くへと進んでいっている。


(不思議と妙な魔力を感じることはないな。いや、むしろ懐かしい感じがするな。よく昔、狩りに来ていただけではない、別の懐かしさを感じる……)


 森の中を歩いていくゴードンは、不思議な感覚に襲われていた。

 一体どういうことなのかと考えているものの、とりあえずさらに奥へと進んでいく。


(うん?)


 やがて、目の前が明るくなる。

 どうやら森を抜けたらしい。


「こ、ここは……」


 ゴードンは目の前の景色に目を疑った。

 ちょっと開けた空間には、家が一軒建っているではないか。このような場所に家が建っているなど、誰が想像しただろうか。


「誰だ!」


 声が響いてくる。

 声に驚いたゴードンが顔を向けると、そこには垂れ耳の二足歩行でメイド服を着たウサギが立っているではないか。

 あまりにもとんちきな格好に、ゴードンは目を何度もまばたきしてしまう。


「っと、街から帰る時にすれ違ったおっさんか。てか、なんだってここにいるんだよ」


 目の前のウサギメイドは、そんなことを言いながら、腰のものに触れていた手を離して臨戦態勢を解いている。

 魔物が言葉をしゃべっているため、ゴードンの目はまばたきがまったく止まらなくなっていた。


「なんだ、騒々しいな……」


 続けざまに、今度は別の女性の声が聞こえてきた。その声を聞いた瞬間、ゴードンのまばたきがぴたりと止まる。


(まさか、いや、そんなわけがない……)


 どうやらその声に、ゴードンは聞き覚えがあるようである。

 家の中から出てきた女性の姿を見て、ゴードンは思わず目を見開いてしまう。


「プレセア! お前、こんなところにいたのか?!」


「なんだ、ゴードンではないか。なるほどな、お前だからこそ、ここにたどり着けたというわけか。まったく、年を取ったな」


「師匠、お知り合いなんですか?」


 魔女とゴードンの話を聞いていたウサギメイドは驚いている。


「ああ。昔一緒に冒険をした仲だ。私は更なる研究を行うために、こやつとはある時に別れたのだよ。しかしまぁ、まさかここまでやってくるとはな」


「俺はそこの街の冒険者ギルドでマスターをしているからな。そこのメイドを街に寄こしたのは、それが理由じゃないのか?」


「何を言うておる。ただ単に一番近い街だからに決まっておろうが。まったく、昔の色ボケは直らんか」


 ゴードンの言い分を、魔女はちゃっかり一蹴してしまっている。どうやら、魔女はゴードンのことをなんとも思っていないらしい。

 ウサギメイドはまったく状況がのみ込めないようで、二人の様子を視線を行き来させながらずっと窺っている。


「ロップスよ。悪いが茶と菓子を用意しておくれ。どうやら、ちょっと長話をせねばいかんようだからな」


「わ、分かりました、師匠」


 魔女に頼まれたロップスは、急いで家の中へと駆けこんでいく。

 二人きりになった魔女とゴードンは、しばらく顔を見合っている。


「プレセア、俺と別れた後、一体何があったのだ。お前には高額の賞金が懸けられているのだぞ」


「ああ、そんな面倒なことになっておるのだな。やはり、引きこもった際に、周囲の森の魔法をかけておいて正解というわけだ。まったく、あの国王め……」


 ゴードンから尋ねられた魔女は、露骨に嫌そうな表情を浮かべている。よっぽどろくでもないことがあったのだと思われる。

 旧友であるゴードンからしてみても、魔女のそのような表情はあまり記憶にないらしく、かなり驚いた表情を浮かべている。


「積もる話もあるだろう。せっかくここまで来たのだ、ひと晩泊まっていって、昔話にでも花を咲かせようではないか」


「あ、ああ。それはいいのだが、あのウサギは?」


「それも、家の中に入ってからの方がいいであろう。私の魔法で囲まれているとはいえ、外では誰が聞き耳を立てているか分からんからな」


「……分かった」


 話をしようとするゴードンだが、魔女の再三の説得によって、一度家の中に入ることに決めたようだ。

 辺りは徐々に暗くなってきている。そのことを考えれば、安全な家の中の方がいいに決まっている。


「師匠、用意できましたよ」


「うむ、ありがとう。悪いが、これからはこやつと積もる話をせねばならん。というわけで、お前さんは一人で食事や仕事をしておいてくれ」


「わ、分かりました。師匠がそう仰られるのでしたら、しょうがないですね」


 ロップスは渋々、魔女とゴードンを二人きりにさせることにしたようだ。

 気にはなるものの、師匠の命令は絶対。ロップスは一人寂しく、家の中での仕事を片付けることにしたのだった。

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