第14話 ギルドマスターとかつての記憶
魔女とロップスが普段通りの生活を再開させたその頃、冒険者ギルドの方では動きが起きていた。
冒険者ギルドのギルドマスターは、ずっと部屋の中で考え込んでいる。
「どうなさったのですか、ギルドマスター」
「ああ、ちょっとな……」
ギルドマスターはずいぶんと考え込んでいるのか、職員に対する返事にあまり元気がないようだ。
それというのも、迷いの森という言葉を聞いてからだった。どうやら、ギルドマスターは迷いの森に関して何か思い当たることがあるようである。
(いや、まさかな。あいつがいるわけでもなかろうに……)
椅子に深くもたれかかって、ギルドマスターは昔のことを思い出していた。
―――
それはギルドマスターがまだ冒険者をしていた頃のことだった。
「やぁっ!」
若い頃のギルドマスターが、魔物を一刀両断している。
「ふふっ、どんなもんだ」
「グオォォッ!」
自慢げに振り返ったところへ、別の魔物が襲い掛かってくる。
魔物を倒して油断しているところだったので、若い頃のギルドマスターはすっかり反応が遅れてしまった。
「サンダーアローッ!」
そこへ、魔法が飛んでくる。
「まったく。もう少し周りを落ち着いてみろ、ゴードン」
「いやぁ、すまないな、プレセア。おかげで助かった」
プレセアと呼ばれた女性の魔法が魔物を穿ち、ゴードンはなんとか魔物の攻撃を回避することができた。
ギルドマスターの名前はゴードンというらしい。
一方のプレセアと呼ばれた女性は、背の大きさはゴードンの胸くらい。とんがり帽子に濃紺の襟付きマントという、いかにも魔法使いっぽいいでたちである。
その姿は、どこかで見たことのありそうな感じである。
「プレセアは将来的にどうするつもりなんだ?」
「どうするとは、どういうことかな、ゴードン」
魔物の討伐が終わって後始末をしている二人が、解体がてら話をしている。
「だいぶ魔法を極めてしまっただろう。だから、どうするのかなと思ってな」
「なるほどなぁ。だが、魔法というのはまだまだ奥が深い。どこか、人に邪魔されないところでゆっくりと研究がしたいものだな」
「はははっ、お前らしい返答だな」
プレセアから返ってきた答えを聞いて、ゴードンは思わず笑ってしまっていた。
「まあ、お前ならいいところを見つけられるだろう」
「ああ、この依頼を終えたら、ゆっくり旅に出ることにでもするよ。そういうお前はどうなんだ、ゴードン。お前なら王家の騎士団に所属することもできるんじゃないのか?」
「はははっ、さすがにそれは買いかぶりすぎだな。俺はひっそりと地方の街で後進でも育てて過ごすさ」
「ふっ、相変わらずよくのない奴め」
話と解体を終えた二人は立ち上がると、いろいろと労いや愚痴などを言い合いながら、それは楽しそうに街へと戻っていった。
街へと戻った二人は、そのまま別れ別れになってしまった。プレセアは約束通り旅に出てしまったからだ。
それから数年後。やりたいことをやり尽くしたゴードンは、冒険者を引退して冒険者ギルドに就職した。希望していた通り後進育成を行い、その結果、冒険者ギルドのマスターを務めるほどになった。
そんなある日のことだった。
「ギルドマスター。王都から手配書が届きました」
「おう、そこに置いておいてくれ」
職員がなにやら紙を持ってきて入ってきたのだが、執務中だったゴードンはその時は確認することなく、ただ仕事をこなしていた。
ようやく仕事が一段落したところで、職員が持ち込んできた手配書を確認するために、ゴードンは手配書に手を伸ばす。
パラパラと数枚を確認したところで、ゴードンの手がぴたりと止まる。
「ば、ばかなっ! なぜ、あいつが手配書になっているのだ」
そこに描かれていたのは、かつて一緒に冒険をしたことのある魔法使い、プレセアの姿だったのだ。容疑は王国への反逆と書かれていた。
かつての友人にかけられた嫌疑に、ゴードンは全身が震えて止まらなかった。なにかの間違いであってくれ、と。
それからしばらくすると、今度は別の報告があがってくる。
街の近くの森が迷宮化したというのだ。
その森というのは、かつてゴードンがプレセアとも旅をしたことがあるという森だ。報告によれば、中に入ると反対側に抜け出ることができず、抜けたと思ったら入ってきた場所かその近くに放り出されるという摩訶不思議な現象だった。
調査を行ったものの、原因は不明。起きている現象から、森は”迷いの森”と名付けられることになったのだった。
―――
「……ター」
ゴードンの耳に、声が聞こえてくる。
「ギルドマスター、起きて下さい!」
「はっ!」
体を揺さぶられながら声をかけられたゴードンは、慌てた様子で体を起こす。どうやら知らないうちに眠っていたらしい。
「すまん。ところで、何の用だ」
「いえ、報告書ができ上がったので、ギルドマスターに提出をしに来ただけでございます。そしたら、ギルドマスターが眠っていらっしゃったので、失礼ながらも起こさせていただいたのです」
「そ、そうか……。それはすまなかったな」
ゴードンは素直に職員に謝罪をすると、報告書を受け取って職員を下がらせた。
しかし、すぐにその報告書に目を通すことはできなかった。
(なぜだ。なぜ今頃になってあの時のことを夢に見たのだ? メイドと迷いの森、これが引っかかったのは事実だが、うーむ……)
ゴードンはしばらく腕を組んで唸り続けていた。
だが、理由など分かるわけもない。やむなくゴードンは考えることを諦め、業務へと戻ったのだった。




