第13話 魔法と剣術
夜が明けて、ロップスは庭に出て魔女にもらった刀ではなくその辺の木の棒を振り回している。
「朝から精が出るな」
「あっ師匠、おはようございます」
ぶんぶんという場所に似つかわしくない音が響いていたので、どうやらその音で魔女は目を覚ましたらしい。
窓から木の棒を振り回すロップスの姿を微笑ましく眺めている。
「私の作ったカタナではなく、なぜ木の棒を振り回しておるのだ?」
ロップスの持っているものが気になった魔女は、思わず問いかけてしまっている。
「いや、師匠に作ってもらった刀ですと、威力が思ったより出てしまいそうなんですよ。なので、その辺に転がていた木の棒で素振りをしているんです」
「そうか。だが、そろそろ朝食の支度をしてもらいたいものだな。腹が減って仕方がない」
「ああっ! そうでしたね。すぐに準備します」
魔女から朝食を催促されると、ロップスは素振りをやめて、すぐに家の中へと引き返してきた。
バタバタと朝食の準備に取り掛かる様子を、魔女は窓にもたれかかりながら微笑ましく眺めていた。
しっかりと朝食の準備が整い、魔女とロップスは向かい合いながら食事を取っている。
そんな中、魔女が改めてロップスに朝のことを問い掛ける。
「一体何をしようとしていたのだ。木の棒なんぞ振り回して」
「ああ、師匠から教えてもらった魔法と、俺が身につけていた剣術を組み合わせられないかと思いましてね。普通に刀を振り回しているよりも、なんかこう、バーッと派手にできそうな気がするんですよ」
「ふむ。それはまた、なんとも面白そうな話だな」
声はとても淡々としているものの、魔女の目はキラキラと輝いている。実際に興味をひかれていることは間違いなさそうだ。
「して、おぬしが身につけている剣術というのはどういったものかな」
「抜刀術ですね。こうやって、鞘に刀を納めた状態から一気に引き抜いて、相手と戦う剣術ですね」
「ほうほう。ならば、風と相性が良い感じはするな」
「やっぱりそうですかね。くうう、早くものにして試してみたいもんですよ」
ロップスはかなり興奮しているようだが、魔女にはどうにもいまいち理解できない感じだった。
うきうきと楽しそうにしているロップスとは対照的に、魔女はとても淡々と食事を進めていた。
食事の片づけを終えると、どういうわけか魔女はロップスに詳しく見せてもらおうとして一緒に外へとやってきていた。
「ロップスよ。お前さんが思い描く技とやらを、私に見せてもらってもよいだろうか」
「ええ、いいですけれど。まだ未完成ですよ。魔法がうまく攻撃に乗らないですからね」
「一人で悩むよりも二人で考えた方がよい。それに、私は魔女だ。魔法のことに関してエキスパートだぞ」
「まあ、確かにそうですね」
魔女に説得されたロップスは、自分が試している技を魔女に見せることにした。
とはいえ、威力がうまくコントロールできないので、朝と同じく木の棒で技を放つことにする。
左に持った木の棒に右手を添え、足を大きく開いて腰を落とす。
目を閉じて呼吸を整え、すうっとロップスはその体の動きを止める。
一閃。
目を見開いたロップスは、素早く右手で木の棒を横薙ぎにする。
素早く振り抜かれた木の棒からは、横一線の衝撃が前方へと駆け抜けていく。森の木々にぶつかるとドォンという大きな音が響き渡っていた。
「ほう、ずいぶんと凄まじい威力だな。木の棒でこれならば、私が作ったカタナであれば、大抵のものは真っ二つにできそうだな」
木の棒から放たれた衝撃波の威力に、魔女は目を見開きながら感想を漏らしていた。
「とりあえず、今はこんな感じですね。師匠の仰られた通り、風魔法がうまく俺の斬撃に乗ってくれているみたいで、今はここまでの威力が出せるようになりましたよ」
「うむ。目を見張るような上達を見せてくれて、私も嬉しいというものだ」
ロップスの言葉を聞いて、魔女はとても満足そうに笑っている。
「だが、魔法の威力の調整はうまくいっていないようだな。魔法を乗せることに集中しすぎて、魔力が最大の状態で放たれている。これでは、相手は体がいくつあっても足りぬというものだ。場合によっては、気絶させて生け捕りにする必要があるからな」
「そうですね。そこの調整は頑張ってみます」
魔女からの指摘にもロップスはかなり前向きなようだ。
やる気を見せた眷属兼弟子の姿に、魔女はとても満足そうにしている。
「では、今はこのくらいにして、いつもの業務に戻っておくれ。私は更なる研究に打ち込まねばならぬからな」
「師匠の行っている研究って、なんなんですかね」
「秘密だ。まぁ、話したところで魔法の造詣の浅いおぬしには、まったく理解できるようなものでもないだろうがな」
魔女はそういうと、一足先に家の中へと入っていった。
ロップスはしばらくそのまま立ち尽くしている。
魔女に言われた通り、ロップスはまだまだ魔法に対する理解が足りない。ゆえに、魔法の威力の調整だって四苦八苦の状態だ。
(もっと、もっと力を使いこなせるようにならないとな……。鍛練あるのみだ)
ぎゅっと拳に力を入れるロップス。
「ロップス、早く仕事にかかっておくれ」
「はい、師匠」
魔女に呼ばれ、ロップスも家の中へと入っていく。
魔女の行っている研究も気になるところだが、まずは自分を鍛えてからだ。ロップスは決意を秘めながら、魔女の身の回りの世話を始めたのだった。




