第12話 ギルドとメイドの行方
その頃、ロップスが訪れた街ではというと。
「なんだと。見失ったというのか?」
「はい、申し訳ございません。あのメイド、思った以上に足が速くてですね……」
「いいわけなどどうでもよい! お前は下がれ!」
「はっ……」
騒ぎになっているのは、冒険者ギルドだった。
理由は、ロップスのことである。
大量の魔物を、ほぼ一撃で倒して持ち込んだというメイドのことは、冒険者ギルドの中を大いに騒がせている。
決して、この街の冒険者ギルドは人材不足というわけではない。だが、優秀な人材はいくらいても構わない。そのため、ロップスのことをどうにか引き入れようと考えたようだった。
「ギルドマスター、落ち着いて下さい」
「これが落ち着いていられるかというものだ。お前もなぜ、引き留められなかったのだ」
「も、申し訳ございません。彼女はきちんとしたメイド服を着ておりましたし、背後に大きな貴族がいた場合、厄介な問題になりかねません。ですので、強く出られなかったのです」
「……くそっ!」
受付で対応した女性を睨みつけながら、ギルドマスターの男性は悔しそうな表情を浮かべて吐き捨てている。
優秀な人材を確保し損ねたのだ。悔しがるのも当然だろう。
「それで、見失ったとはいうが、どちらの方向に向かっていったかは分かるか?」
「それは、分かりますね。あの方向にあるのは迷いの森です。ですが、いくら強いとはいっても、あの森に入っていったとは考えにくいのですが?」
「うむ……」
追跡していた職員の答えに、ギルドマスターも思わず考え込んでしまう。
それもそうだろう。
この時、ギルドが追跡していたロップスが向かっていった方向にあるのは、迷いの森という妙な魔力をまとった森なのだ。
中では方向感覚が狂い、時間としては個人差があるものの、最終的には入ってきた場所かその近くへと出てきてしまうという。それが迷いの森というわけだ。
そう、これこそが、あの魔女があの森の中で安心して暮らしていられる理由となるのだ。
周囲の森の中を魔力で覆うことで方向感覚を狂わせ、絶対に奥へと進めないように細工をしていたのだ。その魔力は巧妙に隠されており、そこそこくらいの高い魔法使いですらも騙されるほどである。
それならば、迷いの森の周辺を探せば発見できる可能性はある。だが、向かった先が迷いの森の方向だったというだけでは、捜索するのは浅はかだろう。森に沿って移動した可能性だってあり得るのだから。
「はぁ、仕方あるまい。この街の冒険者ギルドの名を上げるチャンスだったというのに、実に惜しいものだ……」
あらゆる可能性を考えてみた結果、追うのは不可能と判断したようで、ようやくギルドマスターも諦めたようである。
「とりあえず、持ち込まれた魔物はきれいに解体しろ。それだけ損傷がないんだ。なんとしても高く売り捌くぞ」
「承知致しました」
ならば、せめて置き土産くらいはきちんと処理しておこうと、ギルドマスターは指示を出している。
やることを終えると、例のメイドと接触した受付の職員だけを残して、他の職員は持ち場へと戻らせる。
「さて、お前には詳しく話を聞かせてもらうとするか」
「はい。例のメイドの件ですよね」
ギルドマスターから視線を向けられた職員は、ピシッと背筋を伸ばして返事をしている。
「そうだ。俺が他の用事で不在の間にあったことだからな。とにかく、詳しく聞かせてもらおう」
ギルドマスターは、例のメイドについて詳しく話を聞いている。
一応、ギルドマスターは、ロップスの姿自体は見ている。ちょうど用事を終えて戻ってきた時に、すれ違っていたのだ。髪色は真っ白でとても目立つし、腰にも変わったものをぶら下げていたので、変なメイドがいるものだなと、それは興味をひかれた程度だった。
そこで、街の外まで出迎えに来た職員に命じて見かけたメイドの後を追跡されたのだが、ものの見事に撒かれてしまったというわけなのだ。
「ふむ、誰かのおつかいで一人でねぇ。あの腰の業物は見せてもらったのか?」
「はい。シミターとサーベルを組み合わせたような、不思議な形状の片刃剣でした。あれであの数の魔物を一撃で仕留めたとなると、あのメイドは相当の手練れだと思われます」
「ふむ……。となれば、戦闘訓練を受けていた可能性があるか。よく尾行させた職員が殺されなかったものだな」
思い返せば、本当に命がけの仕事だっただろう。知らなかったとはいえ、ギルドマスターはちょっとだけさっきの言動も含めて後悔をした。
「また、そのメイドが来るようなら、話をしてみたいものだ。その時は、うまく引き留めてくれ」
「承知致しました」
返事をした受付の職員は、ギルドマスターの部屋から出て行く。
一人になったギルドマスターは、ため息をつくと椅子にもたれかかっている。
「それにしても、どこまでも真っ白な髪の毛だったな。あれだけ目立つ髪だ。次に見つけた時には、必ず引き留めねばな」
ギルドマスターは立ち上がって窓の方へと歩いていく。そして、窓からとある方向へと視線を向けた。
「迷いの森の方へと……か。いや、まさかな」
ギルドマスターはつぶやくと、再び椅子に腰かけて仕事へと取り掛かったのだった。




