第11話 ロップスと強い誓い
翌日、元の姿に戻ったロップスは、なんとも晴れやかな顔をしていた。
「うん、こっちの方がいいや。元が男だからか、女の姿でいるとどうにも落ち着かない。それならまだ獣の姿の方が断然ましだぜ」
ロップスは元の垂れ耳ウサギの姿に戻ったことで、嫌々我慢していた女性の姿から解放されて気が楽になったようなのだ。骨格は人間に近いがために、メスのウサギであるならあんまり変わらないと思われるのだが、なんとも不思議な反応である。
「やれやれ、朝から騒がしいな」
魔女が姿を見せる。
「あっ、師匠。いやぁ、こっちの方が落ち着くんですよ。うんうん、俺にはやはり女の姿は似合わない」
「いや、そのウサギはメスだから、女だろうが……」
ロップスの言葉に対して、魔女は冷静にツッコミを入れている。
ところが、ロップスは本当に喜んでいるようなので、魔女はそれ以上は何を言って無駄だと諦めたようだった。
「それにしても、あれだけの魔物、よく仕留められたものよな」
「ああ、俺も不思議なくらいだよ。師匠の作ってくれたこの刀が、俺との相性がばっちりだったんだろうな。本当にありがとうございます、師匠」
「気に入ってもらえたのなら、それは頑張って作ったかいがあるというものだ。だが、あれだけきれいな討伐だと、街でも大変だったのではないかな」
魔物のことでロップスに話を振ってみると、刀を相当気に入っているという答えが返ってきた。
それを踏まえて魔女は言葉を続ける。
ロップスが持って帰ってきた魔物たちは、そのほとんどが太刀筋ひとつで倒されていた。これだけ襲われているのなら、街に行く時も襲われていたのではと想像したのである。
その想像は実に正しかった。魔物がきれいすぎるということで、冒険者ギルドの人間に絡まれそうになったとの証言を得て、魔女はなにやら考え込んでしまった。
「師匠、どうしたんですかね」
「いや、ちょっとな……。ロップス、帰り道、後をつけられなかったか?」
「後を……?」
魔女からの質問を受けて、ロップスは帰り道のことを思い出そうとしている。久しぶりに肉を頬張った感動からか、ちょっと思い出すのに時間がかかっているようだ。
「そういえば、途中まで後ろに気配を感じたな。あまりに気持ち悪いんで、ウサギの脚力に任せて振り切ってきましたけど。だから、この森のところまではついてきてはいないはずですよ」
「そうか。……杞憂ならいいのだがな」
「師匠?」
ロップスの証言を聞いた魔女は、少し神妙な面持ちを浮かべていた。
なにか気がかりなことがあるのだろうか。その時の魔女の表情に、ロップスは何かと引っかかったようである。
だが、こちらの世界にやってきてから日の浅いロップスに、魔女の背景に何があるかなど分かるわけもない。現状では、なんか変だったなとしか思いようがなかった。
「師匠、なにか気がかりなことがあるのなら、俺が相談に乗りますよ。そのための助手じゃないんですか?」
分からないなら分からないなりに、魔女の力になりたいと考えたロップスは、魔女に思い切って声をかけている。
しかしながら、魔女はロップスからの言葉に、数回首を横に振るだけだった。
「これは私の問題だ。お前には背負わせるわけにはいかない。ただ、私の手伝いをしてくれれば、それだけでよいのだよ」
「師匠……。分かりました。不肖、このロップス、師匠のために精一杯尽力させていただきますとも」
魔女からの返答を聞いたロップスは、魔女の前に跪き、頭を下げたまましっかりと力強い口調で宣言していた。
ただの魔物と思っていただけに、何度もこうやって跪く姿を見せるロップスの態度には、正直なところ魔女も戸惑いを隠せなかった。しかし、これだけ厚く忠誠を誓ってくれるというのであるならば、魔女としても悪い気がしないというものである。
「そうか。ならば、これからもよろしく頼むぞ、ロップス」
「はっ!」
ぽんとロップスの頭に手を置いた魔女は、それは嬉しそうに微笑んでいた。その時の柔らかな魔女の言葉は、強くロップスの心に響いたようである。
この時、改めて魔女とロップスの間には強いきずなが生まれたように思われる。
おそらく元の世界での自分は死んで、この世界に転生してきたと思われる。その戸惑いがまだ残る中、ロップスはこの世界で生きる意味をついに見出した。
この刃を捧げる相手ができたというのは、実に喜ばしいことだ。
これまでは時代劇の中で、雇われの浪人という形などでこのような忠誠を誓う演技をしてきた。それを本物の形で履行できることになるとは、ロップス自身思ってもみなかったことだ。
(ふっ、これがいわゆる運命の出会いというものなのだろうかな。自分が生きてきた世界とは違う場所で、このような気持ちを抱くことになるとはな……)
ロップスはどことなく、心の中が満たされたような気持ちになっていた。
それと同時に、これからはこの魔女とともに生きていくという強い決意を抱いたのだった。




