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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第10話 メイドと帰宅の途

 翌日、さっさと朝の時間を使って、魔女から頼まれていたものを買い集めたロップスは、逃げるように街から去っていく。


(ひぃっ……。俺は決まったところに雇われるつもりはねえんだよ。それに、頼まれごとの真っ最中だ。仕事をほっぽり出すのは、俺の信念に反する!)


 背中一杯に荷物を背負い、ロップスは来た道を走って戻っていく。

 人間の姿になっているとはいっても、元々は魔物の垂れ耳ウサギだ。種族は分からないとはいえ、身体能力は思った以上に人間よりも高いようである。


(それにしても、かかとの高い靴って走りにくいな。今の履いている靴は、かかと部分が高いといっても指二、三本分だし、面積だって結構大きい。それでもこんだけ走りにくいとなると、ハイヒールとか履いている女が走れるわけがねえってんだよ)


 ロップスは今の姿で経験してみて、女性の大変さというものを知ったようである。

 だが一方で、ロングスカートのメイド服での移動には、そんなに苦労している様子はなかった。時代劇で着ものだとか袴だとか穿いている経験があったからだろう。何がどういうところで役に立つか分からないものである。


(もう少しで師匠が住んでいる森に到着する。そうすれば、追手がいたとしても振り切れるだろう。とにかく急ぐか)


 ちらりと後ろを振り返ったロップスは、慣れないかかとの高い靴で必死に走る。

 どうにかこうにか、無事に森の中へと入ることができたのだった。


「はぁはぁ……。これで、あとはゆっくり歩いて帰れるな。だが、少しでも早く師匠のところに帰らないとな。ここは森の中だ、真っ暗になったらさすがの俺でも迷いかねん」


 森に入ってしばらくのところで、ロップスは一生懸命呼吸を整えている。

 その間も森の外を見てみるが、どうやら自分を追いかけてきたような連中はいないようだった。


(ふぅ、よかったぜ。危うく人間に対して攻撃を仕掛けなきゃいけなくなると思ったからな。……よしっ)


 すっかり落ち着いたロップスは、改めて、魔女の住む家に向けて歩き出した。


 ところが、森に入ると、今度は別の意味で再び落ち着かなくなってしまった。


「グギャアッ!」


 魔物が叫び声をあげて転がる。

 そう、そもそもが底辺の魔物であるロップスは、森に入って奥に進んでいくと、行きの時と同じように魔物にやたらと襲われていた。

 魔女に作ってもらった刀を振り回し、魔物を次々と討伐していく。やるかやられるかの世界なので、ロップスもまったく遠慮がない。


「まったく、か弱いメイドだろうが、魔物にはまったく関係ないみたいだな。だが、これだけ圧倒的な力を見せてやれば、少しはおとなしくなってくれてもいいものなんだがな……」


 すでに十体近くを倒したロップスは、頭を抱えていた。いい加減に荷物が持てなくなってきていたのだ。

 魔女の家まで、まだまだ距離がある。これで日が暮れるまでに帰れるのだろうか。ロップスは襲撃と荷物の多さに少しずつ不安になってきていた。

 それにしても、これだけの魔物を倒せるとはなかなかすごいと思われる。これも、前世で習っていた剣術が活きているのだろう。

 剣道はもちろんのことだが、刀の魅力に取りつかれていたロップスの前世は、居合術の道場にも通っていた。実戦で使うことはないとは思っていたのだが、思わぬ形でそれが役に立ったというわけである。


「刀を振るうメイドって、はたして需要があるんだかなぁ……」


 倒した魔物を縛ってまとめたロップスは、思わずそんなことをつぶやいていた。

 ちなみに、魔物をまとめるために使ったロープは、魔女からもしものために大量に持たされたものだ。どうやら、魔女はこのことを予見していたようである。なんで持たされたのか分かっていなかったロップスだが、こうやって実際に必要になった状況を見て、さすがは師匠と感心している。

 こんな感じで人間から逃走し、魔物たちをばっさばっさと斬り捨てたロップスは、どうにかこうにか無事に魔女の家まで戻ってこれた。


「ただいま戻りましたよ、師匠」


「おお、戻ったか。さすがはこの森で最弱の魔物を素体にしただけのことはあるな。魔物に襲われまくりではないか」


 ロップスの声を聞いて、魔女が外へと出てくる。戻ってきたロップスの姿を見て、魔女は思わず笑ってしまっていた。


「何を笑っているんですか、師匠。こっちは死ぬ思いで往復してきたんですよ。少しは労って下さいよ」


 魔女の反応に、ロップスは思わず不機嫌に返してしまう。それだけ、今回は必死になって、人間の街との間を往復したということである。

 その不機嫌そうな表情を見た魔女は、おかしそうに笑いながらロップスに近付いてくる。


「よう頑張ったな。明日からは元の姿で頑張ってもらうぞ。さっ、家の中に入ろうではないか」


「それはいいんですけど、どうするんですか、この魔物の山」


「ああ、それならそこ置いておいてくれ。あとで私がすべて処理をしておこう。ついでだ、夕食はこの魔物の肉でも使ってやろうではないか」


「おおっ、いいですねぇっ!」


 肉が食べられると聞いて、ロップスの目がキラキラと輝いている。

 うきうきとした表情で家の中へと入っていくロップス。その姿を見た魔女は、実に楽しそうに笑顔を浮かべ続けていた。

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