第102話 興味と羨望と嫉妬と
カオルたちがサズギンたちのことでてんやわんやとなっているちょっと前のこと、王都にいるネンインのところにシーディスが戻ってきていた。
「ネンイン様、ただいま戻りました」
「おお、シーディス。何か分かりましたかな?」
机に向かって行っていた作業の手を止め、ネンインはシーディスの方へと顔を向けている。
「はい。あのカオルとかいう者についてですが、興味深い情報が手に入りました」
「ほう、そうですか。それは実に朗報ですな。では、早速内容をお話しください」
「はい、承知致しました」
ネンインに調査内容を求められたシーディスは、途中で出会ったプレセアから聞いた話と、東の果てにある街にいる冒険者ギルドのマスターであるゴードンから聞いた話を、すべてネンインに詳しく話している。
シーディスの話を聞いていたネンインの表情は、思ったよりも険しい感じになっている。はたして一体どうしたというのだろうか。
「それは、本当の話なのですかね」
ネンインはかなり怒りに満ちたような声色になっている。あまりにもドスの利いた声なので、シーディスは震え上がってしまっている。
「お言葉ではございますが、最果ての街の冒険者ギルドのマスターは、かなり信用における人物です。ネンイン様も直にお会いになられていらっしゃるはずですが」
「ああ、覚えていますとも。……あの時の男がいったのであれば、確かに信用はあるとは思いますがね」
思わずシーディスが切り返してきたので、ネンインはあごに手を触れながら、険しい表情をしてしまっている。
これほどまでの表情は、研究に行き詰まった時以外には、あんまり見たことがない。シーディスは、ネンインの反応をかなり重く受け止めているようである。
「分かりました。その話は信用いたしましょう」
ネンインは、自分が手塩にかけて育てている弟子相手なので、あまり疑ってばかりはいられなかったようである。どこか腑に落ちないような気持ちはあるものの、ひとまずはきちんとした報告として受け取っている。
ようやく表情が和らいだネンインを見て、シーディスはほっとした表情を浮かべている。
そして、報告の最後に、一通の手紙を渡している。
「なんですかね、これは」
さすがにネンインは訝しんでいる。
「ネンイン様に渡してほしいと言伝られております。あと、必ずお一人でお読みくださいとのことです」
「そうですか。まったく、誰ですかね」
手紙を受け取りながら、ネンインは眉をひそめてしまっている。
ネンインが手紙を受け取ったのを確認すると、シーディスは長旅の疲れを取るために休息をとると言って部屋を出ていってしまった。
それと同時に、ネンインが封筒を裏返している。そこでネンインの目に入ってきた署名に、思わず目を疑ってしまう。
「シーディス、これは一体どういうことなのですか。ちゃんと説明をしなさい、シーディス!」
ネンインが叫ぶものの、シーディスは部屋に戻ってこなかった。
さっきの今だというのに戻ってこないところを見るに、シーディスは遮音の魔法を使ったのだと思われる。
「まったく、こんな忌々しい名前を、また見ることになるとはな」
手紙を何度となくひっくり返しながら、ネンインは露骨に嫌そうな表情を浮かべている。
そして、手紙を真っ二つに破ろうとしたのだが、その瞬間、不思議とネンインの手が止まってしまった。
「……ふん、読むくらいはしてやろう」
結局、封筒を開けて手紙を読むことにしたネンインなのである。
手紙の差出人は、かつて同じ王宮勤めの魔法使い。
それは、先日自分がならず者を雇ってまで亡き者にした、自分の師匠であるプレセアである。
「死者からの手紙とは、これまたなんと不吉なものか。だが、偉大な魔法使いというのは、こうやって遺書を残すことがあるというからな。さて、何が書いてある」
ネンインは冒頭からしっかりと目を通している。
自分が陥れた相手とはいえ、魔法の技術に関しては純粋に尊敬していた相手なのだ。自分のプラスになるのであるならば、しっかりと吸収してやろうというのが、ネンインの考えなのである。
ところが、手紙を読み始めたネンインは、書いてある内容にかなり強い興味を示している。
「くっ、さすがは私がまったく追いつけない相手だ。このような魔法を編み出しているとはな。悔しいが、やはりあの女は真の天才だったか」
手紙を読み切ったネンインは、プレセアの魔法の才に改めて嫉妬と憧れを抱いてしまう。そのくらいに、プレセアの魔法理論というのは、自分の理解の及ばないものだったのだ。
「まるで、私が興味を持つことを見越したかのようにこのような書面を残しているとはね。だから、あなたが嫌いなのですよ」
読み終えたネンインは、机の引き出しに手紙をしっかりとしまい込む。
だが、そうなると、ネンインはますますカオルを欲するようになってしまった。理論はいい、実物を調べてみたいと、そう強く願うようになったのだ。
「ふふふっ、必ずお前を手に入れてやりますよ。くくくっ、ふははははははっ!」
ネンインの不気味な笑い声が部屋の中にこだまするのであった。




