第101話 計画性と意外性
「ほう、ここに橋を、ですかな」
サズギンたちは、伯爵の提案に驚いていた。
「うむ。人間は川を渡るにはそれなりの設備がいるのでね。私は橋の重要性をつくづく感じたのだ」
「橋っていうと、俺たちがしばらく前に住んでいたあの妙ちくりんな石のことか。ああいう場所は俺たちにとっても好都合なんで、別に造ってやってもいいと思うぞ」
意外と前向きに考えているらしい。これにはカオルは驚いている。
だが、それだけで済むわけがないというものだ。サズギンは交換条件を出してくる。
それは自分たちの存在を認めて、今いる場所で住み着くというものだった。
これには伯爵は難色を示すかと思われた。
「ああ、別に構わない。ここはクワイエ子爵領になるから、子爵の同意があれば問題はないよ」
あっさりと認めていた。これまたカオルはびっくりだ。
なにせ、イダンカ帝国との戦争の際には、川に知らない間に繁殖させられていたのだから。
だが、伯爵からすれば直接的な被害がなかったので、大して気にしていないようである。そう、カオルが勝手に襲われて撃退しただけである。
「ちょっと旦那様。そんなあっさり認められるんですか?! 俺は襲われてるんですよ」
「それは、君の性質上、餌と思われただけだろう。他には実害が出ていない以上、役に立つといっているのなら、受け入れてあげるのが当然だ」
伯爵の言い分に、カオルは開いた口がふさがらなかった。
はっきりいって、カオルの襲撃され損である。しかし、今のカオルはオーロイス伯爵の部下であるので、この決定には逆らえなかった。
「はぁ、旦那様がそう仰られるのでしたら、俺はもう何も言いません」
カオルは頭を抱えて首を左右に振っている。そのカオルを、ルーシャは気遣っているようだ。
「それで、あっちにいるのはブルシャーフか。こんな群れが近くにいるとはな」
「私の仲間です」
サズギンたちとの話が一段落した伯爵は、近くに群れているブルシャーフを見ている。自分の領地の近くだというのに、把握できていなかったことに驚いているようだ。
「いやはや、彼らはいいですぞ」
「ここにある木組みの家は、彼らの協力あってこそできたのですぞ」
サズギンたちが嬉しそうに話をするものだから、伯爵は再びそこらへんにある木組みの家を見つめている。
どう考えても引っこ抜いてきただけの木でできており、家には見えないような代物だ。サズギンたちには加工するという考えや技術がないのだから、そうなるのも仕方がない。
だが、話を聞いていると、彼らはブルシャーフとともに、どこからともなく木を引っ張ってきたようだった。
異なる種族ではあるし、最初の出会いがあんな状況であったにもかかわらず、お互いにうまくやっているようだった。
話をほどほどで終えたカオルたちは、今度はクワイエ子爵のところへと向かう。
サズギンとブルシャーフたちが暮らしている場所に橋を架けるのであるなら、クワイエ子爵には明らかな影響が出る。なにせ、領都の真西にあたる場所だからだ。
北にあるエランペ皇国へ向かう際の第二のルートになるのは確実である。ならば、クワイエ子爵に話を通すのは筋というものなのだ。
クワイエ子爵領の領都に到着すると、オーロイス伯爵は早速クワイエ子爵と話し合いの場を設ける。
橋を架けるという話を聞いた時は、当然ながら驚いていた。なにせ、オーロイス伯爵領から、一部の利益を奪い取るような形になるからだ。
持ちつ持たれつというのがクワイエ子爵の考えだったので、とても衝撃的だったようなのだ。
話を聞いたクワイエ子爵は、二つ返事でオーロイス伯爵の計画に乗っている。
「そうと決まれば、すぐに王都に向かいましょう。これは、国家計画として遂行せねばなりません」
「うむ。では、早速向かうとしよう」
話し合いをしたその日のうちに、二人はそろって王都へと向けて出発する。
あまりにも早い行動に、カオルは驚いている。
(フットワーク軽すぎんだろ、旦那様もクワイエ子爵様も!)
こんなことを思いながらも、カオルはその手伝いをしっかりとこなしている。
「あちこち忙しいですぅ……」
人化したばかりのブルシャーフであるルーシャは、すっかり参っているようだ。付き合わせて可哀想なのだが、こればかりはしょうがないというものである。
ルーシャのことは最初こそ面倒に思っていたカオル。しかし、こういった姿を見せられていると、なんだか妹のように思えてきたのか、たった数日であるにもかかわらず、妹のように思えてきている。
「疲れたのなら、馬車の中では寝ているといい。何かあれば俺が起こすから」
「ご主人様、そうさせてもらいますです」
頭をポンポンと撫でられたルーシャは、馬車に揺られながらグッすると眠ってしまった。
眠っているルーシャの顔を見つめるカオルを見て、オーロイス伯爵はなぜかにやけたような表情を浮かべている。
「……なんなんですか、旦那様」
「いや、カオルにもそういう優しいところがあるんだなと思ってね」
「俺はちょっと厳しいだけで、本当は優しいんですよ」
不機嫌そうな表情を浮かべるカオルだが、伯爵はおかしくて笑い続けていた。
こんな三人を乗せた馬車は、クワイエ子爵の馬車とともに、一路王都へと向けて進み続けていた。




