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剣聖ロップスの伝説  作者: 未羊


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第99話 名づけと魔物の少女

 自分の部屋に戻ったカオルは、じっとブルシャーフの少女を見ている。

 メイド長に頼んで、オーロイス伯爵家のメイド服を着させてもらった少女だが、クワイエ子爵のところのメイド服と同じようによく似合っている。


「ご主人様とおそろいです」


 嬉しそうにくるくると回っている。その姿を見て、カオルは少し表情を緩めていた。


「さて、そろそろお前に名前を付けてやらないとな」


「ああ、そうだ」


 名前と聞いて、ブルシャーフの少女は不思議そうな顔をしている。


「俺がカオルって名乗っているだろ。俺の元の魔物はロップヴォーパルっていう、それは恐ろしいウサギの魔物だったんだそうだ」


「ふむふむ、そうなのですね」


 カオルの説明を聞いても、いまいちピンとこないらしい。その顔を見て、人間と魔物との感覚の違いというものを改めて思い知らされることになる。


「つまりは、お前の場合はブルシャーフっていう魔物の名称とは別に、お前自身を指し示すものを持つということになるんだ」


「なるほど、なんとなく分かったのですよ」


 ニコッと笑うブルシャーフの少女の顔を見て、カオルは「あっ、分かってないな」と察してしまった。

 それにしても、どんな名前を付けてあげようかと、カオルは早速悩み始める。

 正直なところ、子どもがいなかった上に、ペットを飼ったこともないカオルにとってしてみれば、これが初めての名づけになる。となれば、カオルも慎重にならざるを得ないというものだ。

 ブルシャーフという種族の魔物。カオルは悩んだ末に、とても安直な名前を付けることにしたのだった。


「うん、ルーシャだな。お前の名前はルーシャだ」


 カオルはブルシャーフの少女に決めた名前を告げる。

 由来はとても単純だ。ブルシャーフの真ん中を取っただけである。あとは音の関係で、長音を最後ではなく前に持ってきたというわけだ。

 ところが、カオルが名前を決めたその瞬間だった。ルーシャの体から、一瞬だけ光が放たれた。


「なんだ、今の光は」


「私、光りましたかね?」


 カオルからは見えたようだが、ルーシャはまったく光を見なかったようだ。カオルは見間違いだろうかと、目をごしごしとしている。


「悪い、どうも見間違いだったようだ」


 カオルは気のせいだと思うことにした。

 名前が決まったので、カオルは夕食の席でルーシャを紹介することにした。


「そうか、名前が決まったのか」


 食事の席で報告すると、オーロイス伯爵は意外と嬉しそうな表情を浮かべているようだ。

 その表情を見て、カオルはハッと何かに気が付いたようだった。

 そう、この伯爵邸で過ごすようになってから、伯爵の家族を一度も見ていないのだ。つまり、伯爵は独り身ということになる。結婚していないのか、それとも離別なのかは不明だが、家族がいないのは多分間違いないだろう。


「旦那様、もしかして、ルーシャのことを養子にしようだなんて考えていませんよね?」


「ははっ、それはないだろう。元々魔物で、魔物の姿に戻れるというのにな。だが、この屋敷に若い女性がいるというのはいいことだと思うんだ」


 カオルが訝しんで話しかけると、伯爵は笑いながらそんなことを言い放っていた。

 だが、これはさすがのカオルも諫めなければならないと思われる。


「旦那様、それをお屋敷で働くメイドたち、女性の使用人の間でも仰れますか?」


「おっと、これは失言だったな。だが、その子が望むのであるならば、養子という選択肢は、まああってもいいかなとは思う」


 カオルに苦言を呈されても、オーロイス伯爵はどうにか乗り切っていた。

 ところが、同時にルーシャを養子にする可能性を口にしている。やはり、子どもが欲しいのは事実のようである。


「12、3歳って感じですからね。それに、ここはマサエウ王国にとっては重要拠点。やはり、跡継ぎのことは考えておくべきだと思いますよ」


「ああ、その通りだ。だが、私はどうも女性とは疎遠でね。仕事に打ち込んでいた結果、この年まで見事に独り身となってしまったよ。いやはや、面目ないというかなんというか」


 オーロイス伯爵は苦笑いを浮かべている。

 その一方で、カオルは仕事一辺倒になって結婚という考えが浮かんでこなかったという伯爵の気持ちが分かる。

 それというのも、カオルもまったく同じだったからだ。

 刀に魅せられて、刀の扱える仕事に徹していた結果、ものの見事に独身貴族入りを果たしていたのだ。

 だからといっても、殺陣役者の仕事には満足しているし、仕事仲間との付き合いもあってか、かなり充実した生活を送っていた。


(ああ、俺がここで滞在しているのは、同じような人と出会ったことによる、同情の気持ちだったんだな)


 カオルははっきりと認識したのである。

 似た者同士がゆえに惹かれ合い、この場に留まっているのだと。ただ、そこには恋愛感情のようなものは存在しない。カオルの意識は男のままだからだ。

 そんな風に考えていると、オーロイス伯爵から声をかけられる。


「それじゃ、明日の朝になったら、例のサズギンたちのいる場所に案内してもらうからな。ルーシャも連れてくるように」


「承知致しました。お任せ下さいませ」


 オーロイス伯爵の指示に、カオルはしっかりと返事をしている。


 いよいよ今度は、サズギンたちが一時的に迷惑をかけたオーロイス伯爵と顔を合わせることになる。

 一体どういう状況になるのか、カオルはまったく想像ができない。

 ひとまずは穏便に終わってくれることを祈って、翌日からの支度をするカオルなのであった。

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