一話
この世界がファンタジーやメルヘンだったらどれほど良かったかって思う。
僕は今、ある橋の下に流れている川の下流にやってきている。なんでも、上流からさまざまな物品が流れてくるんだとか。最初は半信半疑だったが、実際に物品が流れ着いていることを目撃してその噂は本当だということがわかった。日用品、消耗品、娯楽もの……どれもまだまだ使える代物だ。ここから家にいくつか持っていくのもアリだな、どうせ誰のものでもないだろうし。
「……ん」
僕は背後に気配を感じた。振り返ると、そこに居たのは……二足歩行のカナヘビ?
「えと、良い天気ですね」
「ええ、本当に」
「失礼ながら、どうしてここに? 何か探し物でも?」
「少しカナヘビ達の散歩ついでに寄っただけですよ」
「シャー」
周囲に居たカナヘビ達が鳴いた。
「ところで」
「なんです?」
「どこかに大切な人を置いていってはいませんか?」
「…それならば、ご心配なく。僕の知り合いは全員死にました」
「そう、それはお気の毒に」
「そういえば、貴方は?」
「私はディマドリードと申します」
「僕の名前は日輪 昇です」
「昇さんはどうしてここに?」
「使えるものがないかと思って。最近ここらに引っ越してきたばかりで、生活用品が揃っていないんですよ」
「なるほど」
「そうだ、こうして会ったのも何かの縁。これをどうぞ」
僕は名刺をディマドリードさんに渡した。
「最近便利屋を始めました。よろしければご利用を」
働かないといけないのはわかっていた、でも何をすれば良いかわからないのでとりあえず便利屋を始めた僕。
「なら、早速仕事を頼んでも?」
「ええ、構いませんが」
ディマドリードさんが指を鳴らすと、カナヘビ達がバスケットを持ってきた。中にはたくさんの食料が入っている。
「これをソルという龍に渡してくれませんか。エルドラドさんが心配しているみたいで」
ディマドリードさんはエルドラドさんの知り合いだったのか。
「場所は?」
「大きな木がぽつりとある場所に行けば、自ずと向こうから来てくれますよ」
「なるほど」
「料金は仕事終了を確認したカナヘビ達から配られますのでご心配なく」
「わかりました」
僕は例の場所を目指して歩き始めた。
「大きな木がぽつり、か。よっぽど目立つ場所だろうな。じゃなきゃあんな曖昧なことは言わない……と」
思った通り、眼前に一本の大木が見えた。おそらくここだろう。
「にしても、相手からやってくるってどういうことだ? 誰も居ないじゃないか。バスケットは木の下に置いておくか」
そうして僕は大木に近づいた、その時だった。
「うおわぁっ!?」
いきなり目の前に火の海が広がった。僕は慌てて後ろへ下がる。
「……俺らの縄張りに入ったのはお前か」
声がした方を向く、ガリガリで紫色の身体をした龍が僕のことをギロリと睨み、威嚇をしていた。彼がソルだろうか。
「ぼ、僕の名前は日輪 昇。頼まれ事をされてここまでやってきた、決して悪事を働こうとしているわけではない」
「何……?」
「まずはこれをどうぞ」
僕はバスケットを差し出した。
「ああ、またあいつか。悪かったな。ここらは俺らの縄張りだから、入られると最初に攻撃しちまう」
「いえいえ」
むしろ、それが普通だと思う。
「貴方がソル?」
「いかにも」
「エルドラドさんが心配していましたよ、普段何食べてるんですか」
「そこらへんに居る奴ら殆どかな。爬虫類やら虫やらでも食うぞ」
だからそんなにガリガリなのでは?
「まあ、冬になったら今よりもたくさん飯が送られてくるんだろうな。いざとなったら冬眠するから別に良いのに」
「そうですか。では、これで」
「ああ」
そうして僕はあの場所へ日用品探しに戻ろうとした。あ、そういえば報酬はまだだろうか。
「おい」
「?」
ソルが僕を引き止める。
「お前、不死身になる方法を知ってるのか」
「……知らないよ。いきなり何?」
知ってるけど、教えることはできない。
「お前の片割れを名乗るやつは知ってるって言ってたぞ」
「!」
くそ、よりにもよって降に会っていたのか。厄介なことになった。
「いや、あいつのことは無視してくれ」
「本当に知らないのか?」
「逆に僕が知っているとして、どうしてそんなに知りたいんだ」
「知識は多い方が良いからな。何かあった時のために」
どうやら、下がってくれなさそうだ。だから僕は一つ提案をした。
「僕とリアルファイトで勝ったらヒントを教えるよ。負けたら何も聞くな」
「ああ、構わないぞ」
「スタートの合図はどうする?」
「そうだな……」
僕は空を指さして
「今太陽が雲を覆い隠している、太陽が雲から出てきたらスタートだ」
「なるほどな」
ソルは空を見上げた。
「眩しいな」
「片時も目を離さないことだ、スタートの出遅れは致命的だぞ」
そう言いつつも、僕は太陽を見ない。ずっとソルを見続ける。
「お前はどうやって戦うんだ」
「拳だな」
「なら、この戦いは俺の勝ちだな」
時間が刻一刻とすぎていく。太陽はなかなか顔を出さない。
「お前、何か細工でもしてるのか」
ソルは空を見ながらそう言った。
「してない、何も」
「さて、そろそろだ」
ソルがこちらを見た。太陽が顔を出したということだろう。僕はそれを合図に動いた。
「とっととやっちまおうぜ……うおあっ!?」
ソルは障害物がないにも関わらず僕の姿が見えていないだろう。それもそのはず、ずっと太陽を直視していたら目を逸らした瞬間視界が一瞬暗くなるからだ。それはたった刹那の間だが、戦闘面ではそれだけでかなり致命的なのだ。
「やりぃ! こんな手に引っかかるとはあったま悪いぜ!!」
「くそ!! 人間のくせに生意気な!!」
僕はソルに突進する。太陽を見ていなかったため視界はクリアだ。10歩程度の間合いは即座に縮み、僕の間合いになる。僕とソルは取っ組み合いになった。流石は龍、かなりの力の持ち主だ。
「この俺の力に耐えるだなんて、もしかして人間卒業してたのか?」
「まさか、これでもギリギリ人間さ」
そして、ソルが僕にパンチを見舞おうとした、その時
「喧嘩はやめなさーい!」
男の人が仲裁に入った。
「……あの人間、知ってるか」
「いや、全然。そっちも知らないのか?」
「知らないな」
僕とソルは殴り合うのをやめた。
「やれやれ、これは試合を止めるしかなさそうだな」
「そうだな、せっかくの戦いがしけちまった」
僕は不死の秘密を教えなければそれでよかった。だから、この状況はありがたい。
「昇、場所を変えようぜ」
「そうだな、この戦いを見られた野次馬に騒がれても困る」
「次は地面ごとお前を炎で焼いてやる」
「残念だったな、もう次の作戦は閃いているんだ」
「はぁん? それは一体?」
僕は180°旋回して一気に走り出した。
「逃げるんだよォ!」
「うぐぁーッ!! なんだあの男ーッ」
僕は全力で人里にある拠点へと走る。
「いやー、走った走った」
僕はそのまま拠点へ直行し、身を部屋の中へと投げた。
「…………暇だなぁ」
ゴロゴロと転がっていると、お金が入ったバスケットが置いてあった。あのカナヘビ達が持ってきてくれたのだろう。
「ディマドリードさんが初めての客だったわけだが、こういう仕事って暇な時間が多いんだろうな」
暇だからこそできることもあるのだろう、降を探すとか夢幻のところに遊びに行くとか。あそこに居候してもよかったのかもしれない。でも、いつでも会えるのではなく、会いにきてくれる、ということが重要なのだ。
「……ああ、そういえば日用品の収穫なしだった」
またあの場所へ行かなきゃいけないのか、でもそれはソルと遭遇するリスクがある。
「……適当にぶらつくか」
人里を歩いていると、見慣れた獣に出くわした。
「お前は、昇か」
「スパークじゃないか。どうしてここに?」
「寺子屋に用事」
「思ったが、人里に牙狼が居て大丈夫なのか?」
「人間には野良犬くらいにしか見えてないんだ、失礼するよな」
わりと人間達って節穴なのか?
「どうして寺子屋に?」
「子供の一人が弁当忘れたから」
「なにそのサ◯エさんみたいなアニメにありそうな展開」
「仕方がないだろ。まぁ、僕も暇だからな」
「暇だと言っているやつほど動かないんだ。その点、暇だから動くスパークは偉いよ」
「……そうか」
心なしか、スパークは照れているように見える。
「お前も来るか」
「ああ、暇だからな」
僕はスパークについていった。
寺子屋にて。スパークは子供に弁当を渡す。
「ワンちゃんありがとう!」
「ワン」
スパークは軽くそう鳴いた。
「ああ、そこの人。ちょうどよかった」
「はい?」
先生らしき人が僕に声をかける。
「実はもう一人の先生が風邪でお休みでして、人手が足りないので手伝ってほしいんです」
「はぁ、具体的には何を?」
「子供達と遊んでほしいんです」
「なるほど」
遊びと言われてもな、僕はクトゥルフやパラノイアみたいなゲームしか知らない。
「それじゃあエイリアン鬼ごっこをしよう」
「エイリアン鬼ごっこ?」
「増え鬼のひとつ、鬼は人間の言葉が話せずエイリアン語しか喋れない」
「よし、それでいこう」
子供達が集まってきた。僕は子供達とエイリアン鬼ごっこを楽しんだのであった。




