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 月                       日輪  作者: 虹彩霊音
あおいねこは救われずきえました
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8話

私はずっと、お前の姉さんだよ



「………バカじゃねぇの」


「ごめんなさい」


「敵を自分ごと焼くなんて、まぁ味方ごと焼くよりはマシか」


「だって、退路確保できなかったし。仕方がなかったんだ」


僕は燃え盛るキッチンから焼肉になる寸前のところで救出され、エルドラドさんのところで治療を受けた。


「あとは自分の回復力でなんとかしろ」


「薬とかないの?」


「バカにつける薬があると思ってるのか?」


「僕はある人間の命を救った勇気ある人間なんだがな」


「自分が死んだら意味がないだろう」


「どうせ死ぬんだから良いだろ」


「命を粗末にするな」


「この世に未練がないんだし、良いじゃん」


「相手がもうすぐ死ぬからって、お前は殺すのか?」


「……ごめんなさい」


「分かれば良い。後で昼飯を持ってくるから、大人しくしておけよ」


そうしてエルドラドさんは部屋を出た。僕は音廻を救った英雄なんだからお礼のひとつくらい欲しいんだが。まさか、夜じゃないと行動できないとか? まさか、吸血鬼じゃあるまいし。


そこでユートピアがやってきた。


「派手に暴れたらしいね」


「ああ、もう一人の自分とな」


「とんだ自慰行為じゃん」


「それを言われると辛い」


「夢幻が心配していたよ、運び込まれた時は目ん玉飛び出るくらいびっくりしてたもの」


「はは、女の子にはこんな姿グロすぎて見せられないな」


「いや、見慣れているよ。夢幻この前雷に打たれて焼けたことあるし」


「なぜ?」


「黙秘権を使わせてもらう」


「あーそうかい。でも、どうして夢幻が僕のことを?」


「それも黙秘。ほら、ご飯持ってきたから早く食べなよ」


「わかったよ」



入れ替わりに夢幻がやってきた。


「僕は元気だぞ」


「昇さんは女の子のためにはっちゃける男子なのかな?」


「まあそんなところだ」


「それ、ご飯?」


夢幻は僕のそばに置かれているトレーを指差した。


「あげないぞ」


「要らないよ。昇さんは不死になれると聞いたら不死になる?」


降も倒したことだし、それも良いかもしれない。でも、なぜか素直に首を縦に振れない。


「それは残念」


……ああ、アナザーが暴走するのはこれが理由か。


「ごめん、やっぱり永遠は要らないや」


「そっか。お父さんならどうにかできるんだけど」


「これが、人間の運命なんだ」


「わかった。無理だけはしないでほしい。貴方を大切に思う人がこの世には居るんだからさ」


「いや、居ないよ。僕を大切に思う人なんて」


だって、降に殺されたんだから。


「ここに居るじゃん」


「へ? 夢幻が?」


「そうだよ。だから、簡単に命を捨てないでね」


その言葉で、この世に居場所ができた気分だった。知らない世界に迷い込んだ、僕は一人だと思っていた。


「ありがとう…」


「好きなだけゆっくりすると良いよ」




僕と夢幻は夜になるまでずっと談話をしていた。


「それじゃ、もう遅いからおやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


おやすみなさい、か。


ははっ、そんなものに従うわけがないじゃないか。僕は早速部屋を抜け出した。僕には行くべき場所があるんだ。僕は真っ先に玄関へと向かった。



と、そこで蒼い虎と鉢合わせた。僕は即座にこれが蒼冬であるとわかった。


「ここで、何を?」


「貴殿に礼を言おうと思ってな。音廻を守ってくれてありがとう、いや…正確には渚か」


「そうだったな、そんなこともあった」


「はは、あれ以来お医者さんごっこが好きになったみたいで」


「じゃあ、僕はお医者さんにするためにここに?」


「違うな」


「そうだな、僕はロリコンじゃない」


「同い年が好きなのか?」


「年上だな」


「そうか。私が女(メス)だったら条件を満たしていたか」


「へ?」


あっけにとられた僕。


「冗談だ、何を慌てているんだ?」


「男はそういうことで慌てるものなんだよ。告白なんてそう簡単にされるものじゃない」


「そうか。…少し、話を聞いてくれないか」


「わかった」


「姉上から聞いた。アナザーは人が行き着く場所を知っている限り何度でも蘇るかもしれないと」


「そうだな。アナザーを封じても結局は自分の中に居る」


「ああ、ずっと居るんだよな」


「………蒼冬、前から気になっていたことがあるんだ」


「良いぞ、何でも答えよう」


「まず……お前は本当に音廻の姉なのか? 血縁関係の」


「………違う。血縁上の家族は、姉上だけだ」


それから蒼冬はしばらく黙っていたが


「……貴殿は、狼に育てられた赤子の話を知っているか?」


「ああ、聞いたことはある」


「親から赤子のうちに捨てられ、狼に育てられた。自分を狼だと思い込み、狼の家族として一緒に育っていった。しかし、ハンターによって保護という名目の誘拐をされ、人間としての暮らしを強要された。狼として行動をしていたのに、いきなり人間になれだなんてあまりにも無謀すぎる。しかも、大人になったら一人前だとかいって残酷な人間社会の中に放り込まれる。人間としての生き方を教えてもらっていないのに、そんな場所で生きられるものか。その子供は、狼として生きていた方が何倍も幸せだったんだ」


「……保護する側のエゴにすぎない、か」


「そうだな。それじゃあ次は…どうして音廻の姉を名乗っているか話そうか。音廻はさ、家族を失っていたんだよ」


「家族を?」


「ああ。父も母も、そして唯一の姉さえも。音廻はずっと孤独だった。そこで偶然、私の封印を解いた。私は解放された。私は音廻の境遇を知った、同情した、あんな幼い人間が背負うにはあまりにも重すぎると。だから私は演じた、音廻の姉、群青 蒼冬という人柄を」


「……どうして、そんなことを?」


「…私にとっては千年前の出来事だ。貴殿達にとっては明日かもしれないな。私は突然変異でこの蒼い身体で産まれた。そのせいで家族は人間に追いやられ、離散した。その先で私は一人の人間に拾われた。その人間とはいつも共に過ごした。幸せだった。楽しかった。だが、その幸福は国レベルの戦争によって血染まった。私はその人間と離れ離れになった。私は2回も孤独を経験した。その後なんやかんやあって、別の人間に封印されて今に至る」


「なるほどな、壮絶な人生を歩んできたからこそ音廻にそんな目にあって欲しくなかったと。でも、お前は」


「そうだ。私は蒼冬ではない、蒼冬を演じているただの虎。人間のガワを被った獣だ。それでも、そんな私のことを、音廻は姉だと言ってくれる。その度に嬉しくなるし、同時に本当の音廻の姉に申し訳なくなるんだ」


「……音廻は人間なんだよな? 悪魔、とか言われていたが」


「……私が死にかけた時、マルバスという悪魔が音廻に力を分け与えたみたいでな。その影響だろう」


「なるほど」


「おかげで、音廻も不死身になった。でも、完全に死なないってわけじゃない。それは私も同じなんだ」


「そうなのか」


「……私は、音廻に死なれて取り残されるのも、自分が死んで、音廻を取り残すのも、どちらも、嫌だ」


「うん」


「私は………俺は………音廻とずっと一緒に居たい。でもできない、それが運命だから。でも一緒に居たい、でも永遠には居られない」


その二つの思いがぶつかった時、アナザーは生まれるのだろう。一緒に居たい、でもできない、どちらも本音なんだ。でも、生きることと死ぬことを同時に受け入れることはできない。生きることが死ぬことだと理解した時、もう後戻りはできない。


「……どうして、死んでしまうんだろうな」


僕はその質問に答えることはできない。だって、知らないもの。だから、僕は嘘とは言えない嘘をついた。


「死を知らない人のために、生きることの素晴らしさを伝えるためだよ」


「……ははっ、そうか」


きっと、この問いを見つけられるほどの強い人間なんて居ないのだろう。……考えるのはやめよう、またアナザーが暴走するかもしれない。


「ああ、そうだ。伝言があったんだ」


「なに?」


「あの火事から焼死体がひとつも出なかった。意味わかるか?」


「……誰も死んでいないのか」


「その通り。もう一人の貴殿はまだ生きている」


やれやれ、思い残すことができてしまった。まだまだ死ぬわけにはいかないな。


「あと、これは個人的な話。貴殿のことが少しだけ好きになった。これからもよろしく頼む」


「ああ………へ?」


「なんでもない」


「いや、うまく聞こえなかった。なんて言ったの?」


「最初のあの時、割とときめいたんだ。私がメスだったらOKしてたかもな」


「あー、なんていうか、そのー、そんなこともあったな」


「勇気のある人間は嫌いじゃない。上から指示するだけの将とは大違いだ」


「なるほどね、ありがとう。それなら、お付き合いとかしてみる?」


「それはできないな、私は男(オス)だし、音廻が居る。それじゃあ」


蒼冬はそのまま帰っていった。僕はただ一人、その場で立ち尽くしていた。


なんていうか、新鮮な気持ちだった。




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