二話
H2O 35L C 20kg NH3 4L Ca(OH)2 1.5kg
P 800g NaCl 250g KNO3 100g S 80g F 7.5g
Fe 5g Si 3g その他15の元素
「いやー、まさか怒られるとは思わなかった」
「あんな奇声出したらそりゃあ怒られるだろうよ」
「そうかなー、あれくらいがちょうどよくないか?」
「子供達が奇声あげながら下校したらどうするんだ」
「確かに、それもそうだ」
とんだ地獄絵図だ。
「ホワァ! とかやああああああああああああは僕のところでは普通だったんだがな」
「ぎゃおーみたいな感じの方が良いだろ」
「うふ、うふふふふふふふや南無ー! は?」
「もうただのやべーやつ」
「そもそも、かわいい奇声を出すエイリアンなんているわけがないじゃないか。奇声を上げることによって相手のSAN値を減らす」
「正気じゃないな。それより、お前はこれからどうするんだ」
「正直、やることがない。橋の下に流れてる川を物色する途中でドンパチやったし」
「ああ、あの橋か。あの橋、今でこそ子宝に恵まれるという噂が流れているが、ちょっと前までは血まみれの幽霊が出るとかなんだとかあったんだ」
「怖すぎだろ」
「それじゃあ、僕はもう帰るぞ」
「ああ、気をつけて」
帰って飯食べて寝るか。そうして僕も拠点へと帰るのであった。
夜がやってきた。帰ったは良いものの、やはり暇なので夜の散歩に行くことにした。
「美人さんでもいないかな、ただし美少女少年は勘弁」
とか言っていると、その美少女少年の子供と出会った。
「ラピスラズリ、ここで何を?」
「古本の買取を任されたんだ」
「どうして?」
「親父がたまに物を燃やしたがるからな」
放火魔かよ。
「ああ、でもたまに掘り出し物が見つかることもある。それは僕と渚のものになることになってる。尤も、僕は文字が読めないけどさ」
「なるほど」
「本っていうのは面白いものだね。渚が音読してくれるけど、それを聞いているだけで十分だ」
「どんな本が集まってるか見ても良いか?」
「構わないけど」
早速僕は一冊手に取って読んでみる。
「……読めないな、これは」
「昇も文字が読めないのか?」
「いや、そういう意味じゃなくて」
これは人前で読める書物ではないな。
「どうしたんだ?」
「うーん、思春期の男子には少し刺激が強い内容かな」
「ああ、春画か。たまにあるんだよな」
「もう少しあまあまなやつない? 純愛物とかさ」
「あるわけねぇだろ」
「ちっ、あったらこの場で朗読してたのに」
「そんなことしたらこの場でお前を咬み殺すぞ」
「そんなことをしないと人類は滅んでしまうよ」
「僕は滅ぼす側に立ちたい」
「最近のゲームだと滅ぼす側でもそういうシーンがあるよ」
「それで、主人公の仲間になると。最近の人間はゲームだけやってストーリーは読まないとよく聞くが、つまらなくないのか?」
「どうなんだろう、本人が楽しいならそれでいいのでは」
「こういうゲームって滅ぼす側、すなわち魔王ルートとかもあるよな」
「そうだね」
「ということ、親父をたぶらかそうとする主人公が出てくるってことか」
「うん?」
「ちょっと主人公探して咬み殺してくる」
何を思ったのかラピスラズリは走り出した。ラピスラズリはそのまま走り去ってしまった。
「………このままだと世界を滅ぼす理由が魔王をたぶらかす勇者を殺すためというよくわからないシナリオになってしまうぞ」
「あのー、ちょっとよろしいですか?」
突然僕は話しかけられた。
「構わないけれど」
「あれ、見かけない顔ですね。最近人里に引っ越してきた人?」
「まあ、そんなところ。日輪 昇という」
「初めまして、黄泉 幻よ」
黄泉……? ということは。
「もしかして、黄泉 夢幻のお母さん?」
「え、夢幻を知ってるの!?」
幻は僕の手を握った。
「ああ、エルドラドさんに助けられて色々あって夢幻と知り合った」
「そっかー! 夢幻もユートピア以外の友達ができたんだ!」
幻は嬉しそうに語った。
「最近仕事が忙しくて会いにいけてないんだよね。今度お休みだからその時一緒にいようと思って。ところで、古本を売りにきたんだけど、ラピスラズリはどこにいったの?」
「勇者を探しに行ったよ」
「は?」
「うん、そんな反応がくるっていうのはわかってた。でも間違っていないし、正しくもない」
「それじゃあ……貴方が代理ってこと?」
「残念ながら、そういうわけでもないんだ。また来てくれよ」
「いや、ここで待ってる。どうせ勇者探しは挫折するだろうし」
「うん、同意見だ」
そのきっかけは僕なのかもしれないが。
「何か話そうよ」
「僕はホストじゃないから気の利いた会話は期待しないでくれよ」
「そういうんじゃなくてさ、今度人里でお祭りがあるじゃない」
「そうだったのか、知らなかった。教えてくれてありがとう」
「私、そこで演奏会開くんだ。はい、このことを10人以上に話さないと貴方は不幸になるでしょう」
「なんてこった。今時そんなやり方で宣伝する人が居るだなんて」
「どんなやり方でも宣伝するのが私だからね。これでも夢幻の知り合いに免じているつもりだよ」
くそ、困ったな。友達は10人もいないぞ。
「せめて5人してくれないか。ここに引っ越してきたばかりで友達10人も居ないんだ」
「ん、別に構わないけど」
「よし、もういっちょ!」
「え、じゃあ………3人」
「わかった、それで手を打とう」
まず、夢幻だろ………ユートピアにスパークだろう。
あれ? 3人にすると今度は誘える人数が少なくないか?
「やっぱり5人にしてくれないだろうか」
「しょうがないな、じゃあ5人ね」
よし、さっきの3人に加えてシルヴァリオンと蒼冬だろ…………あれ、まだ足りなくないか?
「やっぱり10人に戻してくれないだろうか」
「ダメっ!」
「だよなー」
怒られてしまった。
「あ、ラピスラズリが戻ってきた」
「おかえり、勇者探しはどうだった?」
「よくよく考えたら勇者なんて居なかったよ」
「そりゃそうだ」
僕のせいだけどさ。
「あ、幻さんだ」
「久しぶり、ラピスラズリ。音廻ちゃんは元気?」
「母さんはいつも元気だよ」
「そっか、良かった」
幻はラピスラズリの頭の撫でた。
「それで、古本だよね?」
「うん、お父さんの部屋を整理してたらたくさん出てきたんだ」
「うお、だいぶあるな。あ、やべ」
「わわ」
荷車に運ぼうとした時、高く積み上がった本がバラバラと崩れ落ちてしまった。
「手伝う」
僕はラピスラズリを手伝おうとした、その時一枚の紙が本に挟まっているのを見つけた。僕は音楽には疎いが、少なくともベートーベンの運命ではない。それに、ここは洋館でもなければゾンビも居ない。
本を運び終わると
「ふー、助かったよ」
「いいんだ」
「それじゃあ、私はこれで。ラピスラズリも今度人里のお祭り音廻ちゃん達とでおいでよ」
「うん、行かせてもらうよ。またね」
「本も集まったし、僕もそろそろ帰るよ」
「それなら僕も帰ろうかな」
「またね」
「ああ、またね」
ラピスラズリと別れた。今日は疲れたし、帰って寝ようか。
――
冥界にて。主である暁 白狐とエルドラドが会話を交えていた。
「主さん。これは、不味いですよ」
「ええ、わかっているわ。でも……」
「主さんの、彼女達の、お義父さんに会いたいという気持ちは痛いほどわかる。でも、これは死者への冒涜だ」
「……………」
「貴方も、彼女達の家族なら、親なら、きちんと娘達の悪行を叱るべきだ。それが親というものだ。それに、彼を殺めるのは貴方にしかできないじゃないか」
「………わかっているわ、今度のお祭りの時、動くわ」




