伍話
カラスは一体何になりたかったんだろう、彼の黒い羽根はそれだけで十分キレイなのに。
「貴様、人間だな!」
「うるせぇ、少なくとも人間じゃないって言ってるだろ」
「人間の臭いがぷんぷんするぞ!」
「犬かよ」
「犬じゃない!」
「じゃあ僕も人間じゃない」
困ったな、僕には会いたい奴が居るっていうのに。
「……人間?」
「やぁ、ガウル。久しぶりだな?」
「こんなところに来て何の用だ?」
「あるものを作ってほしくてさ」
「あぁ?」
「発信機だよ」
「発信機だぁ?」
「できるだけ小さくて、長距離を探知できるものをね」
「何に使うのさ?」
「ちょっとした探索さ。森の奥にあると言われている洞穴にね」
「原因不明の隆起によってめちゃくちゃになったあの場所に? んな無茶な」
「それはわかってる、でもやらなきゃいけないことがあるのさ」
「それはなんだ?」
「大切な人を、救わないといけないんだ」
「それは大変だな。まぁ、俺も河童の端くれだ。ほらよ」
ガウルは僕に発信機を渡す。
「半径5kmが限界だからな」
「助かる」
「おいっ、話を聞け!」
背後から無視し続けていた喧騒が割り込んできた。
「ここは人間は立ち入り禁止なんだぞ!」
「はいはい、もう用事は済んだから出て行きますよ」
僕はその場を去った。
もう準備は終わった、あとは奴が現れるのを待つだけだ。人里を歩いていると……
「…よう」
スパークに会った。
「準備はできたのか?」
「全部終わらせたよ」
「…………」
「…いやあとひとつだけ終わってなかった」
「なんだ?」
「スパークに伝えておきたいことがある」
「あ?」
「僕……もうすぐ、死ぬんだ」
「………クソ野郎が」
「ごめん」
「クソが、クソったれが」
「ごめん」
スパークの頭を撫でた。
「なんだよ」
「別に。スパークは温かくて、僕は冷たいんだなぁって」
「何故そう思う」
「僕は、みんなを置き去りにして消えてしまうから。エルドラドさんに頼めば、長寿を約束できるのに、僕はその選択肢を捨てたんだ」
「なら、僕が一緒に居てやろうか」
「?」
「僕は牙狼、それも龍の血筋を引く者。長い年月を生きることができるし、ちょっとやそっとじゃくたばらないから」
「ああ、スパークはやっぱり……」
「……少し、いいか」
「何?」
「死ぬのは、怖いか」
「いや、怖くない。ただみんなとお別れするのが死ぬほど怖い」
「……そうか」
「そうだよ」
「……なんか、悪かった」
「気にしないで」
「ああ……僕はもう行く」
「それじゃあね」
スパークは人里の奥へと姿を消した。
僕は神社にやってきた、あの獅子巫女が居るという噂である。
「……貴方は」
「貴方がこの世界の調停者?」
「そんな面倒なことはしないわよ。ただ自分の生活を守るためにやってるだけ」
「謙虚ですねぇ」
「貴方、私に何をやらせるつもり?」
「いやいや、ランベルトさんを探しているだけですよ」
「彼に何か用が?」
「渡したいものがあって」
「俺に渡したいもの?」
「ああ」
僕はストラップを彼に渡した。
「なんだ、くれるのか。可愛いな」
「ああ、僕の手作りだ」
ランベルトさんは早速ストラップをポケットの中に大事そうにしまった。
「用事はそれだけ?」
「これだけだよ」
「何しにきたのよ、結局」
「交流は大事じゃない?」
「必要とは思えないわね」
やれやれ、淡白な人だな。
その時、背後から声が聞こえた。
「やぁ」
「アンタは、いつぞやの白龍? またおはぎを盗みに来たの?」
「違うよ。盗みに来たのは、そこの人間」
「は?」
僕は構えた。思ったより早く現れやがったな。
「巫女、そいつはアルカディアじゃない」
「どういうこと?」
奴は大きく翼を広げて、宙に浮いたかと思えば、足でランベルトさんの肩を掴んでそのままどこかへ飛び去った。
「!!」
速いな。僕の脳が処理しきれていない。何が起きたのか理解した時には奴はもう居なかった。もちろん、ランベルトさんも。まぁ、計画通りだから何も問題はないんだけど。早速発信機を確認する。
「向こうか……」
発信機の反応を追った。あのストラップは発信機が仕掛けられていたのだ。これで洞穴の位置がわかるはず。しかし、奴がそう簡単に辿り着かせるわけがない。到達できるとは限らない。
「日輪 昇、ここで何をしている」
それは、月輪 降の声だった。
「お前がここにいるってことは、正解のルートってことか」
「その通りだ」
「そう簡単には通してくれないんだろ」
「その通りだ。まずはこちらをご覧ください」
降の隣に居たのは、馬二頭。どちらも機械仕掛けだ。
「それは?」
「馬だよ馬。機械の馬」
「何に使うつもりだ?」
「競馬をしよう。コースは既に用意した」
「だから、どちらか選べって? 素直に乗ると思ってるのか?」
「そうだな、お前は卑怯な奴だから」
「そうだ、勝つためなら手段は選ばないのが僕だ」
「卑怯な奴ほど真面目な闘いには対等に立ち向かいたくなる。決着を着けようぜ」
「そうだな、真面目に決着を着けようぜ」
「そうこなくっちゃな」
僕は馬に跨った。
「ついて来い」
降は馬に指示をして、森の奥へと入っていった。僕もそれに続く。
たどりついたのは、競馬場だった。
「どうしてこんなものが……」
「大方、奴の地動の力によって偶然にできたんだろう」
「ここで何をするつもりだ?」
「ここで決着をつける、わかりやすいだろ?」
「相手を突き落とすのは?」
「ルールは特に設けてない」
「わかったよ」
「それじゃあ、始めようか」




