肆話
Deep down inside I know I need a love. But I can't count on my third eyes.
アルカディアさんを捕らえた僕らは、その身柄をとりまイール店長の店に運んだ。ハムのように縄で縛られていたので、道行く者達が珍しそうに見ていたが
「今からこいつの首を帝都の門に晒すぞー」
ソルのテンションがやけに高い。ていうかこれエルドラドさんはどう思ってるんだろう。
「うわー、指先から刻まれるー」
アルカディアさんが助けを求めていた。
「日頃の行いが悪いんだろ」
「君よりはマシだ」
僕はいいよ、日頃の行いはめっちゃいい。
「これからどうする、私は彼に聴きたいことが山ほどあるんだが」
「お、俺もあるぜ」
「僕も質問したいことがある」
「それじゃあ私からだ」
蒼冬はアルカディアさんの前に立つ。
「最初の質問だ、貴殿……音廻の茶葉を何回盗んだ?」
「そんなの覚えてるわけがないだろ」
「他にもたくさんの食べ物が盗まれた事例があるんだが、何か知らないか?」
「しーらんぺったんごーりーらー」
「今の立場を考えろ、質問は拷問に変わっているんだ」
「わかったよ、僕が犯人だよ。美味しくてつい」
「音廻は別に怒っていない。問題は渚達なんだ。二人のおやつを盗んだら二人は喧嘩になるからな、渚は相当恨んでいるぞ」
「ひえー」
「それに、せっかくの妹の優雅な時間を邪魔した貴殿を私は決して許さない」
「たすけてー」
「ほらな、悪いことすると自分に返ってくるんだぜ」
「その台詞、そのままお返ししておくよ」
「俺はこれでも愛されてるのさ、問題ない」
正直、僕はいろんな方面から恨まれてそうだな。多少は自重するべきだっただろうか。
「この前三人のために買っておいたショートケーキを全て食べたのはどこのどいつだ?」
「僕ですー。あ、でもファントムさんも食べたよ」
「じゃあ彼女は無罪、と」
「なんでぇー、共犯じゃないかー」
「罪を分散させようって魂胆が見え見えだ!」
「うえーん」
「おかげで私は手作りでケーキを作るはめになったんだ」
「え? なら良かったじゃん?」
「大問題だ! ケーキの作り方なんて知るか! おかげでキッチンが私の炎で爆発したわ!」
「それ僕関係ないよね!?」
「口答えは許さん!!」
しばらく、蒼冬のいびりが続いた。
「あー、すっきりした」
「流石に可哀想になってきた」
「ふん、私の縄張りに入るのが悪いんだ。さぁ、次は貴殿の番だ」
「そうだな……」
僕はアルカディアさんの前に立つ。
「ちょっと、僕は君から何かを盗んだ覚えはないよ」
「そんなことはどうでもいい。まず、アルカディアさんの目的を聞いておきたいと思います」
「………僕は、彼を不死身にするために動いていたんだよ」
「……貴方達の関係は?」
「………そう、だな……」
さっきまでの態度とは異なり、アルカディアさんは答えをはぐらかした。そのまま黙って、何も言わない。
「言えないんですか」
「これは、あまり深掘りしたくないんだ。これだけは頼むよ、他ならなんでも答えるから」
「そうですか……叡智から聞きました、降のことを。それについて話してください」
「ああ、彼のことか。どうしよう、話していいところとだめなところがあるんだよなぁ」
「じゃあまず話していいことを」
「彼は今夜僕の家に来るよ」
「何!?」
「君の大事なお姫様が攫われるかもね」
スパークが簡単にやられるわけがない、そう信じたいところだが…
「蒼冬、ソル、アルカディアさんを頼む!」
「ああ、任せろ。夢幻を守ってこい」
――――――――――――――――――――
龍が棲む館に、命知らずが侵入した。その姿は日輪 昇に似ているが、感じる気は他人そのもの。
「さて、姫の居る部屋はどこだ?」
降はやけに冷静だった。息を殺して廊下を歩む。
「仕掛けるなら……ここか」
降は廊下に何かを撒くと、再び前進した。足音なんて聞こえなかった、降は夢幻の部屋の前まで辿り着く。
「おい、やめろ、近づくな」
「なんでぇ、遊ぼうよ〜」
部屋の中から声が聞こえた。どうやら夢幻以外の誰かが居るらしい。
(……あの黄金郷と戦うことは想定内だったが、まさかそれ以外も居ただなんて)
引き返すべきか、と考えていると鱗が飛んできた。刃のように鋭いそれは、降の頬を裂き、壁に深く突き刺さる。
「避けられたか」
「いやぁ惜しかったですねぇ」
「そうだな、もう少しズレていたら即死できていたものを」
「危ないですね」
「お前の目的は何だ」
降は両腕を広げる。まるで動物が己を大きく見せるかのように。
「不老不死、それだけさ」
「それなら俺の血でも飲むか? 数百年は保証するぜ?」
「断る、不味そうだ」
「それは残念だ。それで、俺の娘の部屋の前で何をしてる?」
「綺麗な姫様を誘拐するためだよ」
「そうか、なら死んでもらうとしよう」
そうして黄金郷は吼えた、それを合図に雷を纏った牙狼が現れる。
「狩りの時間だぜ」
降は焦っていた。二対一のこの状況、こちらが不利なのは確定事項。
「流石にアナザーといえ、俺らを相手にするのはキツイんじゃあないか?」
「はっ、俺もみくびられたものだ。俺だってこんな時に無策で突っ込むほどバカじゃない」
「…………」
「逃げる!!」
降は回れ右をして廊下を走った。
「追いかけるぞ」
「わかってる」
降は逃げる、その途中で聞こえた声。
「そのまま逃げろ、彼女のことは僕に任せろ」
その声を降はよく知っていた。そして思った、あいつにもアナザーができたのかと。今はこの声に従うしかない、降は廊下をステップして走り抜ける。エルドラドはそれを見た途端不審に思った、なぜあのような走り方をする必要がある?
(いや、違う)
次の瞬間、エルドラドは両手両足を蜘蛛のように壁につけた。下を見ればそこは強力な粘着液の海。そうか、あの歩き方をしてこの場所を避けていたのか。
「うわ!」
スパークが足を取られる。
「くそ、こんな悪あがきを!」
エルドラドはスパークを置いて降を追いかけ続ける。降が廊下の角を曲がる。
(ふん、その先は行き止まりだ)
エルドラドも続く。だがそこには降は居なかった。代わりにそこにあったのは大きな穴。人の子一人入れる大きさだった。
「これは……シロアリによってできたもの? しかし、どうしてこんなにも……」
そこでエルドラドは勘づいた。まさか、弟が加担しているのか?
「夢幻……!」
エルドラドはすぐさま夢幻のところに向かう。だがそこに夢幻の姿はなかった。
―――――――――――――――――――――
僕は夢幻の家へと走っていた。彼女を守らなくては、そう考えながら。心が荒む、冷静でいられなくなる。僕は焦っていたんだ。夢幻のことになると感情が昂ってしまう、やはり僕は夢幻のことが好きなのか。
「やぁやぁ、そんなに急いでどうしたの?」
僕の目の前に白龍が現れた。僕は立ち止まる。
「何でここに居るんだ」
「僕は世界に縛られない龍だからね」
「違う、お前は今縄で縛られているはずだ。どうしてここに居る」
「そんなこと気にしたって仕方がないだろ? ここで君に問題、君の好きなお姫様はどうなったと思う?」
「…はっ、嫌な予感しかしないな」
「彼女の雁首は僕の手中、どうなってもいいならスルーしてもいいよ」
「すると思ってるのか?」
「ないね」
「夢幻は今どこに居る」
「言うと思ってる?」
「ないな。だから力づくで吐かせる」
「そう来ると思った。でも僕は無闇に戦いをする龍じゃないから……」
そうして奴は僕から離れる。僕は追いかける。しかし、いくら走っても追いつかない。
「無駄だよ、僕は『生命を操る』ことができる。君の走るペースは今や僕の気分で決まる。君はどう頑張っても僕には追いつけない」
「クソッ」
「じゃあの」
そうして奴は翼を広げ、飛び去っていった。
「……逃したか」
僕は、店に戻った。蒼冬とソルが僕の顔を見て驚く。
「どうしたんだ?」
「すげぇ顔だな」
そんな二人の声なんかに耳を貸さず、僕は奴の前に立つ。
「どうしたのさ、そんな顔して。もしかして彼女が攫われ゛ッッッ!!! がぁぁッッ!!!」
僕は奴の腹を数発殴った。内臓まで届く勢いで。奴はゲロよりも汚いゲロを床にぶちまける。
「言え、夢幻をどこにやった」
「ごっ、がぁっ、痛いじゃないか。いきなり何をするんだよ」
「いいから答えろ、夢幻をどこにやった」
「おい、それ以上はやめろ!」
「うるせぇ! 夢幻が、夢幻が……」
「まさか、攫われたのか? だとして何故アルカディアに当たるんだ?」
「だって、こいつが! こいつがその汚ねぇ口から!!」
「何を言っている、彼はずっと私たちと一緒だったぞ」
「……何?」
「嘘じゃないって、ずっとここでいびられてたんだ。ついさっきクサヤ食べさせられたんだよ」
「じゃあ、僕が会ったのは……」
「…………」
「アルカディアさん、まさか貴方……」
「もう一人の僕に会ったの?」
「……そうかもしれない」
「そっか……なら、今頃『森』に居るだろうな」
「森、だって?」
「兄さんと昔そこに棲んでたんだ。洞穴でね」
「案内してくれ」
「無理だよ。どうやったのかわかんないけど、あいつ森の中の構造を変えやがって僕でも帰れないんだ」
「くそ、どうすれば……」
頭を抱えた。何か方法はあるはずだ、考えろ。
「まさか、僕でも辿り着けない場所に行くつもり?」
「黙れ、クソアマ」
僕は店を出る。
これじゃあ夢幻を救えない。どうにかして洞穴に辿り着かなきゃいけないのに、その方法もわからない。どうすりゃいいってんだよ。
「どうしたんだ?」
後ろから声がした。ランベルトさんだった。
「考え事」
「表情からして重いな? 何があった?」
「大切な人が誘拐された」
「大変だな」
その時、僕は閃く。奴の目的、ランベルトさんを不老不死にすること。それはアナザーも同じのはず。なら、彼の前に現れるのは確実。
「少し、協力してほしい」
「いきなりなんだ? まぁ、困ってる者を見捨てるだなんて最低なことは俺にはできないから力になってやるぜ」
「ありがとう」
この方法がうまくいけば、きっと洞穴にまで行ける。僕は祈りながら、作戦の準備を始めた。




