参話
死ぬことは難しいことではない。問題なのはそこに辿り着くまでの道のりだ。どうやって生きるかが難しいんだ。
「ここはどこなのだ?」
「どこか、と言われても……ごめん、僕もここらには疎くて」
「そうか、まあそれなら仕方ないな」
「じゃあ僕は忙しいのでこれで失礼」
「ああ、待ってくれ」
結局、この男性は僕についてきた。
「日輪は何をしているんだ?」
「食料の調達だよ」
「そうなのか」
「貴方はどうしてこんなとこに?」
「意識だけこっちに飛んでるんじゃないかな」
貴方は何を言っているんだ。
「仕事から帰って眠ったら、ここに居た。夢の世界なんだろうなって」
夢じゃないんですよこれが。まぁ、言うのは野暮か。
「目が覚めたら現実なのか」
「そうだ、なら楽しむしかないよな」
「そうするといい」
「……何故ついてくるんです?」
「暇だからな。夢といえば、不思議の国のアリスだよな」
じゃあ僕は序盤に出てくるウサギってこと?
「次はどんな人が出てくるのかな」
「あんまり期待しない方がいいよ、リアルな変人が出たらシャレにならない」
「それもまた然り、神秘的なものさ。神秘は変なものでできているから。だから、楽しいのさ」
「………」
「しかし、科学というものによってその神秘さは薄れてしまった。要するに、みんなロマンってものがない。俺はそれが悲しい」
「みんな感受性が貧しくなったのか」
「そういうことさ」
僕も、不思議なものに触れすぎて心が貧しくなってしまったんだけどね。
「そんなに食料を集めてどうするつもりなんだ?」
「店で売る」
「どこの店?」
「ここから少し行ったところに。賑やかなんだよ」
「はは、さぞ美味い飯を出してくれるのだろう」
ああ、美味いな。狐がたらふく食べてしまうくらいには。……と、そこで背後に気配を感じた。ランベルトさんのものではない。
「こんなところに居たんだ」
「およ? 白いドラゴンのコスプレをした人が現れたぞ」
「いやこれは……ああ、そっか。うん、コスプレしてる。かっこいいでしょ」
「めっちゃかっこいいな!」
「まぁこれは置いといて、すぐにその男から離れろ。そいつは馬を爆散させたり、か弱い女の子に向かって大砲を撃つやばい奴なんだ」
事実なのが辛い。
「さぁ、逃げよう」
「アルカディアさん、何のつもりですか」
僕はアルカディアさんに向き合う。
「最近、色々と企んでいるそうじゃないですか?」
「何のことだい?」
「月輪 降のことですよ」
「誰から聞いたのさ」
「世界一のシスコンから。降と一緒に何かしているそうですね?」
「はは、だからなんなのさ?」
「いや、僕の目的はあくまで降。アルカディアさんは好きにやっていて構わないというだけです」
「そうか、じゃあ僕は彼を連れていく」
「どうぞご勝手に。ただこれだけはあいつに伝えてください。『お前の好き勝手にはさせない』と」
「ああわかった、伝えておこう」
「ちょっと待て、二人ともさっきから何の話を?」
「に……君には関係のないことだよ。さぁ、行こう」
「行くわけないだろ、完全に誘拐犯じゃないか」
「うーん、それは困ったなぁ。ま、君のことは急ぎじゃないから別にいいか。元気にしてれば今のところは」
そうしてアルカディアさんは空を飛ばずにそのまま歩いて消えていった。
「なんだったんだ、彼は。人間らしからぬ匂いがしたぞ」
そりゃあ人間じゃないからねぇ。
「日輪は一般人? 変人?」
「一般人だね」
「じゃあそんな君に質問だ。パンツ何色?」
「野郎のパンツの色知って何になるんだよ」
「ははは、冗談だ。俺はこれから観光に行くんだが、何かいいところはないか?」
「神社。なんでも、獅子が巫女をやっているんだとか」
「じゃあ、そこに行こうかな。それじゃあ」
「気をつけて」
「馬肉の誓いぃぃぃぃ!! 通販でグリーンシャツぱねぇ蟹味噌☆バレンタインンンン!!!」
店に戻るとイール店長が熱唱していた。
「ラーメンは伸びるすぐそれママに言う」
「この歌知ってるんですか」
「ええ。いっぱい採ってきましたよ」
「おほぉ、これでなんとかなりそうです」
「おいーす」
その時、来客が現れた。
「アテン? 珍しいわね、貴方がこんなところに来るなんて」
「爬虫類同士仲良くライブをやろうってだけさ」
「貴方両生類でしょ、ウーパールーパーなんだから」
「卵を産むのは同じなんだから良いじゃないか」
「私はドラゴンよ」
……ちょっとまった、ウーパールーパーは水から出ると陸化してマジもんのサンショウウオになるはずだ。なのにこの人はあのぷりちーな姿を維持できている。どういうことだ? この人が特別なだけなのか?
「どこでやるの?」
「いつもの場所で、あそこは湿気がたくさんあるから」
僕を置いて二人は音楽活動らしき予定を話し合っていた。
「スパーク、あの二人の関係って?」
「ライブコンビ。仲良しなんだ。でも僕には良さがわからない。さっきの歌聞いただろ? 馬肉の誓いって何さ?」
スパークみたいな子には空耳に聞こえちゃうのか。それにしても店長のライブか、聴きに行こうかな。アテンさんはしばらくして帰っていき、イール店長は仕事に戻る。
「興味あるので今度聴きに行っても?」
「あら、それは嬉しいですね」
「いつごろ?」
「明後日の深夜に」
「わかりました」
………僕は今日起きたことを振り返った。そして、スパークに言う。
「スパーク、明後日はずっと夢幻の傍に居てほしい」
「……何故?」
「頼む」
「……わかった。また危ないことに突っ込むつもりなんだな」
「ありがとう。スパークには、僕が死んだ後の夢幻のことをお願いしたいから」
「フン、お前は本当に夢幻のことが好きなんだな。良いぜ、お前の頼みだ」
――――――――――――――――――――
そして時刻は深夜、僕は店長が開いたライブ会場に来ていた。宵闇が世界を侵食している。僕はこの日、助っ人を呼んでいた。
「昇殿、こんなところで何を?」
「きてくれたんだ、ありがとう」
「別に、私はあのドラゴネットのライブに興味があるから来ただけさ」
「来てくれたことに変わりはないじゃないか」
僕は最後の戦いのために、蒼冬を呼んでいたのだ。もちろん、彼だけではない。
「こんなところに呼んで何をするつもりなんだ?」
「ソル、来てくれたのか」
「暇だからな」
「それで、蒼冬。今日やることなんだけど……」
「ああ、ちょっと待ってほしい」
「?」
「雪月 花、貴様見ているな!!」
「!?」
「よし、これで良い。で、話とは?」
「ああ……もう一人の僕が今夜暴れる予定なんだ」
「ああ、あのアナザーか」
「うん」
「厄介な者だ。音廻の件から音沙汰はないみたいだが、次に危険に晒されるのはどこのどいつだ?」
「この世界の住人はそう簡単にはくたばらない、だから誰も彼もが狙われるかも」
「守りきれないな」
「いや、それでも相手の目的はわかるんだ」
「お前らさっきから何の話をしてるんだ?」
「ソル、この前霹靂さんの大群と戦っただろう。あれと同じようなものが僕にもいるんだ」
「お前が何人も居たらキリがないぜ」
「安心しろ、一人だけだ。そいつが悪巧みをしてる」
「そいつから誰かを守れと言いたいのか」
「そういうこと」
話が早くて助かる。
「それで、相手は?」
「降と、アルカディアさん」
「待てよ、アルカディアと戦るっていうのか? マジで言ってんのかよ」
「だったら僕がアルカディアさんを食い止めれば良いんじゃないか?」
「それがいいな」
「お前、死ぬつもりか?」
「もともと死ぬ予定の人間さ」
「…………フン」
「さぁ、今日は存分に暴れてくれ」
「で、私達は何をすればいい?」
「ここにランベルトという人物が来る、彼を守ってくれ」
「どうしてそんなことがわかるんだ?」
「こんな怪しいライブをあの巫女が放置するわけがないだろう、そして彼は巫女と共に行動している」
「怪しいってお前……店長だろう」
「犠牲は……致し方ない」
「こいつ最低だな」
「まぁ店長には頑張ってもらうとしよう」
一方、夢幻の家では。
「おい、夢幻。居るか」
スパークは日輪 昇に言われた通り、黄泉 夢幻の護衛に来ていた。
「何しに来たの、夢幻なら一人オセロで忙しいよ」
「……そのオセロの相手になってやるよ」
「ふーん、まぁいっか。あがりなよ」
ユートピアに通されて、スパークは夢幻の部屋まで向かった。
「……マジで一人でオセロやってんのな」
「お母さんはまたお仕事で忙しくなっちゃったし、お父さんはオセロよりチェスの方が得意だから」
「……面白いのか?」
「すごくつまんない」
「だろう? 相手になってやるよ」
「そっか」
夢幻は盤面に並べられていたオセロの駒を払った。スパークは夢幻の反対側に座る。
「それにしても、今日はどういう風の吹き回し?」
「お前のことが好きな人間から、お前を守れと言われたから」
「そうなんだ。しっかり守ってね」
「おう」
「スパーク」
「何だ」
「私がオセロに勝ったら、仲直りしよう。スパークが勝ったら、スパークの好きにしていいよ」
「………これだから君は嫌いなんだ」
始まる、ライブが。
「このライブを聴くために来たわけじゃないのが残念だ」
「その通り、僕たちはランベルトさんを守らないといけないんだ」
「どうしてそこまでその人に固執する?」
「それは、アルカディアさんが彼を不老不死にしようとしているからだ」
「それはそれは、どうして?」
「ランベルトさんに対するあの対応……僕の知っているアルカディアさんではなかった。おそらく、何かしらの関係がそこにはある」
「そのランベルトってやつの近くにいれば、アルカディアを捕まえられるってわけか」
「ふむ、ならば私が彼の隣に行き、アルカディア殿が現れたら高速移動で捕まえれば良いな」
「ああ、それがいいな」
あの速さはチート級だ。あれを超えるなんてそれこそ光でもなければ難しいのではないか?
そして、ライブが始まる。それと同時に現れた獅子。
「……うるさいな、本当に」
「このライブ……俺の知っているものに近いような」
「どうでもいいわ、とにかく退治しないと……」
「ははは、それが巫女の仕事だものな」
「アンタはここにいなさい」
イージスは迷惑なライブを成敗するためにステージに向かった。その途端、背後から現れる大きな影。
「よう、元気してたか?」
「……昇か」
「どうしてここに?」
「僕もライブが聴きたくなってね」
その時だった。
「うわー!! なんだこいつらはー!!」
「みんな逃げろ、襲われるぞー!!」
(こいつら、だって? まさか強引に攫っていくつもりなのか?)
会場に現れたのは数多の生物達、アルカディアの差し金だろう。
「ランベルトさんはここに」
途中で昇は二人と合流。
「まさか、生命を操って襲ってくるとは思っていなかった」
「まぁ、存分に暴れるから問題ないけどな」
三人は会場を見出す生物達の対処に向かった。
「……逃げた方が良いだろうか」
その時、空から降りるは白色の龍。アルカディアだった。
「やっほ、三日ぶりだね」
「ああ、この前の。どうしてここに」
「それはいいから、僕と避難しよう。安全な場所に行こう」
そうしてアルカディアはランベルトを抱えて羽ばたこうとする、その時。
「させるかっ!!」
蒼い焔を纏った蒼冬がアルカディアに体当たりをした。
「ぐっ!!」
「逃すものか!!」
「うわああああああああああああ」




