2話
生きてる奴は必ず死ぬ、そういうもんさ。
気がついたら、僕はソファーで横になっていた。視界に映る天上は、暗い赤色をしている。新鮮だった、少し昔にタイムスリップしている気分だ。
起きあがろうと思ったが、すぐに思いとどまった。僕は倒れたばかりの人間だからだ。自分の鼓動を確認する、力強い脈動を感じることができた。この鼓動が、いつかは止まってしまうのか。
何もすることがない、ぼーっとするには性分が合わない。どうしよう。
「起きたんだ」
淡白色の龍がやってきた。僕はそれにうなづく形で答え、その龍に尋ねた。
「貴方が、エルドラドさんが言っていたアルカディアさん?」
「そうだよ」
人間嫌いだとか聞いていたが、そうでもないのだろうか。それとも我慢しているだけなのだろうか。どちらにせよ、感謝の気持ちは示しておくべきだろう。
「翼を授ける飲み物って知ってる?」
「レ◯ドブルがどうかした? 僕にはもう翼があるから必要ないね」
アルカディアさんは向かいのソファーに腰をかけて、頬杖をつき、容赦なく言葉を続けた。
「君、もうすぐ死ぬよ。兄さんは情けで嘘をついたみたいだね」
心に静けさが襲いかかる。
「………でしょうね」
「……不死の力を求め、失敗した者の末路。その力の反動で、寿命を著しく縮めた者。……バカだね、不完全な薬を飲むだなんて」
「……詳しく」
「聞いてどうする? 治すの?」
「ただの興味さ」
「君が飲んだ薬には『蘇る力』が足りなかった。それだけのことだよ」
「………その話をするということは、アルカディアさんも何か関わりが?」
「……無意味な否定はしないよ」
嘘をついているわけではなさそうだ。僕は続ける。
「被験者を不死身にした?」
「………ああ、ある意味不死身になったよ」
「その薬はどこにある? 残ってるなら……壊しておきたい」
僕はただ淡々と自分の希望を述べた。不要な感情は一切乗せずに。
「へぇ、人間のくせして意外じゃないか。まぁ、安心しなよ。薬はもう残ってないから」
「ああ、そうか。それなら、よかった」
「……君は、不死の力の被験者になって、失敗して、長く生きられなくなった」
「どうしてそこまでわかった?」
「わかるさ、普通に」
アルカディアさんはどこか遠い何かを見るような表情を浮かべる。
「君は、自分の命に興味がないんだ?」
「ないね。そんなものに固執したって意味がない。どうせいつかは消えてしまう」
「………」
「命の終わりが来たのなら、覚悟を決めるべきだ」
「………………」
「どうした?」
「………いや、正直驚いた。君ほど潔い人間は見たことがなかったから。みんな死というものから逃げようともがく奴らばかりだったから」
「じゃあ、僕は希少種ってわけか」
「自分からレア発言か。変わってるね」
「これでも恋人は居たんだ」
「変わってるね」
「なんだと? 人の恋人に向かって変人だと?」
「変人は変人しか呼ばない」
「変人だけど、可愛かったんだぞ」
「でも変人じゃないか」
「だけど、可愛かったんだぞ」
「わかったよ。君は栄養失調みたいだから、ちゃんとご飯は食べなよ。まぁそこら辺は兄さんがやってくれるか」
そうしてアルカディアさんはその場から去っていった。そういえば、飯を食べるのはいつぶりなのだろう。この際、ただの白米でも美味いと感じるんだろうな。
さて、この家を徘徊させてもらいますか。え? 大人しくしておけって? ははっ、そんなものに従うわけがないじゃないか。満足できるまで探索させてもらうとしよう。




