1話
生きるっていうのは死への唯一の方法だ。そんなことも知らなかったのか?
僕は目を覚ました、そこは知らない部屋だった。
どうしてここに居るのか、どうやってここに来たのか、記憶を探ってみるが、わからない。
ただ、目覚める前はまるで光一つない夜の中を彷徨っているような気分だったことは覚えている。
ここはどこなのだろうか、僕は辺りを見回した。
どことなく中世の面影を感じる。窓を覗けば青空と淡い緑色の地面が見える。
僕はやたら大きいベッドから身を起こし、再び見回す。しかし、何度調査しても結果は乏しい。ベッドだけの殺風景な部屋、窓から見える景色も変わらないまま。
「どうしたものか………」
ふと、そこで僕は一枚のメモ用紙に気がついた。
『起きるんじゃねぇぞ……』
どうやら、僕はまだ起きてはいけないらしい。
ははっ、そんなものに従うわけがないじゃないか。僕はその部屋から出る。その先は思ったより綺麗だった、逆にさっきの部屋がアレすぎたのだろうか。
「僕以外にも誰か居るのだろうか」
そもそも、あのメモがあるのなら誰か居ないとおかしいものだ。出かけているのだろうか。とにかく、この家らしき場所から出よう。
……さて、歩き始めておそらく30分は経ったのだが、正直に言うと死ねると思う。
最初、廊下が異様に長いだけなのだと思った。扉から次の扉へ歩くのにやけに時間がかかる。扉に着いてわかった、ドアノブがやけに高かったのだ。そこで理解した、家自体が大きいのだと。まさか、ここジャックと豆の木に出てくる例の家? 僕童謡の中に出ちゃった?
「しまったな……さらに複雑になってるみたいだし、このままじゃ本当に死ぬぞ……」
戻ろうにもどうやって戻れば良いかわからない、万事休すかと思われた時だった。
「そこの人、どうしたの?」
後ろから声がした、振り返ってみると……
「……男の……子?」
声からして男の子であった。しかし、私は思わず驚いた。だって、人間じゃなかったから。ドラゴンだった、そう、西洋とか物語に出てくるような、ファンタジーやメルヘンの代表格。
「ああ、おじさんが保護した例の人か」
「……君のおじさんが僕を保護しただと?」
「地面でぐったり気絶したから連れてきたんだってさ」
「このメモを書いたのも君のおじさん?」
「そうだよ」
「……ここは、君達の家?」
「そうだよ」
「ああ、そうだ。自己紹介をしていなかったな、僕は日輪 昇(にちりん のぼる)だ」
「僕はユートピア。それで、お兄さんはどうする? おじさんに会うの?」
「……ああ、案内してくれるか?」
「良いよ。それにしても、どうしてこの世界に来たんだろうね」
「なんだって?」
「いや、独り言だよ。着いてきて」
僕はユートピアの後を追った。ただひたすらに追い続けた、見失ったら次こそ死が待っているからだ。
「おじさーん! あの人起きたー!」
4回目の扉を開けた途端、ユートピアはそう叫んだ。
「あ? 起きるなと言ったはずだが……まあいいか」
ドシン、ドシンと重い足音が響く。
「……ぁぁ」
僕はたまらず息を飲んだ。体長2mはありそうな、悍ましいドラゴンが僕の目の前にやってきたのだ。その宝石のような蒼い右目で僕のことを貫いてくる。
「あー……どこか悪いところはあるか? 気絶していたからな」
「いや、今のところフラフラとしたりすることはない」
「ああ、それなら良いんだ」
「僕の容態を見たのは貴方?」
「そうだな」
「単刀直入に聞くけど、僕はあとどれくらい生きられる?」
「……普通に50は生きるんじゃねぇの?」
違う、僕が欲しいのはそんな答えじゃない。
たまらず怒りを吐きそうになったが、それは不味いのでとっさに飲み込んだ。
「おじさんこの人どうするの?」
「………お前、記憶喪失なんだろ?」
「………ああ、目覚める前何をしていたかはあんまり思い出せない」
「じゃあ、思い出せるまでここに居れば良いさ。部屋はいくらでも空いてるからさ。ああ、でも弟のアルカディアは人間に嫌悪感抱いているからあんまり近づかない方が良いぜ」
今は居ないみたいだが、僕のことを警戒しているのだろうか。
「それにしても、龍がこの世に居るだなんて知らなかったよ」
「ああ、『この世界』には龍はもちろん二足歩行の獣やら妖怪やら色んな奴が居るぜ」
「……ん?」
「お前は迷い込んだんだよ。まぁ、深いことは考えるな。頭が痛くなるだけだ。……そういや名前教えてなかったな、エルドラドって呼んでくれ」
そうしてエルドラドさんは大きなアンティークソファーに横になった。
「……どこに行くの?」
「迷い込んだ以上は帰らないといけないから」
「あー、面倒くさいけど、まぁしょうがないか。案内するよ」
ユートピアの手を再び借りようとした時
僕の視界は黒に染まった。




