十話
いずれ、死するのが人間だ。
「………バカじゃねぇの」
「ごめんなさい」
「ステージの鉄骨に登って、叫びながら落ちるなんて」
「仕方がないじゃないか、テンションあがってたし」
僕はボーカルとして演奏会で熱唱。その後パフォーマンスとしてステージを支える鉄骨に登り、そのまま飛び降りたのだ。
もちろん、自然の法則に抗えるはずもなくそのまま地面に激突。足の骨を折って今ここ。
「よく骨折だけで済んだな。あとは自分の回復力でどうにかしろ」
「骨折治しの薬とかないの?」
「バカにつける薬があると思ってるのか? このやりとり前にもやらなかったか?」
「無限ループって怖くね?」
「まぁ、前のと比べたらだいぶマシなんだろう。あの時は全身火傷だったからな。命を大事にしている証拠だ」
「そりゃ、生きなきゃいけない理由ができましたから」
「夢幻か」
「ええ、その通り」
「夢幻を攻略するつもりなら俺の屍を超えていけ」
「最終手段として宇宙にぶっ飛んでもらいます」
「残念だったな、既に俺は生身で宇宙に行ったことがある。もう耐性はついている!」
「なん……だと……」
「まあとにかくだ、骨がくっつくまで安静にしてな」
「はい」
「後で夢幻に飯を運ばせるから」
「……え、夢幻に?」
「アルカディアとユートピアは今居ないんだ。幻は居るけどあの後結局傷口開いたし。だから夢幻しか居ないんだよ」
「なるほど」
そうしてエルドラドさんは部屋を出て行った。その時
「……あれ、きてたんですか」
「ええ、娘達を連れて遊びにきたわ」
「あいつに用ですか」
「その通りよ」
「安静にしてるんであまり刺激しないでくださいよ」
「わかってるわ」
やってきたのは白狐さんだった。白狐さんは僕の近くに座る。
「叡智と寂滅も来てるんですか」
「ええ、幻ちゃんのところにまっしぐらよ」
「あ、姉さん達来てたんだ」
「うおおおお幻おおおおこんなに傷だらけになってええええ! 今お姉ちゃんの愛のちゅーで治してやるぞ!」
「姉さん、分かるけど幻は怪我人なんだからあんまりそういうことしたら……」
「い゛ッッッだァァァァッッッい゛ッでぇだろこのバカ姉が!!!」
「ごぼぁッッなんやかんや幻に殴られたの久しぶりでお姉ちゃん嬉しいぞ!」
うん、僕は何も聞いてない。
「それで、白狐さん。僕アナザーについて聞きたいことがあるんですけど」
「ええ」
「僕とそっくりだけれど、漂う気質が違う人間を見ませんでしたか?」
「もちろん、様々なところに現れているようね」
「僕の推測ですが、おそらく叡智を誑かしたのはそいつです」
「どういうことかしら」
「死者を蘇らせる方法、あの方法は僕がかつて居た場所でしか知られていない代物。誰かが持ってきた可能性が高い。その誰かというのは、僕のアナザー以外に考えられない」
「それは困ったわ、娘を誑かしたのなら後でしっかり懲らしめておかないと」
「どこに居るかわかりますか?」
「わからないわ、でもアナザーの目的が不老不死だというのは知っている。なら、次に狙われる人物も自ずと決まってくる」
「なら、新たな被害が出る前に僕が探し出して倒すまで」
「あら、頼もしい。なら任せようかしら」
「むしろ、任せてください」
「それじゃあ私はこれで失礼するわね」
「…………霹靂さんとは、仲が良かったんですね」
「……ええ。だから、彼が残した宝物を穢した犯人が許せないのよ」
「僕が必ず倒します。帰り道、お気をつけて」
白狐さんが部屋から出ていく。外を見れば太陽は沈んでいた、僕は一度眠ることにした。
「うわ、幻のお腹すごいことになってる」
「思い切り撃たれたからね……ちょ、傷口に触るない゛ッッだァァァァァァァァ!!!」
……眠れるといいが。
「昇さん、おはよう」
「おはよう」
結局、僕は眠ってしまったらしい。僕の視界に夢幻が映っている。
「…………」
「どうしたの?」
「いや、何から話そうかなって。あ、ご飯あるよ」
「うん、後で食べるよ。それより夢幻の話が聞きたい」
「うーん……よし。まずはお礼を言おう。お母さん達を助けてくれてありがとう」
「良いんだ、あのまま放置してたら絶対に後味が悪かったし」
「それで、今回はどこまで行ってきたの?」
「………あの世、思ってたより楽園だったよ」
「へぇー」
夢幻が僕を見つめる。
「なに?」
「昇さん、私は貴方が羨ましいよ。簡単に死ぬことができるから、ちょっとした怪我や病気で死ぬ人間が。まぁ貴方は悪運が強すぎるみたいだけど」
「…………」
「どうして昇さんは私のことが好きなの?」
ちょっとやそっとで、死ぬことがないから……羨ましい。だなんて、言えるわけがないだろ。
でも、それを見透かすように、夢幻は
「そりゃ、と人間に比べたら遥かに丈夫で、病気や怪我も大丈夫で、長生きな生物を前にしたら羨むよね」
「羨んでない」
「嘘ついた」
「あはは、バレたか」
「意味のない嘘よりも、本当のことを言った時の方が楽な時もあるよ」
「……羨ましいんだ、長く生きられる、夢幻が」
「私はすぐ死ぬことができる昇さんを羨んでる」
「じゃあ、何の問題もないね」
「そうだね、何の問題もない」
「夢幻、僕の分まで生きてね」
「大丈夫だよ、私あと500年は生きられるし」
「そっか、そりゃあ頼もしいや……」
そうして僕は、夢幻に見つめられながら眠りに落ちるのであった。




