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八話

君の神様になれなかった。



僕は走っていた。


あのことを考えるのをやめようとしていた。


でも、今自分がいる場所、やっていること


それを考えると、あのことを考えずにはいられなかった。


避けられないことはわかっている、受け入れようとも思っている。


けれど、身体は嫌だとそれを拒む。


恐怖で、それを避けようとする。


きっと、誰か一人は悲しむ人が居るんだろう。


でも、その日が来なければ誰も悲しまない。


その日がこないのが一番良い、ハッピーエンドを迎えるには。


けれど、意識がそれを否定する。


時間は限られているべきなんだ、始まりがあるなら終わりもあるべきなんだ。


だから、その日は来るべきだ。


それに、僕はもう一人じゃない。


僕は走っている、彼女達を救うために。




「……寂滅姉、やられちゃったんだ」


「ああ、なんとかな。驚いたよ、まさか狼になれるだなんて」


「あれ、姉さんの後天性の能力なんだ。すごいでしょ。そういえば、宣伝は結局何人だったの?」


「ああ、あのノルマ減らしね。本当に10人に宣伝したんだよ」


「そっか。それは良かった。まぁ、演奏会放ってこっちに来ちゃったから意味ないんだけどさ」


「今からでも間に合うんじゃない? こんなことやめて会場に戻ったら?」


「それはできないね、それより大事な仕事があるから」


「そうか、それは残念だ」


戦闘態勢に入る、僕は呼吸を整える。


お互いに足を踏み入れ、間合いに入ろうとしたその時



「いっけなーい、遅刻遅刻ゥ!!」



「な!?」


「え、ファントムちゃん!?」


僕と幻の間に、一人の少女が割り込んできたのだ。


「いやー、せっかく約束の会場に行ったのに誰も居ないんだもの。会場を変えたんなら前もって言ってよー、観客達も混乱してたよ?」


「ファントムちゃん、良いところに。邪魔者を追い払うのを手伝ってほしいんだ」


「あいつ?」


ファントムは僕の方を見て、相槌を打つ。


「あー、はいはい。要するに悪いやつを懲らしめれば良いのね」


「その通りだよ!」


え、もしかしてその悪いやつって僕?


「ちょ、ちょっと待った君はひとつ誤解をしている!」


「それじゃ、やっちゃうねー」





「ッ………あれ?」


銃声が聞こえた。火薬の臭いが微かにする。僕は自分の身体を確認する。穴は空いていなかった。なら、どこに向かって撃ったんだ?


その答えは目の前にあった。ファントムは幻に向かって撃ったのだ。その手に握られた、あのグロック17で。


「は……え………」


「ギリギリを狙ったつもりだけど、大丈夫? 当たってない?」


幻の頬に赤色が僅かに流れている。


「ファントムちゃん、なんで……」


「幻、私は一度も『君に協力』するとは言ってない。私が言ったのは『悪いやつを懲らしめる』だ。勘違いしないでよ」


その後、ファントムは僕に向かって言う。


「銀の弾丸、役に立って良かった。君は疲れているんだろ、ここは体力を温存しておいた方が良い。ほら、早く行った行った」


「……わかった、ありがとう」


「何を感謝してるんだ、もとより私は幻に用事があったから来ただけだ」


「そっか」


僕は言葉に甘えて、その場を彼女に任せることにした。



――



「幻」


「……何?」


「私は怒っているんだよ。あの演奏会に誘ったのは君だというのに、時間になっても君は来ないし、挙げ句の果てには消えてるし。どういうことなのさ?」


「あはは、ごめんね」


「気になって調べてみたら、こんな明らかにやばいことしてさ」


「うん、そうだね。わかってる。でも、今更退けないんだ。…ファントムちゃんはどうやってここまで来たの? ソルに運んでもらったの?」


「グロック17を足場にすれば簡単なことだよ」


「そんなTASみたいなことしないでよ。困ったな、貴方とはやり合いたくない。そこどいてくれない? あの人間を姉さんのところに近づけるわけにはいかない」


「やーだよ、私は今の君に用事があるんだ。今じゃないといけない用事がね」


「そっか、じゃあとっとと終わらせないとね」


ファントムと幻は互いに構えた。緊迫した空気が膨れ上がる。


「一度君とやってみたかった。良い機会だよ」


「そんなの、頼めばいつでもやってあげたのに。……友達だからって容赦はしないよ」


言葉が交わされた直後、二人は即座に距離を詰め互いの頬を殴り合った。


「………クロスカウンターか」


「避けながら当てようと思ったけど、相手も同じだったらしい」


「こっちは武器を使うけど、大丈夫?」


「問題ないよ……こっちも使うから」


幻は一度距離をとってキーボードを取り出した、ふよふよと宙に浮いている。


「はは、そういえばそうだったね」


ファントムはグロック17の照準を幻に合わせ、3発放つ。幻はキーボードを盾にして突っ込む。ファントムは距離を取ろうとするが、そう考えた時にはすでに幻は間合いに入っていた。ファントムは近距離射撃として2発撃つが、頑丈な幻のキーボードはびくともせず、幻はそれごとファントムを蹴り上げた。


幻はキーボードの端を持ち、独楽のようにぶん回す。グルグルと速く回るそれに当たれば骨が折れるのも容易い。ファントムは足に力を込めた。大きく一回転しながらジャンプ、攻撃を回避。


「……にっ」


そこで幻が不敵な笑みを溢す。先ほど飛んでいったキーボードが不自然に軌道を変え、ファントムの右横から飛んできたのだ。そのままファントムの右頬に直撃する。その衝撃で歯が抜けた。


「……ってぇ」


幻は楽器に指を滑らせる。ファントムは地面に手を置き、勢いをつけて幻に掌底打ちを放つ。幻はその直前で楽器を盾にしダメージを軽減するが


「……」


脚に違和感を覚えた。ファントムが脚を引っ掛けていたのだ。


(……テイクダウンをするつもりか)


脚をかけられ、大きく宙に舞う幻であったが、空中で体勢を立て直し地面に着地……


「堕としてやる」


ファントムが4発弾丸を撃った。それを見た幻はすかさず弾丸の軌道を変えようと試みる。3発の機動変更に成功したが、残りの1発は間に合わず脇腹を掠めた。


「ッ」


片膝を着いて地面に堕ちる、擦過射創とて苦痛はそれなりのもの。幻は顔を顰める。


すぐに相手に意識を向ける、幻はファントムの直前で体勢を低くし、懐からタックルを仕掛ける。


「……接近戦なら勝てると思った?」


ファントムは幻の足と足の間に己の足を入れ、腰を掴んでやぐら投げをする。あまりの展開に幻は受け身が取れなかった。


「別に銃に拘らなくても戦えるよ、ただロマンがあって好きだから使ってるだけだし………あ?」


頭から盛大に地面に叩きつけられた幻がファントムの薬指をへし折った。


「ぐっ!!?」


「……あは、流石に痛いでしょ?」


「…ふん、まぁ痛いけどさ。戻せば良いだけじゃない」


ファントムは直角に曲がった指を元に戻した。指を折っただけでは動作に問題はないらしい。再びファントムは銃を構える。


(離れたら相手の思うがままだし……近づくしかないよな)


幻はファントムに近づく。そこでファントムは銃を落とした。幻の視線が落ちる銃へ向けられる、そこに三日月蹴りを見舞った。


「ぐえっ」


遠くに吹き飛ぶ幻。そこにファントムは高く跳び、拳を突き出した。拳が当たる直前、幻はファントムの腕を掴みそのまま地面に投げ落とす。


「ぐは」


脊髄に激痛が走る。地面が割れる。


二人は立ち上がる。


幻がファントムに拳を打撃を見舞う。


ファントムはそれを受け止める。


幻の後ろ蹴り、ファントムは背後に体を逸らして回避。


幻の素早い猛撃をファントムは次々に捌く。


「やるじゃんか。まぁ、当たってるけど」


「は?」


幻が指を鳴らす、するとファントムの身体全身に衝撃が走った。


「がはっ…!」


実は、幻は猛攻撃の裏で更に速い打撃を繰り出していたのだ。


「流石のファントムちゃんでも今のは気づけなかったみたいだね?」


「………ふぅ」


一度息を吐いたファントム、すると手の平を見せつけるように腕を突き出した。


「何するつもり?」


「手四つ。最近覚えた。どうする?」


「ふーん……」


幻はファントムに近づき、その手を握ってそれに応じた。


「信じていたよ、君なら握ってくれるって」



ファントムの手が紫色に染まる、幻の握力で鬱血しているわけではないようだ。


「ッ!」


それに気づいた幻は咄嗟に手を振り払い、ファントムを蹴り飛ばす。


「……あー、惜しかったなぁ」


「…今のは、毒手。まさか、わざわざ使えるようにしてたの?」


「え、ただ手に毒を纏っただけだけど」


「……ぶっつけ本番で使ったってわけか。そういうところだよ貴方。毒は付与されてないか。普通の毒なら苦しいだけで死なないけど、あれは不味いよねぇ。まぁ………当たらなきゃ良いだけか」


幻は己の瞬発力でファントムに攻撃を仕掛ける。右に居たかと思えば左、左に居たかと思えば右。目の前に現れたかと思えば下に動き、胸の中心に深い正拳突き。


「……痛いなぁ、肋骨の中心が折れちゃったじゃないか」


「カルシウム足りてないんじゃないの?」


「ああ、どうりでイライラするわけだ」


口から溢れた血を拭うと、ファントムはギロリと睨んだ。


「……これは」


その途端、周囲が炎に包まれた。凄まじいほどの高火力、高温度。ジリジリと幻の全身が火傷を負っていく。


「あはは、絵になってきたね」


「……本当に貴方は何でもアリだ。どんなことでも出来てしまう」


「そっかぁ………はぁ」


「もう右腕使えないでしょ」


「それがそうでもないんだな」


なんと、骨が砕けているであろうその右腕で幻に向かって素早いフックを放つ。幻はその攻撃を受け止めると、そのまま背後を取って地面に叩きつける。


「……腕取られてるし、もう勝算はないよ」


「……それがそうでもないんだな」



ゴキ



「は!?」


ファントムはぐるりと身体を回転させ、幻の顔面を殴った。


「……正気なの? 自ら腕を折るだなんて」


「折れたくらいで、使えなくなるとでも思ったか?」


ファントムはグロック17を取り出す。


「お願いだから、もうこんなことはやめてくれない?」


「銃を使うのは良いんだけどさ……ちゃんと狙える? 手が震えているよ」


「………」


グロック17のトリガーにかかる指が僅かながらに痙攣している。


「そりゃそうだよねぇ、指は折られた腕は折られたでなんの支障も起きないなんてチートすぎるもんねぇ。それに………」


「…なにさ」


「ファントムちゃん、体力フルじゃない状態でここに来たでしょ。証拠に、右腕壊した時から毒手してない」


「………」


「さっきから変な息を漏らしてさ。最初の時銀の弾丸とかどうのこうの言ってたけど………それ、『想造』したんでしょ? 銀は弾丸にして使うには高価すぎる、それに鉛より軽いから殺傷力は期待できない。命中率は上がるだろうけど、わざわざそれだけを目当てにして使うメリットはない。だから銀の弾丸は流通していない。なら、答えは一つ。貴方が幻影として想造したんだ、人狼に対する特効薬(シルバーバレット)を」


「……その通りだ、想造するのは一番疲れるよ。なにせ、構造を事細かく想像しないといけないんだから」


「貴方は少し動いただけで疲弊する。互いに受けたダメージは同等かもしれないけど、体力はこっちの方が上みたいだね」


「その余裕、いつまで続くかな」


ファントムは距離を詰めて攻撃を振るう、幻は攻撃の間に生ずる隙を見てローキック。だがファントムはそれを厭わず幻の額にジャブ、幻は怯んだのかはたまたわざとか、地面に背中から倒れ込む。迷わずファントムはグラウンドパンチを繰り出すが、幻が脚技で締め上げようとする。


不味いと思ったか、ファントムは立ち上がりそのまま強烈な踏みつけを行う。上半身を動かして回避する幻、そのまま足関節を狙う。無理やり抜け出したファントムは幻を力強く蹴った、幻の身体が一瞬浮く。2回目の蹴り、その直後に再びグラウンドパンチ。幻は脚を上手く使ってカバーする。警戒してファントムは少し距離を取り、幻は立ち上がった。


ファントムが三日月蹴りを繰り出す、幻はそのまま体当たりを仕掛けた。ファントムはその勢いを利用して地面に投げ落とす。


「ッ」


いつのまにか位置が入れ替わっている、幻が上から膝蹴りを喰らわす。逃げようとするが幻がそれを許さない。幻がファントムの腕を取る。そこに落ちるファントムの鉄槌。多少喰らったがそのまま首を絞める。苦悶の表情を浮かべるファントムだが、なんとか抜け出した。ファントムはそのまま連続グラウンドパンチ。


地面が揺れる、割れる。しかし深追いはせずに慎重に距離を取る。互いに正面から打ち合うことを選択、拳が眼前を切り、脚で衝撃を受け止める。素早いファントムのスイング、たまらず怯みそこに追撃の膝。


そこで幻の投げが決まる、絞めようとするが相手が立ち上がる。互いに抱きつき、腹に膝を送る。離れ、拳を振るう。途端、幻がファントムの背後に周り込み足を掴んでテイクダウン。そのまま拳を叩きつける。


「……ッ」


頭に激痛が走る。幻の頭から血が出ていた、いつのまにか切ったらしい。


その刹那の時間をファントムは見逃さない。鬱憤を晴らすように殴って殴って殴りつける。そこで蹴り上げカウンターが発動、顎に直撃する。口の中に広がる鉄の味を感じながら、ファントムはバックをとってそのまま鉄槌を下す。


「……………落ちたか」


最初こそ抵抗はしていたものの、幻の身体から力が抜ける。


「ここまでやるつもりはなかったけど……興奮し過ぎたか、私の悪い癖だな……良かった、死んではいないか。寂滅さんがなんとかしてくれるだろう」


と、踵を返した時だった。


「ぐッ!?」


突如頭の中に雑音が走る、直接脳を弄られているような不快感にたまらず苦しみ悶える。


「なんだ……これは………まさか、あの時」


思い出した、楽器で殴られた後幻は楽器に触れていた。あれは攻撃の予備動作ではなかった、既に攻撃は終わっていた!


ぐったりと倒れていたはずの幻は立ち上がり、不快感に悶えるファントムにスマッシュを喰らわせた。響く、響く、苦痛の鐘が響く。よろめき、後ろに後退り。


「…………ッ、てめぇッッ!!!」


怒髪天を衝いたファントムがグロック17を取り出した、それを見た幻は指笛を吹き、楽器を呼び寄せ盾にする。一気に7発弾丸が放たれる。なんとか全弾を防ぎきると、そのままキーボードを蹴り飛ばした。直進に飛んでいったそれは、ファントムに直撃する。キーボードが地面にぶつかった瞬間、幻は足に力を込めてファントムに近づいた。


攻撃を落とせば勝利が確定する。幻は腕を振りかぶる。



が



「!?」


ファントムが銃口を幻の腹部に押し付けた。そのまま引き金を引く。鈍い音とほぼ同時に、幻の腹が貫通する。


「がぁッッ……!!」


幻は腹を押さえ、地面にうずくまる。赤色が止まらない。あまりの痛さに意識が飛びかける。むしろ、意識を保てているのがおかしいくらいだ。


「なんでッ! グロック17の装填数は17のはずッ! 数え間違いはなかったはずッ!!」


「……幻、知らないの? 最後の弾を撃たないでマガジンを交換すれば使える弾が一個増えるってこと」


「なッ……」


「正確にはグロック17の装填数は17+1でした。うーん、知識不足」


こうして話している間も地面に滴る赤色は止まらない。ファントムはマガジンを交換しながら幻に近づき、眼前でしゃがむ。


「幻、もう抵抗はやめて。これ以上やっても君はもう間に合わない。とっくにあの人間は既に叡智さんのところに辿り着いているだろうし、なんなら終わってしまっただろうし。君も私もズタズタだ」


「うるさい……」


弱々しく、掠れた声で幻は口を動かす。


「君がどうしてこんなことをしているのかなんてもうわかってるんだよ。君は、お父さんを蘇らせたいわけじゃないんだろ? 君は、君達は……叡智さんと居たいだけなんだろ?」


「………疑問だった、どうして今更お父さんを蘇らせようとしてるのか。叡智姉はあんな感じじゃなかった、人が変わったみたいだった」


「叡智さんがやっていることは悪いことだと、君もわかっているはずだ。なのになんで止めなかった。どうして手伝った」


「……何がわかるんだ」


「……幻?」



「何も知らないお前に!! 一体何がわかるってんだ!!」



あり得ない、今のこの状態で立ち上がるなんて。現にファントムは油断していた、腹部を撃たれているというのに、体力も残っていないはずなのに。


そのまま幻のストレートがファントムの顔面に直撃する。


「っ、鼻の骨折れたかも」


「お前にわかるか! あの日の孤独(トラウマ)が再び訪れるかもしれない恐怖が! それに怯える日々が!」


幻の瞳に血混じりの涙が浮かぶ。そのままファントムの胸ぐらを掴んで


「そんなにおかしいか!! 相手に嫌われないよう立ち回ることが!! 努力することが!! 私には姉さんしか居ないんだ!! 姉さんしか頼れる人が居ないんだ!!」



「なんで私を頼らなかった!!!」



臆せずファントムも吠える。


「さっきから聞いていれば、君は勘違いをしている! 君は、君が思っている以上に孤独じゃないんだよ。昔の君は孤独だったんだろうけど、少なくとも今は違うでしょ? 私だけじゃない、今の君にはエルドラドやアルカディアだって居るんだ」


幻の襟を掴んで


「なのに君は! 自分の世界を狭めて、自分は孤独だと勝手に吠えて!! ふざけるな!! 君を気にかけてくれる人は、心配してくれる人は、周りに腐るほど居るっていうのに!! 君は、君は、君は!!!」


声の覇気が弱まる。襟を掴んでいたはずの手は、いつのまにか幻を抱きしめていて


「『嫌われるかもしれない』だとか『心配かけたくない』だとか考えるな……誰かからの救いに罪悪感を持つな……辛いなら辛いって教えてよ………私は、君が逃げる理由にすらならないの……?」


彼女の嗚咽で、幻の手の力が抜ける。


「……優しくしてくれてるのに、気づかなくてごめんね」


「……そんなにも苦しんでいるのに、追い打ちをかけてごめん」


「………かはっ」


幻の口から血が溢れる、腹部の傷が悪化する。


「……ちょっと座りたい」


そのまま二人で休むことにした。先ほどまであんなに争っていたのが嘘みたいだ。


「……こうして殴り合ったのはいつぶりだっけ」


「最初に会った時は私が貴方に一方的に殴られた。ていうか、こんなになるまでやる必要あった?」


「君の戦意を削げればそれで終わりにするつもりだったんだけど、君はすぐに立ち上がるからさ。私も興奮しちゃってエスカレートした、ごめん」


「……うん……夢幻にこの姿は見せられないなぁ」


「早く元気になった姿を見せないといけないね」


「そうだね……たまには、夢幻に顔を、見せないと……」


疲れ果てたのか、そのまま幻は気絶するように眠りに落ちた。ちょうどその時ソルが合流。


「なんとかあの軍勢を退けられたぜ。それで、どうしてそうなった?」


「ちょっと喧嘩しただけ」


「ちょっとの喧嘩で負う傷じゃないんだよなぁ」


「もう一人は?」


「元凶を潰しに先に行ったよ」


「そうなんだ………」


ファントムは幻の言葉を思い出す。



『お前にわかるか! あの日の孤独(トラウマ)が再び訪れるかもしれない恐怖が! それに怯える日々が!』


『そんなにおかしいか!! 相手に嫌われないよう立ち回ることが!! 努力することが!! 私には姉さんしか居ないんだ!! 姉さんしか頼れる人が居ないんだ!!』



そうか、恐いのか。彼女は、独りになることが恐いのか。


まぁ……


「そりゃ、独りぼっちは寂しいもんな……」


意識が揺らぐ、視界がぼやける。どうやら自分も限界のようだ、ファントムはソルに寝るとだけ告げると、宵闇の中へと意識を捨てた。




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