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七話

どうしてこんな惨めな思いをしなければならないのか。私は、一体どうすればよかったのですか。



冥界の何処か、二人の少女が何やら作戦会議を行なっているようだ。


「私があの世とこの世に橋をかける。その隙に幻は父さんを連れてきてくれ」


「…………」


「…幻?」


「え、あ、ごめん。わかったよ。姉さんはどうするの?」


「そうだな………」


二人の怪しげな会話。だが、そこに




「待ちなさーい!!」




ドカン、と激しい音が轟いた。鉄球が飛んできたのだ、そのまま少女二人の近くへ着弾する。


「…………これは」


「あの二人、あの世とこの世の境界を歪めるつもりよ! そんなの許さないわ!」


フランキ砲を撃つ昇がそこに居た。


「……そうか、わざわざここまで来たのか。どこまで邪魔をするつもりなんだ?」


叡智が昇に問う。


「女の子には意地悪するのが男子ってものだ。次のセリフはこうだ、『ぶち殺すぞ、脳内幻想郷が』」


「ぶち殺すぞ、脳内幻想郷が………ッ!」


「入り口に意識を集中させて、その隙に乗じて裏から入る。よくあるよな、こういうの」


「……………」


「どうした?」


「いや……少し冷静になっていた。戦いにおいて感情は敗北への第一歩だからな。勝ったと思い込んで思考を放棄するのも同様だ」


「なるほど、よくわかってるな」


「……ここで使うとは思わなかった」


「なんだ、切り札か? 良いぜ、惜しみなく使えよ」


「……良いだろう」


叡智は指笛を吹いた。その直後……



「うおわっ!?」



昇の目の前に大きなクレーターができた。よく見ると中心に少女が立っている。


「すまない、寂滅。ここは頼んだ」


「うん、任せて」


叡智と幻はその場から消える。寂滅、と呼ばれた少女は楽器を取り出して


「ごめんね、できるだけ痛くしないで終わらせるから」


と、言うのであった。




「驚いたな……まさかもう一人居ただなんて」


「私は黄泉 寂滅。黄泉 叡智の妹にして黄泉 幻の姉だ!」


寂滅は己の肺にある空気全てを楽器に込めた。すると、青白い光芒が楽器から放たれる。普通、光というものは何かにぶつからない限り直線に進むもの。しかし不思議なことに、途中に障害物はなかったはずなのに、その光芒はまるで意思を持っているかの如く曲がりくねったのだ!


「くっ、これがポルターガイストクオリティ……!」


「避けられるものなら避けてみろ!」


曲がりくねる光芒、自機狙いというわけでもないし、ランダムというわけでもない。狙うか狙わないかを考えて動いているようだ、あまりにも対応がしづらい。


「まだまだ!」


寂滅は指を鳴らした、すると周囲に弾幕が張られ、次々と僕に突っ込んでくる。しかし、先ほどと違ってあまりにも安直な軌道、こんなもの小学生でもわかる。僕は素直にそれらを避けていく。


「ひっかかったな!!」


「なに!?」


なんと、先ほどの光芒二つが僕の目の前に突然現れた。僕は咄嗟に、二つの光芒の間にある隙間の中へ身体を捻らせて回避。体操選手のように、だ。


「今のを避けるか、ならこれはどうだ!」


どんな攻撃でも避け続け、反撃の隙を見つけるつもりだった。しかし、何だ。違和感を感じる。


(……呼吸が、乱れている?)


明らかに心臓の鼓動が速い。自分の意思で速くしているわけではなかった。落ち着かない、何故だ? これでは呼吸法が使えない、肉体を制御できない。


音楽と精神の上下は同じようなもの、だからアップテンポな曲を聴けば興奮するし、その逆ならば冷静になれる。そういう原理の類だと僕は推測した。くそ、アンチ能力すぎるな。


僕は策を考える。こんな目に遭うんだったら、あの時ふざけて大砲を使うんじゃなかった。状況が不味いな。選択肢が少なすぎる。


「大人しく降参しろ!」


「嫌だなぁ、それはプライドが許さない」


「降参してくれないと困るんだよ」


「僕も困るんだよな、降参すると」


僕は寂滅の意識を逸らしながら、エルドラドさんから受け取ったロープをこっそり確認する。


「降参するのは嫌だから、最後に残された策を実行するとしよう」


「何?」


僕は180°その場で旋回して


「逃げるんだよォ! あばよー!」


「は!? ちょ、待て!!」


寂滅が逃げる僕を追いかける、いいぞそのままついて来い。


「逃げるなんて卑怯だぞ!」


「逃げるは恥だが役に立つって言葉があるのさ!」


よし、ここで。


「うらぁっ!」


僕は持っていたロープを準備していたものに引っ掛けた。そして、思い切り引っ張る。すると寂滅を取り囲むようにロープが展開し、寂滅を拘束する。


「む!」


「ふはは、これで動けまい」


「あはは!」


「何がおかしい」


「いい作戦だ、感動的だな……だが無意味だ」


なんと、寂滅は身体に巻きついたロープを腕力で引きちぎったのだ。見た目に似つかない怪力の持ち主! これは想定外だった。


寂滅はぶち、ぶち、とロープを細かくちぎりながらこちらへやってくる。僕はたまらず腰を抜かし、四つん這いで後ろへ逃げる。


「なっ」


しかし、それも長くは続かない。完璧な袋小路に遭った。


「さて、命乞いをしてもらおうか」


「う、あああああ!! やめてくれ、殺さないでくれ!!」


僕は目の前の敵に恐怖する。しかし、ころりと態度を変えて


「……とでも言えば満足か?」


「は?」


「かかったな、馬鹿め! お前がちぎったロープはフランキ砲を固定していたロープでもあった!」


「まさか、装填筒を二つ用意していたのか!?」


「当たり前だよなぁ!! そうでもしないとろくに速射ができないポンコツなんだからよォ!!」


そのままフランキ砲の弾が飛んで、寂滅に直撃した。寂滅は大きく吹き飛んで、僕の足元に転がる。


「傷は……ついていないみたいだ。良かった」


女の子に傷は似合わないからな。残るは叡智と幻か、僕は二人を追いかけようとした。


「……ん?」


キラリ、と小さな光が落ちている。近づいてよく見てみると、銀の指輪だった。寂滅のものだろうか。


「返しておいてやるか」


そうしてぴくりとも動かない寂滅へ近づいた時だった。



『寂滅さんに近づかないほうが良いよ』



声が聞こえた。僕は足を止める。


「………?」


『彼女に近づかないほうが良いよ。最悪、死ぬよ』


どうやら、幻聴ではないらしい。僕はその声に言う。


「でも、これは寂滅の物だろう? なら、本人に返すべきじゃないのか」


『近づくな、死にたいのか』


声の覇気が強くなった。


「お前は何者だ?」


『彼女達の、友達だよ』


「……もしかして、ライトちゃん?」


『あれ、姉さんを知ってるの?』


ライトちゃんにも妹が居たのか。


『いや、そんなことより、早く指輪渡すなら渡して。そして早くそこから離れて』


相手は僕を急かした。どうしてそんなに慌てているのだろうか?


「…………あれ?」


『どうしたの?』


「………寂滅が、居ない」


『!?』


そう、さっきまで気絶していたはずの寂滅が、そこにいなかった。まさか、あれを喰らっておいて立ち上がる力が残っていたのか?


『早くそこから逃げろ!! 死ぬぞ!!!』


そう言われて僕はそこから去ろうとした、でも遅すぎたみたいだ。


『後ろ!!』


「!」


僕は背後から放たれた攻撃をギリギリで回避する。腕に傷を負ってしまった。この傷は……武器によるものではない。


僕は相手を見て驚いた。そこに居たのは、人狼だったのだ。僕より遥かにデカい身体、溢れ出す威圧感。思わず尻込みしそうになる。


『くそ、だから早くしろって言ったのに!!』


「あれは一体何なんだ!?」


『人狼になった寂滅さんだ! 彼女は人狼になることができるんだ! 普段は銀の指輪でリミッターをかけていたけれど、それが外れたことによって暴走を始めたんだ! こうなってしまったら君を理性無しの本気で殺しにかかるよ!』


「くっ」


僕は構える。こんなものを放置しておいたら不味いに決まっている。どうにかしなければ。


人狼となった寂滅は、大きく息を吸い込んだ。


『衝撃に備えろ!』


大きく息を吸った寂滅は思い切り叫んだ。ただの叫びだった。ただそれだけだというのに周囲は悉く吹き飛んでいく!


「なんて威力だ、ただの咆哮だというのに!」


そう実況する時間も寂滅は与えてくれない。寂滅は爪を剥き出し、僕を引き裂こうとする。先ほどとは違う、あまりにも殺意に満ちた攻撃。本当に彼女は寂滅なのか。最初に出会った時に薄ら感じられた、あの温厚さは消えていた。


「人狼っていうのは銀の弾丸で倒せるらしいな」


とはいえ、この猛撃を避けながら解決策も考えなくてはならないのか。なかなかに大変だ。もう魔法の弾丸でもゴールデンハンマーでも良いから何かいい物ないだろうか。


寂滅がその牙で僕を骨ごと砕こうとする。僕は寂滅の懐に潜り込むように回避、寂滅はその先にあった大木に牙が食い込み動けなくなる。


「どうやら、攻撃力は上がったがその分大振りになったみたいだ。それじゃあどっちにしろ僕には攻撃は届かないな」


今のうちに考えろ、どうすればあの獣を鎮静化できるのかを。あとの戦闘を考えると、回避のしすぎで体力を消耗したくはない。大砲をモロに喰らっても立ち上がるタフさ、アームストロング砲でも無意味に終わるだろう。


「ん?」


その時、僕の背後で音がした。


「これは、M629!?」


信頼性が高く、強力な銃弾を込められるリボルバーじゃないか!!


『それで撃て、銀の弾丸を』


M629の近くには銀の弾丸が落ちていた。本来、M629に装着する弾丸はマグナムだ。しかし、僕はそんな細かいことは気にしないで、銀の弾丸をM629に詰める。使えれば良い、最低限の働きをしてくれれば。


「ゆけ、シルバーバレット!」


僕は引き金を引いた。銀の弾丸は真っ直ぐ寂滅へと飛んでいく。……いや、厳密に言えば少しだけ標準をずらしていた。そのまま寂滅へ撃てば簡単に避けられると考えたからだ。


やはり、寂滅は弾丸を避けた。弾丸は後ろの大木へ当たり……


「ギャッ!!」


跳弾し、寂滅の後頭部へと当たった。威力はある程度減っているが、大丈夫だろうか。


寂滅はそのまま倒れ、元の姿に戻る。


「………死んだと思う?」


『寂滅さんはそう簡単には死なないよ、頭から血を流してるだけで済んでる』


「そうか……じゃあ、僕は行くよ」


初戦でこんなにも時間がかかってしまった。急がなければ。








「………追いかけ、なきゃ。姉さんを、助けなきゃ…………なんで、じゃまするの、じゃま、しないで……行かないと……姉さんが……………そうだね、たしかに、すこし休まないとだめか………」




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