四話
死んでいるのか生きているのかくらいはっきりしてくれないか。
「そこに居るのは……」
白狐さんが僕に気がついた。その瞳は僕のよく知っているものを宿していた。僕はたまらず恐怖で震える、なんだこの人は、まるで死が具現化しているような……
「そんなに怯えなくていいのよ」
「…………」
僕は無意識に身構える。あの人が近づく。身体から力が抜けていく。やがて僕は膝をつく。
「あら、ごめんなさい。能力を解除するのを忘れていたわ」
「ああ、死ぬかと思った」
僕は膝に力を入れて、立ち上がる。
「この霹靂さんがどんな存在かご存知で?」
「ええ、この霹靂達はアナザーね」
「やはり、知っていたんですね」
「この霹靂達は、禁じられた方法によって生み出されたのよ」
「と、いいますと?」
「と、その前に。貴方、日輪 昇さんよね?」
「よくご存知で。誰から聞きましたか?」
「娘の旦那さんが教えてくれたのよ」
「なるほど」
とにかく、白狐さんは敵ではなさそうだ。
「私は暁 白狐。よろしくね」
「はい」
「ところで昇さん」
「なんですか」
「この霹靂達がどのように生まれたか知ってる?」
「どのようにって、アナザーでしょう。違うんですか?」
アナザー、生きたいと思う本能と死ぬと覚悟した気持ちがぶつかった時に生まれる、死をとことん否定する存在。
「………待てよ、アナザーは一人一体までじゃなかったのか? 僕のアナザーも蒼冬のアナザーも一体しか居なかったが……」
「そうね、アナザーの数が多いのではない。霹靂の数が……」
その時だった。地鳴りにも等しい足音が鳴り響いた。
僕は自分の目を疑った、僕と白狐さんを取り囲んでいたのは数多の霹靂さんだったからだ。
「なっ!?」
「あら、せっかちね」
霹靂さん達が白狐さんを取り押さえる。能力を使う暇がなかったようだ。瞬く間に抱えられて逃げていった。霹靂さんの一人が石を持っていた、おそらくそれで殴られて気絶したのだろう。
僕は何もできなかった、あの人数相手では返り討ちに遭うのが丸見えだったからだ。
「追うしかないよな」
僕はお祭り会場を走り回った。何か追跡に使えるものがあるはずだ。
「……あれだ!」
僕は機械仕掛けの馬を見つけた。
「ごめん、ちょっと借りる!」
「ちょ、えぇ!?」
機械馬は上体を上げ、ヒヒーンと鳴くような動作をして、霹靂さん達を追跡する。
まるで本物の馬に乗っている気分だ。パカラ、パカラと蹄と地面がぶつかる音が心地いい。
「これは、スピードメーターか。時速60km程度か」
馬は長距離を走る時はあまりスピードが出せないらしい、肺から出血して死んでしまうそうだ。しかし、この馬は機械なので常にそれより速く走れるだろう。尤も、ここらは人が多いので無理な話だが。
『ちょっと、困るよ!! その馬まだ試作品なのに!!』
どこからか声が聞こえる。ということは通信が可能ってことだよな、僕はその声に答えた。
「聞こえてるぞ。代金が必要ならそうだな……黄金郷から支払われるから安心してくれ」
『は、アンタあの黄金郷の知り合いなのか!?』
「ああ、その通りだ」
嘘は言ってない。
「とにかく、こっちも訳アリなんだ。ガソリンなら満タンにして返すから、借りていくぞ」
すると、向こう側の口調が変わる。
『その訳アリっていうのは、その馬の性能を極限まで引き出してくれるものか?』
「ああ、多分な」
『だったら動作テストをお願いしたい。ああ、俺の名前はガウルだ』
「任せとけ」
『アンタは乗馬したことがあるのか?』
「ゲームの経験でよければ」
『よし、問題ないと判断するぞ。では存分に動作テストをしてくれ。ちなみに訳アリの理由を聞いても?』
「人攫いだ」
『うひょー。それは面白くなってきた。説明に入ろう、鞍の後ろにロケットランチャーがあるだろ?』
「物騒だな。何と戦うつもりだった?」
『その場のノリさ』
「そうか……」
無駄な重さになると思うんだが、それにこれを使えば白狐さんごと吹き飛ばしそうだ。
「他にはないのか、威力控えめの」
『その馬に拳銃をハミとして咥えさせている』
拳銃か、ロケットランチャーより扱いは良いだろう。僕は片手で手綱を掴み、ハミへ手を伸ばした。
「これか……って、ちょっとまて」
僕は銃には詳しくないけれど、これはあまりにもよろくしないのではないか。フリントロックだったのだ、しかも海賊が使う単発式のやつ。
「ちょっと! これ火花依存の武器じゃん!! トンプソン・コンテンダーの方がまだマシだったよ!!」
フリントロックは単発式な上にリロードにかなりの時間を要する。しかも、火種ではなく引き金を引いた際に生ずる火花に依存するため、不発することも少なくないのだ。こんなので霹靂さんの大群を倒せるわけがないじゃないか!
「予備の弾丸と火薬はある?」
『2発分だけどね。予算が足りなかった』
ロケットランチャーをこっちに回せよ。片手で撃てる代物じゃないんだし。
『まぁ、頑張ってくれ』
くそ、ロケットランチャーは威力が高すぎる。でもフリントロックは数が少ないし不発というリスクがある。
どう足掻いても絶望。
考える、でもあまり時間がないのも事実。
景色が人里から森の中へと変わった、早く手を打たなければ。いくら大群だとはいえ、木が影になって見失うかもしれないからだ。
どうにかして、必勝法を先手に打たなければ。
……先手に打つ必勝法……先手必勝、か。
「よし」
『なにをするつもりだ?』
「組み合わせるのさ、あまりにも強すぎる攻撃と、あまりにも弱すぎる攻撃を」
問題は、それができるかどうかなんだ。仕方がない、使えるものは全て使ってやる。
僕は呼吸を整える、心臓の鼓動に合わせて呼吸をする。呼吸と鼓動がリンクする。心臓の鼓動が速くなると、周りの時間がゆっくり流れるように感じる。これは少しでも早く危機的状況から抜け出すためだ。それを僕は利用する、呼吸を速く行い、鼓動を速くすることで自ら反応速度を上げるのだ。
心臓の鼓動が速くなっていくのがわかる、神経の伝達スピードが速くなっていくのがわかる。カサ増し程度でしかないだろうが、今はそれだけで充分だ。
ロケットランチャーの射程内まで近づく。狙いを定める。引き金を引く。弾が真っ直ぐ霹靂さんに向かって飛んでいく。このままでは白狐さんが危ない、だから僕はフリントロックを取り出した。
狙うのは、ロケットランチャーの弾。
ロケットランチャーの弾が直撃するのが不味いなら、少し離れたところで爆発させれば良いだけのこと。少なくとも、混乱を招くことはできるはず。その時に白狐さんを助ければ良い。
普通なら無理な芸当だ、でも今の僕ならできる。僕は、引き金を引いた。フリントロックの弾が真っ直ぐ飛び、ロケットランチャーの弾に直撃、大爆発を引き起こした。僕は爆発の中に突っ込んだ。
その先にあったのは屋敷だった。その屋敷の中によろめきながらも霹靂さん達が白狐さんを運んでいるのが見える。
流石に馬を屋敷の中に入れるわけにはいかないので、馬から降りる。そこで霹靂さん達が立ち塞がった。
「止まれ」
「そういうわけにもいかないんだよな、白狐さんはアナザーについて何か知ってるみたいだし」
僕は相手の数を数える。……10人か。僕が圧倒的に不利だ。
「とにかく、そこをどいてほしいんだ。僕にはやることがある」
「ここは私達の家だ」
「でもさ、一生に片手で数えるくらいは他人の敷地内に入るくらい誰もが経験することじゃないか?」
僕は会話で注意を逸らしつつ、なんとかフリントロックの弾を交換した。ただでさえ交換がやりづらいのに、どうやるのかわからなかったからかなり手間がかかった。
「弾丸を交換して何になる」
「それは、フリントロックか」
「はっ、バレてるか。まぁいいさ。次のセリフはこうだ、『そんな拳銃如きでこの人数に勝てるわけがない』」
「そんな拳銃如きでこの人数に勝てるわけがない……ハッ!」
「次のセリフは、『別に私達は危害を加えたいわけじゃない、退け』」
「別に私達は危害を加えたいわけじゃない、退け……ハッ!」
僕は言葉巧みに誘導しているその間に呼吸を整えて足の筋力をパワーアップさせる。
「全員まとめてかかってこいよ」
僕のその言葉を合図に、霹靂さん達が飛びかかってきた。その瞬間、僕は大きくバク転をして馬から離れる。馬の近くにはたくさんの霹靂さん、僕は馬の燃料タンクに向けてフリントロックを放った。
馬は悲鳴をあげた後大爆発、霹靂さん達を吹き飛ばした。
「……どこまで精巧に造られているんだ、機械といえども罪悪感が湧くな」
僕は霹靂さん達が倒れていることを確認し、屋敷の中に入る。ああ、そういえば。馬を壊してしまったがどうしようかな。まぁ、後で考えればいいか。




