隣国からの使者 いち
白内障の手術、先週右目、今週左目のどちらも無事終わりました。裸眼でも、すごくよく見えるようになりました!(といっても、両目で0.8ぐらいですが……)
両目で0.06という強近視だったから、今感動してる!
色々とあったキャンプから、ひと月ほど後。
わたしは『鉄の台所』の二階にある事務所で、ライドさんからの報告を聞いていた。
「新しく売り出したバトルカードですが、幼児や女児などを新たな顧客とすることに、成功したようです」
期待通りの報告に、嬉しくなる。
「そうでしょう!だって今回は、このわたし自らが可愛いと思える絵ばかりを、厳選したんだから!ふひょほ…」
笑いかけて、慌てて両手で口をおさえる。ライドさんの眉間のシワが二本から三本に増えたからだ。
あぶない、あぶない。まだ報告の途中だもんね。手はそのままで、続きを聞く。
「新カードだけを入れた小袋は、全ての店で完売となり、現在、追加注文が殺到しています」
余計なことを言わないよう口はおさえたまま、うんうんと頷く。ホント、あの時シームグルにトドメを刺さなくて良かったわ。そして絵師には、特別賞与をあげないとね。
だってドラゴン類の幼体カードは、絵が可愛いだけでなくカードとしても強いから、これまでカードを買ってくれていたおじさんや男児達にも、人気があるのだ。
(おじさんといえば、サンドラのお父さんも買ったのかな? だったら今ごろはきっと……)
バトルカードの熱心なコレクターであるブランシ伯爵のスキップ姿を想像して、一人楽しい気分に浸っていると、
「それと、取り扱いを望む店及び商会からの依頼書です」
ドサンと積まれた紙の束に、
「うへぇ……」
思わす声が漏れた。バトルカードは現在、ハウレット商会の専売になっているんだけど、いくら大手の商会といっても、全ての町に支店があるわけじゃない。
だから支店のない町の商店や商会が、自分たちにも卸して欲しいと言ってきているのだ。
「こんなにあるの?」
「一応、評判の悪い商会などは、外してあります」
「それは、どうも……」
しかたがないから、上から順番に見ていく。だけど。
「玩具や文房具を扱ってるお店はともかく、これなんてお肉屋さんだし、こっちは靴屋さん……お肉や靴の横に、バトルカードを並べるの? それって、なんか変じゃない?」
「皆、売れる商品が欲しいんですよ」
「だったら、自分で考えたら良いのに……」
書類を見ながら、ぶつくさ言っていると、
「それから、こちらは早急に対処された方が良いかと」
苦虫を噛み潰したような顔でライドさんが渡してきたのは、見たことのない紋章の入った封筒だった。
「誰?」
封筒や紋章から、身分の高い人だってことは想像がつくけど、それ以上は差出人が書かれて居ないから、わからない。
「おそらく、バルザック王国の貴族のものではないかと」
(お隣の?……なんでそんな所から、手紙が来たんだろ? まぁ良いや。これが誰かは、マキシムかマルク翁に聞いたらわかるだろうし)
**
さっそく事務所の隣にある、『連絡係り』の札が付いた部屋の扉を開ける。そこでは、エドガーとマキシムが熱心に、バトルカードの袋詰めを作っていた。
部屋に入ると二人して顔を上げたので、わたしは持っていた封筒を見せたんだけど、
「それ、断わっていいよ」
マキシムに、即答されてしまったわ。
「いいの?」
「うん。どうせ、バトルカードを卸せって話でしょ? この紋章、うちの親戚筋のダシルヴァ子爵家のものなんだけと、きっと僕が絡んでいることを知って、自分は大叔父にあたるから、言うことを聞くと思ったんじゃないかな」
呆れたように肩をすくめるマキシムの言う通り、手紙の内容は、「バトルカードを国で売るのなら、その扱いを引き受ける役割を担ってやろう」という、とても押し付けがましいものだった。
この手紙を書いた人って、きっと商売なんて、したことのないんだろうな。だって取引をしたい相手に書く手紙とは思えないもの。それにどうせバルザック王国に卸すなら、『あずま屋』を経営している商会にしたいと思っていたしね。
「だけど、いくらマキシムの親戚だからって、バルザック王国の貴族が、バトルカードの事を知ってるんだろ?」
「あぁ。それ、僕も兄からの手紙で初めて知ったんだけど……」
マキシムの話によると、どうやら隣国のベルクール辺境伯領の子供たちの何人かが、ダンジョン冒険ツアーに参加したついでに、バトルカードを買って帰ったらしい。そのせいでベルクール領では、ちょっとしたバトルカードブームが起こっているんだって。
「僕も、兄や友人から頼まれて、何セットか送ったんだ。ただし、お金を送ってきた相手にだけね」
「えっ、金も払わずに、カードを送ってくれっていうやつがいたのか? 貴族のクセに?」
それまで黙ってカードを袋に詰めていたエドガーが、驚いて声を上げた。
「違うよ、エドガー。自分が偉いと思っている人ほど、タダで寄越せって言ってくるんだよ」
「えっ、金持ってるくせに?」
「そう。持ってるくせに、もらおうとするの」
これは別に、バトルカードに限った話じゃない。『乙女の駿足』でも何度かあった。お金も払わずに、貴族令嬢が履いてやるんだから、光栄に思えっていうのが。
もちろん、『うちの靴は高貴なご令嬢が履かれるには、あまりにも粗末なため、せっかくのご提案ですが、遠慮したく思います」みたいな手紙を書いて、断ったけど。
とりあえずライドさんに代筆してもらい、さっさと断りの手紙を書く。最後のサインだけは、わたしが書いたけどね。
だけど、それから一週間後。今度はバルザック王家の紋章入りの手紙が、事務所に届けられた。しかも、お仕着せを着た、偉そうなおじさんによって。
「たかが紙のカードの二枚や三枚や十枚を献上しただけで、王室のから感謝状を受けとる事ができるのだ。ありがたく思いたまえ」
ふんぞり返りながら言うけど、いや、ちょっと待って。今、なにげに数を増やさなかった? 絶対増やしたよね?
しかもその言い方だと、タダでよこせって言われているようにしか聞こえないんだけど、気のせいじゃないよね?
はぁ~。ほんと、さすがお貴族様の親玉ね。うちの王子さまも大概だったけど、隣国は更にひどいみたいだわ。
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次作の投稿は 4月29日午前10時を予定しています。
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