冒険キャンプに出発だ! おまけ
「ウォルドよ。子供たちを頼むぞ」
その日の朝、オレは主から、重大な任務を任された。泊まりがけで森へと出かけるマスター達の、護衛だ。
主よ。心配せずとも、マスターはこの身にかえても守るし、そのついでに『エドガー坊っちゃん』と、『マキシム坊っちゃん』とやらも、見張っておくことを約束しよう。
「ウォン!」
オレは短く吠えて、了解の意を伝えた。
もっとも、ジルという名のフェンリルが同行すると知った時は、さすがのオレも怯んだが。聖獣であるフェンリルは、オレよりも数段上の存在だからな。それに、
(もしかして、コイツに『一番のお気に入り』の座を奪われるかも……)
という不安を感じたのも、事実だ。しかしそんな不安は、すぐに霧散した。
マスターが、フェンリルやその主らしき者に、俺の事を自慢し始めたからだ。しかも、オレをナデナデしながら!
「うちのウォルドは、すっごくお利口なんだよ!昨日もね〜……」
マスター、すみません。一瞬でも疑ったオレを許して下さい。そして、できればついでにブラッシングもしていただけたら……。
しかし、ブラシを手にしたのは、マスターではなかった。
(いや、『マキシム坊っちゃん』、オレはお前じゃなくて、マスターにしてもらいたいのであって……まぁ良いか。こいつは頻繁に『バウブの枝』をくれる、良い弟分だからな……)
馬車を降り、森に入ってしばらくは、なにも起こらなかった。
この森には鳥や小動物を狩る為に、主と共に何度か訪れたことがあるが、かなり深い場所でなければ、大型の野獣や魔獣などは出てこない。
そのため時々、そこらに生えている草を引っこ抜いてはポケットに入れるマスターの横を歩きながら、オレは完全に油断していた。
なんと空から急襲を受け、マスターが拐われたのだ!まさかの事態に、俺は愕然となった。
(まさか上からとは!ちくしょう、俺にも翼があれば!)
この時だけは、カラス共が羨ましく思える。しかしグズグズ言っている暇は、ない。俺は焦る心を押し殺し、目、鼻、耳の全てを使って、空高く連れ去られるマスターを、追いかけた。
だが、ドンドン小さくなっていくその姿に、焦りはつのるばかりだ。だが、その時。
突如現れた巨大な蔓柱によって、鳥の動きが阻まれたのだ。
(あれは……もしかすると、マスターがポケットに入れていた草か? なんと、このような事態にまで備えておられたとは、さすがマスターだ!)
それからは、あっという間だった。マスターは急襲者を取り押さえ、無事に地面に降りてこられた。
オレは誰よりも先に、マスターの元へと走って行った。
「ウォン!」
(マスター、ご無事で!)
「あっ、ウォルド! もしかして、助けに来てくれたの? ありがとう!」
駆け寄ったオレはマスターに抱きとめられ、撫でられたことで、安堵と喜びで胸がいっぱいとなった。
**
どうやらマスターを拐ったバカでかい鳥は、シームグルという名の霊鳥らしいが、そんなことは関係ない。
大事なマスターを拐ったのだから、それ相応の罰を受けるのは、当然だ。
シームグルは、『イエローカルゴと間違えた』などという、くだらない言い訳をしているが、オレには通じない。
おそらくヤツは、自分のヒナをマスターに会わせ、その幼い可愛らしさで、あわよくばお気に入りの地位を得ようとしたのだろう。
そんな姑息なヤツなど、土に埋めてしまえばいい。そう思って穴を掘っていたが、どうやらフェンリルとその主には、別の考えがあったようだ。
二人の要望を受け入れたマスターは、渋々、シームグルを埋めるのを諦めたようだった。
もちろんオレは不満に思ったが、マスターの決定に逆らう気はない。
そう。けっして『マキシム坊っちゃん』が出してきた『バウブの枝』を食べるのに忙しく、反対するのを忘れてしまったわけではない。
それから二日後。森を出たオレたちは、迎えの馬車の上に、見慣れない物が置かれている事に気づいた。
それは黄色のデッカイ渦巻きで、夕日を受けて、キラキラと輝いていた。
(なんと、綺麗な……)
思わず見惚れてしまったが、それはシームグルのヒナがフェンリルに託した、マスターへの『お礼』という名の貢ぎ物だった。 しかも小癪なことに、二つもある!
そんな事で心動かされるマスターではない事は、わかっている。だが。
(コレほどの物を贈るとは、それほどヤツとヒナが本気なのが、わかる。オレも、何もせずに今の地位を維持できるなどと自惚れていてはダメだ。できれば何か、マスターに贈りたいが……しかし、何を贈れば良いのだ? マスターに相応しく、オレにしか手に入らない物があれば……)
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次作の投稿は4月15日午後3時を予定しています。
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