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隣国からの使者 にぃ

 お仕着せおじさんから渡された手紙を読んだライドさんは、ため息をつきながら、それを机の上に広げて置いた。

 あー、これは、わたしに読めって事よね? だから手元に引き寄せて、目を通したんだけど……。


(うげっ。なんだ、これ……)


 なんとそこには、献上品の目録が書かれていた。

 ねぇ、なんで貰う方が勝手に目録を作ってるの? わたしが知らないだけで、献上って、そういうものなの?!

 しかもカードだけじゃなく、装飾付きの木剣やオセローまで入ってて、おまけに各三個って……。


「ねぇ、おじさん。聞いても良い?なんで隣の国の王さまは、わざわざ献上してもらおうとするの?そんな事しなくても、ギルド横の売店に行ったら、全部買えるよ?」


 そもそも、こんな面倒くさいおじさんにお使いを頼まなくても、注文書といっしょに送料込みの代金を送ってくれれば、それを小包にして届けるのに。

 ちなみに書かれている物全部を送るなら、国外への送料も含めて、大銀貨四枚ほど。

 まぁ、結構なお値段になるけど、お仕着せおじさんの旅費に比べれば、ずっと安いはず。


 バルザックの王さま、絶対お金の使い方を間違ってるよね?だけど。


「失礼な!正式な使者である私に向かって、なんという口のきき方! そもそも、王室に献上を許されるという事が、どれほど名誉なことか、わからん子供は黙っていろ!」


 お仕着せおじさんは、質問に答えないどころか、聞いたわたしに向かって、怒りだした。

 だけどこのおじさん、執務室に入って来てすぐに、バルザック王家の使者だとは名乗ったけど、自分の名前は言ってない。それなのに、おじさん以外に、なんと呼べと? 使者さまか?

 なにより献上が名誉だと思うかどうかなんて、する側のかってだよね?もっとも献上する気なんて、さらさら無いけど。

 そしてお仕着せおじさんは、まだわたしに怒っていた。


「だいいち、ここは仕事の場であって、子供の遊び場ではない!」


 うん、知ってる。だからこうして仕事をしてるんだけど。まぁ、いつもの事だから、今更傷つくことは無い。

 だけど花の装飾がされた小型の事務机を前にして座ってるのはわたしで、その横に立っているのがライドさんなのに、それでも間違えるって……。しかも。


「パシェット殿。貴方も親として、もう少し子供の教育について考えられた方がよろしいかと。このような子供を、仕事の場に出入りさせるのは、どうかと思いますぞ」


 ライドさんに向かって、『パシェット殿』なんて言ってるし、なぜか親子認定まで、されてしまった。

 こうなると、もう色々ありすぎて、説明する気も起きない……。


 ため息をつきながらライドさんを見ると、眉間のシワは三本に増えてるし、こめかみには青筋が浮き出ている。


「ひえっ…」


 あまりに怖くて、思わず声が出たわ。でも怒るのは、仕方ないよね。ライドさん、まだ独身だもの。それがこんな大きい子持ちお父さん扱いをされたんだから。

 それにしても、いったいどこをどう見れば、わたしとライドさんが親子に見えるのよー!! ってことで、文句の一つでも言ってやろうかと思った時、


 バンッ!


 執務室の扉が開いて、


「お前こそ、もう少し頭を使ったらどうた。それに、人にモノを頼む態度には、到底見えぬぞ!」


 マルク翁の声が響いた。その後ろには、マキシムとエドガーもいる。

 二人には、事務所前にやたらと煌びやかな馬車が停まった時点で、送受信盤を使って、祖父さまとマルク翁に連絡を入れてもらったのだ。

 そして、事務所近くに滞在しているマルク翁が、先に着いたというわけ。


「えっ、あ、貴方さまは、もしかして前辺境伯の……」


「ふん。正解だ。どうやらまだ、この顔は忘れられていないようだな」


「当然でございます。しかし、えっと、私が頭を使うとは、いったいどういう……」


「この執務室の調度品を見て、部屋の主が誰かさえ、わからないようだからな」


 マルク翁の言葉で、部屋の中を見回し始めたお仕着せおじさんは、だんだん顔色が悪くなっていった。

 どうやら白を基調として、所々に花の彫刻があしらわれた調度品の全てが、子供サイズだという事に気づいたみたい。


「では、パシェット商会の商会頭は……」


 わたしは血の気が引いて、真っ白な顔でこっちを見ているお仕着せおじさんに向かって、ひらひらと手を振ってみせる。


「まさか、こんな子供が……」


「ついでだから、教えてやろう。この娘は、ロックベール辺境伯であるシモンの姪だ。しかも溺愛されている。あまり失礼な態度をとると、ロックベール領(ここ)から放り出されるだけでは、すまないかもな」


 マルク翁は笑いながら言うけど、顔が悪人顔になってるよ……。


「で、どうするエミリア。献上してやるか?」


「絶対に、イヤ! です」


 当然だけど、乙女のニッコリ笑顔で、拒否を突きつける。


「だ、そうだ」


「いや、しかし、それでは……」


「心配するな。王にはこちらから手紙を書いておいてやる。間抜けな使者が商会頭を侮辱して怒らせたため、何ひとつ、もらえずに帰ったとな」


 マルク翁がさらに悪い顔で、笑う。


「そんな……」


 ヘナヘナと、その馬に座り込んだお仕着せおじさんに、


「なぁ、おじさん。売店で買えば良いんだよ。それぐらいの金、持ってるんだろ?」


 エドガーが側に寄って提案し、


「そうですよ。これ、個数から見て、三人の王子たちのでしょ?余分に新作カードの袋セットを、いくつが足しておけば良いですよ」


 いつの間にか目録を手に持っているマキシムが、追加購入をそそのかす。くふふ、二人とも商売熱心ね。関心、関心! あっ、お隣は王子さま、三人もいるんだ。知らなかったや。


「しかし、それでは限定品のカードが……あれば何としても、手に入れるようにと……」


 お仕着せおじさんは困った顔をしながら、わたしの方をチラチラ見るけれど、わたしには関係ないから、無視しておく。

 えっ、まさか同情してもらえるとでも、思ってるのかな? まさかね。だってわたし、謝罪もされてないんだよ?

 そして追い打ちをかけるように、


「あれは、うちの王子だって貰えなかったんだぜ。隣の国の王子なんて無理に決まってる」


「頑張って、叱られてください」


 エドガーとマキシムが、清々しいほど朗らかに言う。はは、あんた達、どちらも自分の分を差し出す気なんて、全く無いって事がよーくわかったよ。

 そして出資者として五セット持っているはずのマルク翁も、黙ってるってことは、出す気は無さそうだ。すると、


「そもそも、今回はどういう経緯で、このような事になったのか、説明いただけますか?」


 ようやく怒りが収まったのか、ライドさんが、お仕着せおじさんに話しかけた。

お読みいただき、ありがとうございます。

次作の投稿は5月6日午前11時を予定しています。


評価及びブックマーク、ありがとうございます。

感謝しかありません。

また、<いいね>での応援、ありがとうございます!何よりの励みとなります。


誤字報告、ありがとうございます。

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