書籍化記念SS 乙女の秘密の専(戦)用ドレス (『王都に戻るぞ いち』あたりの話です)
書籍『無自覚なオッドアイ 〜エミリア・ハウレットは、今日も商いに忙しい~』は、二月十三日発売が決まりました!今回はそれを記念してのSSです。
「なぁ。たまには、かわった事をしないか?」
その日の朝の訓練が終った後、エドガーが言ってきた。
「かわった事?」
「そう。例えば、素手での取っ組み合いとか」
うーん。乙女としては、そういうのはちょっと遠慮したい。
だけどそんな事を言うなんて、もしかするとエドガーは、毎朝の剣の稽古に飽きたのかな? なんて思ってたら、
「だったら明日は、武器以外のものを使って、対戦してみてはどうだ?」
「武器以外で? 面白そう!」
祖父さまの提案にすぐに飛びついたから、本当に、かわった事がしたかっただけみたい。
だけどちょっとぐらいは、わたしの意見を聞いてくれてもよくない? だって相手をするのは、わたしなのに。
ちょっとムッとしながら、確認を取っておく。
「祖父さま、それって武器でなければ、何を使っても良いの?」
「あぁ、構わん。ただし、刃物はダメだ」
なら、アレは大丈夫だ。明日の持ち物を考えていると、
「よし、早いもん勝ちだ!」
言いながら、エドガーは走っていった。
そして次の日の朝。わたしの前には、右手に庭掃除用のほうき、左手には床用モップを持つエドガーが立っている。
(確かに武器ではないし、対戦になったら長い方が有利だけど、コレはあまりにも単純な気が……まぁ、いいか)
「ねぇ、エドガー。それって折っても大丈夫? 怒られない?」
一応、聞いておこう。だって後で叱られるのは、嫌だからね。
「古いヤツを、レノーにもらったから大丈夫だけど、なんかソレってエミィが言うと、折る気満々に聞こえるよな。ところでエミィは何も持ってないけど、何で戦うんだ?」
「もちろん、コレよ!」
言いながらドレスをつまんで、クルンと回ってみせる。くふふん、乙女はドレスで優雅に戦うの。もちろん右手には、乙女の必需品、扇を握っている。
エドガーはちょっとびっくりした顔をしたけど、直ぐにほうきとモップを前で交差させるように構える。そして。
「よーし。どこからでも、かかってこい!」
なんて、威勢のいい声をあげる。うーん、ホントにいいのかな? 扇で口元を隠し、にへりと笑う。
「では、お言葉に甘えて」
身体強化をかけ、距離を一気に縮めると、先ずは交差の奥側にある、左手のモップから。
扇で横にはらいモップを上部を叩き折ると、そのまま手首を返して右手を狙う。だけど、それはさすがに避けられた。
(ちっ)
だったらと、いったん距離を取り、今度は扇の房を握る。その間にエドガーは折れたモップを放り出して、両手でほうきを構えていた。
ヒュン、ヒュン、ヒュン。扇を回しながら相手との距離を測ると、低い体勢で距離を縮める。そして、扇でほうきを狙う素振りを見せながら、左手でスカートをつまんで大きく振った。
するとスカートの裾がエドガーのスネにあたり、バチンッと音がした。
くふふん、このドレスの裾には、重しとして鎖が縫い込まれているから、当たるとけっこう痛いのだ。もちろん裾裏には、重量軽減化魔法陣の刺繍入り!
「ィってー!」
エドガーは痛みに顔を歪めるけど、ほうきを離さないのを見て、ちょっと関心した。
(だけど動きは鈍った。なら……)
扇の回転速度をあげて、上下左右に攻撃を仕掛けながら、ほうきを折りにいく。
バッキッ!
ほうきの先が飛んでいくのを見て、エドガーは一瞬驚いたけど、そのまま半分になったほうきを両手で握って打ち込んできた。だから。
ダンッ!
即座に上に飛び上がり、身体を半回転ひねってエドガーの背後へと下りると、そのまま扇を首元へと突き付ける。
「そこまで!」
きょほほ、乙女の勝利よ〜!
「うそだろ…」
ガックンと座り込んで呆然としているエドガーに、ちょっとやりすぎたかな? って思ったけど、
「なぁ、なんでドレスに当たっただけで、痛いんだ?」
エドガーがドレスを指さして、聞いてきた。
「ナイショ!」
乙女の秘密を、そう簡単に教えるわけ無いでしょ?
「チェッ。ほうきとモップを手に入れたから、絶対に楽勝だと思ってたのになぁ。ほんと、参ったや」
言いながら、ゴロンと地面に寝転ぶ。
「でも剣より硬いものは、今日は使ってないよ」
「普段は?」
「それも、ナイショ!」
「うーっ、こんなの、絶対勝てる気がしないー」
「でも、エドガーもすごいよ。扇でほうきを折られた時、落とさなかったでしょ? アレ、大人でも、持ってるものを落としたりするんだよ」
「今でも痺れてるし。ていうか、大人でもって、普段、どんなやつを相手にしてるんだよ?」
「うーん、引ったくりとか、スリとか引ったくり?」
「それ、全部犯罪者だろ」
起き上がった上に、そんなに呆れた顔をしないでくれる?
「王都も場所によっては、イロイロいるから」
「しかしエミリア、あまり危ないことをしては……」
あっ、しまった。うっかり祖父さまに心配かけたかも?ここはちゃんと、説明しておかないとね。
「それは大丈夫です! 近づかなくて良いように、たいていはこれを使ってるから!」
言いながら、『伸びる! ひっかけ君』を取り出して伸ばすと、ブンブンと振り回してみせる。だんだん速くしていくと、ヒュッ、ヒュッという高くて大きな音に変わっていく。うーん、いい感じ!
「なんか俺、王都の引ったくりが可哀想に思えてきた……」
「うん、わしも少し思った……」
エドガーも祖父さまも、何を言ってるんだろう。犯罪者に同情なんて、必要ないよ?
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次作の投稿は1月28日午前8時を予定しています。
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