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ある少年と、親友の話

「おい、ジスラン。お前、なんで他の奴と対戦している時は強いんだよ。もしかして俺が相手の時は、手を抜いてるのか? そんなの、ちっとも嬉しくないぞ!」


 アクセルが声をあげ、机の上のオセロー盤に、拳を打ち付けた。

 バンッ!

 傾いだ盤からコマが飛び散るけど、僕は何も言えずに、俯くしかなかった……。


***


 僕、ジスランは男爵家の三男で、アクセルは伯爵家の嫡男。身分や立場は違うけれど、領地が隣同士ということもあって、幼いころから仲良しだ。


 だけど僕には、彼に打ち明けていない秘密があった。いや、彼だけじゃない。家族にさえ、言えずにいる秘密だ。


 それは『色がよくわからない』ということ。


 その事に気づいたのは五歳の夏、初めて植物図鑑を見た時だった。緑の葉が紅葉する事を、絵を添えて説明されていたのだけど、僕には緑の葉と赤い葉、どちらも同じようにしか見えなかったのだ。

 でもその時はまだ、図鑑の色の方がおかしいのだと思っていた。だから父さんに、


「紅葉が見たいです!」


 図鑑を見せながら、お願いしたのだ。そして秋に家族で紅葉で有名な公園へと出かけた時、そこでようやく自分の見え方が、他の人と違う事に気がついた。

 家族の言う『鮮やかな赤』が、分からなかったからだ。


(おかしいのは図鑑じゃなくて、僕の目の方なんだ……)


 それからは、自分がなにかとんでもない病気なのではと、不安な日々を過ごしてきた。だけどなにより、家族やアクセルにこの事を知られ、嫌われたらと思うと、怖くてたまらなかった。だから。


「これは、俺とお前の色で作ってもらったんだ。特注品だぜ!」


 ひと月ほど前、アクセルが新しく手に入れたゲームを自慢げに見せてくれた時も、


「ほんとだ。すごいね! コレって最近流行りのオセローだろ?」


 そう言いながらも、そのコマの色がどちらも同じようにしか見えないことは、言えなかった。

 ただ、ありがたいことに目の不自由な人も楽しめるようにと、コマの片方のには中央にくぼみが彫られているから、区別はつく。

 だからコマの数が少ない序盤は問題無いけど、コマの数が増えていくと、だんだん訳がわからなくなってしまい、最後にはグダグタな手を打ってしまうのだ。

 その結果、いつもアクセルが勝っていたのだけど……。


 アクセルから話題のダンジョン・ツアーに誘われた時は、ちょっと不安だったけど、暗い場所では色が少ないせいか問題なく見えたので、凄く楽しい時を過ごすことができた。

 そしてツアーの後に寄った遊戯場で、事は起きた。オセローの貸出しがあったので、アクセルが借りてきて、他のツアー参加者と対戦することになったのだ。


 貸出し用はごく普通の白と黒のセットだから、色の区別がつきやすく、おかげで最後まで問題無くコマが置け、僕は二回続けて勝つことができた。

 だけどそれが、アクセルを怒らせる結果となった。



 遊戯場で騒いだ僕とアクセルは、辺境伯の紋章をつけたら騎士によって、事務所のような場所に連れて行かれると、騒いだ理由を聞かれる事になった。

 黙って俯いている僕を横目に、アクセルがはなす。


「騒いだことは、謝ります。ごめんなさい。ただ、ずっと友達だと思っていたジスランが、実は俺に気を使っていただけだとわかって、悲しくてくやしくて……俺だけが勝手に、親友だと思ってたなんて……」


 違う、そうじゃないと言おうとしたとき、僕らが入ってきたのとは別のドアが開き、数枚の紙と眼鏡を持った少女が入ってきた。

 騎士が立ち上がってお辞儀をしたから、きっと身分の高い子なんだろう。


「はじめまして。わたし、エミリア・ハウレットといいます。もしよかったら、なぜそう思ったのか、教えてもらえますか?」


 ドアの向こうで聞いていたのだろう。これまでの経緯がわかっているらしい少女の質問に、アクセルが特注品の話をする。


「いつも俺が勝てたのは、こいつが気を使って負けていたからだと、わかったんだ。変だと思ってたんだ。だってこいつの方が、ずっと賢いのに……」


 それを聞いた少女は、少し気まずそうな顔になり、


「一応、注文される時の注意事項として『組み合わせの悪い色』については書いてあるのですが、キチンと説明出来ていなかったようで、申しわけありません。それで、もしかしたらですが……」


 そう言いながら、僕の前に三枚の紙を置く。そこには色のついた点で埋め尽くされた丸が描かれていた。


「この中に書かれている数字が、解りますか?」


 少女の質問に僕が首を横に振ると、アクセルは驚いた顔をした。


「えっ、だって…」


 何か言いたげな彼を、少女が手で制すと、


「では、こちらの眼鏡をかけてみて下さい」


 少し色のついたレンズがはまった眼鏡を、僕に渡してきた。


(こんな物で、何とかなるわけないのに)


 そう思いながら眼鏡をかけた途端、目の前の世界が大きく変わった。

 色が一気に増え、全てが明るく鮮やかになったのだ!辺りを見回し、目の前にいるアクセルを見る。そには鮮やかとしか言いようのない髪色をした、親友がいた。


「君の髪、こんな色をしてたんだ……」


 言いながら、涙が溢れる。世界はこれほどまでに、沢山の色で彩られていたんだ。感動と喜びで、胸がいっぱいになる。


「おいっ、どういう事か説明しろよ!」


 ポロポロと涙をこぼす僕を見て慌てるアクセルに、少女が説明する。


「この眼鏡のレンズ、実は赤と緑の光を遮る魔法陣が刻まれているんです。おそらくですが、ジスラン様は生まれつき、色の区別がつきにくいのではありませんか?」


「そうなのか?」


 少女とアクセルの問いに、頷く。


「何で黙ってたんだよ!」


「ごめん。でも変な病気だったら嫌だし、何より この事がばれて君に嫌われるかもしれないと思うと怖くて…」


「そんなわけ、無いだろう! おい、こいつは別に変な病気とかじゃあ無いんだろう?」


「はい。ちょっとばかり、色の区別がつきにくいだけです。それに、この眼鏡を使えば、ずっと区別しやすくなりますよ」


「そうなのか?」


「うん、びっくりした。色ってこんなに沢山あったんだね」


 泣きながら笑う僕に、アクセルは少し泣きそうな顔をしながら、


「気づいてやれなくて、ごめんな」


「ううん内緒にしてた僕も、悪いんだ。ごめんね。これ、今なら凄くよく分かるや」


 もう一度、さっきの紙を見る。


「8と、こっちは3。それと12」


「正解です」


 にっこり笑う少女に、アクセルが聞く。


「おい、その眼鏡はいくらだ?」


「これは魔道具の一種で、三十万デル と高額ですが、パシェット商会では、月三千デルで貸出しもしていますよ」


 月に三千デルなら、それほど裕福ではない男爵家(うち)でも、なんとかなりそうだと思っていると、


「いいよ、俺が買ってやる」


「悪いよ、こんな高い物」


「良いんだよ、その代わり勉強を教えろ。再来年には王立学園に入学なんだし、お前とクラスが変わるのは嫌だからな。家庭教師代ってことだ」


「…判った」


 頷きながら、少女が貸してくれたハンカチで涙を拭く。それと一緒に、軽くなった心が叫ぶ。


(僕たちは親友で、それはこれからもずっと続くんだ!)


 嬉しくてたまらない。それに、このエミリアって()とパシェット商会には、感謝しかないや。いつか恩返しとか、出来たらいいな……。

お読みいただき、ありがとうございます。

次作の投稿は1月21日午前8時を予定しています。


評価及びブックマーク、ありがとうございます。

感謝しかありません。

また、<いいね>での応援、ありがとうございます!何よりの励みとなります。


誤字報告、ありがとうございます。


色覚を補助する眼鏡は、すでに実用化されています。メガネスーパーが代理店をしているという話を聞いたことがありますが、詳しくは、眼科医に相談を。

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