脱出
「……俺はっ……俺だって…!」
「…と、まぁ…他にも言いたいことはたくさんあるんだが。幼稚な嫌がらせと、鉱石を悪用し各国に迷惑をかけたこと……説教は、得意な奴に任せるかぁ」
そう言うなり団長は芹尾君の両手を掴み、私の後ろへ歩き出す。波の音はそちらから聞こえていたが、安全な出口なのだろうか。……心配だ。
「離せっ…!くそ、このゴリラめ…!」
「だ、団長。芹尾君は…どうなるんですか?」
「ん?そうだな…チェリオの身柄は一度、ウールデリヒへ預けることになるだろう。同盟国だが、そこまで好き勝手はできんからな」
「そうですか……」
ひどい性格だが、一応同じ境遇なので可哀想な目には合ってほしくない。まだ若いしこれからいくらでも改心できるはずだ。
なにかできることはないだろうかと芹尾君を見ればバッチリと目が合い、睨まれた。
「なに見てんだよ。……同情するんだったら、こいつなんとかしてくれ」
「ごめん、それは無理」
「チッ、使えねぇ…どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがって…!」
「おいおい、まだサシャに突っかかるのか?」
元気だなぁ、と笑いながら芹尾君を引きずる団長がちょっと怖い。彼全く歩く気ないしね。せめてもの抵抗だろうか。
恐る恐る団長に続けば、次第に光が見えてくる。
しかし私の予想通りそこは断崖絶壁で、あまりの恐怖に足がガクガクして動けなくなった。え、団長…どうやって来たんだろう?
「サシャ、俺達は先に上がるからな。ちょっと待っていてくれ」
「わかりました」
首を傾げつつ見守っていれば、上から太いロープが降ってきた。あぁ、なるほど。そうやって降りてきたのか。一瞬、飛び降りたのかと勘ぐってしまった。
片腕だけで掴まり、崖上へ登っていく姿を眺める。誰がロープを引いているのかわからないが、とてつもなくはやい。
呆気に取られていれば入れ替わるように真っ黒い塊が落ちてきて、慌てて数歩下がった。危なっ…?!
(あぁ、愛しのレディ…!怪我はないかい?!)
「ぼ、ボス…?!」
(すぐに来られなくて、すまなかった……今すぐ上へ行こう。こんな湿っぽい場所、君には似合わない)
言うなりお姫様抱っこをされ、魔法を駆使しピョンピョンと何もない空中を駆け上がっていく。あの場から助けてくれたのは嬉しいが…ボスにしては珍しく、不安定で怖い。
しかし陸地への到着はあっという間で。待っていてくれた人達の顔を確かめるよりもはやくぎゅうぎゅうに抱きつかれ、誰が誰だかわからない状態に。
私が言うのもなんだが、ちょっと落ち着いてほしい。
「もうっ……あんたって子は!心配したのよ!」
「目の前で攫われやがって…!」
「うぅ…無事で良かったよぅ…!僕、心配で心配で…!」
「怪我一つないんスね?あったら怒るっスよ……ボスが」
心配をかけて申し訳ない気持ちと、あっさり攫われて情けない気持ちと。みんなと再会できて嬉しい気持ちがごちゃ混ぜになり、うまく言葉にできない。
ややしばらく五人でわちゃわちゃした後、大人しく座って待っていてくれたモモに力いっぱい抱きついた。
(悪かったな……一緒にいなかったせいで)
「モモのせいじゃないよ。…私も、ごめんね。心配かけて」
(ぶじでうれしい!)
(けがもない!)
(ずっといっしょ!)
「!……そうだね、ずっと一緒だよ…!」
帰れないと、ハッキリ言われてしまったことを思い出す。薄っすらと、期待してしまっていた。完全には諦めていなかった。
なので余計に心が沈み、三羽の言葉に涙が出そうになる。
上を向いてグッと堪えていれば、ふと芹尾君の声が耳に入った。
「団長っ……!」
「…大丈夫だ。逃げられないように監禁されるだけだからな」
監禁という物騒な言葉に、なんと声をかけたら良いのか。それとも、なにも言わない方が良いのだろうか。
一人悩んでいれば、ウールデリヒの兵に拘束された芹尾君とバチっと目が合って。
「なに見てんだよ。ばーか、あーほ、ぶーす」
(楓。あいつの首と胴体、離れても問題ないよな?)
(やはり我慢ならない。…そうだ、レディ……一発入れてほしいと言っていなかったかい?特大のをプレゼントしてこよう)
「わーっ?!ま、待って待って!私はなんとも思ってないから!落ち着いて!」
モモは冗談だったようだが、ボスは止まりそうにない。今更だがみんなどうやってボスを……と焦っていれば、団長の一言で簡単に止まった。
「見苦しいぞ、チェリオ。それにいい加減サシャにだけ八つ当たりするのはやめろ」
(……チェリオ…と、いうのかい。アレは)
「……………正確には、芹尾裕司君だよ」
(チェリオ・ユジャ……そうか、ならばこれ以上の罰は野暮というものだね)
上機嫌になったボスに、複雑な気持ちになる。多分ボスは単純に、変な名前だと思っただけだろう。しかし私は脳内でいろいろなものが出てくるのだ。
それに本人が嫌がっている以上、私だけは芹尾君と正しく呼んであげたい。
今度は団長になんやかんや言っている芹尾君の後ろ姿を眺めながら、無事を祈った。




