ヒーロー
揺れはすぐにおさまり、安心したのだが一瞬だった。
今度はガラガラと岩の崩れる音がして、洞窟が崩壊してしまうのではないかと身構える。
おまけに突風が吹き、転ぶ…!と思った瞬間、誰かに背中を支えられた。
振り返り、思わず涙が出そうになる。
「だ、団長ーっ…!」
「遅くなって悪かったな。怪我はないか?」
ありません!と何度も頷けば、背に庇われる。か、かっこいい…!しかもなんてタイミングで現れるんだ。まるでヒーローじゃないか。
「悪いが、会話は全て聞かせてもらったぞ」
「………えっ、そうなんですか?!」
「あぁ。ここはすぐに見つけたんだが、二人の関係性がわからなくてな。様子を伺ってたら……出にくくなってしまってなぁ」
ちなみにボスは問答無用で殺してしまいそうだったから、全員で拘束して待機だ!と言われ、無言で頷いた。心細いが、正解だと思う。
「さて……全て聞いた上で、言いたいことがある」
「………!」
そうだ、団長は……私達の会話を聞いていたのだ。ということは、私とこの子が別の世界から来たことも…それでスキルを授かったことも、管理者の存在も。
なにもかもがバレてしまったということだ。
いったいなにを言われるのだろうと怯えていれば、団長は数歩前に出る。そして、
「お前、名前はなんていうんだ?」
「……は?俺?」
「あぁそうだ!名前は!」
……なぜ、今…名を気にするのか。なぜ威圧的なのか。聞きたいことはいろいろあるが、とりあえず団長に任せることにした。
頑張って強気でいたが、団長の登場により気が緩んだのか。若干腰が引けてきたのだ。この状態ではなにを言っても響かないに違いない。
「………、だよ」
「ん?なんだ?声が小さくて聞こえんぞ」
「っ……芹尾だよ!芹尾、裕司!」
せりお、ゆうじ……君。名前を知れたと思わずニヤけてしまったが、団長は首を傾げた。
「チェリオ、ユジャ?……随分と変わった名前だな…?」
「ぶふっ」
「あっ、てめぇ笑いやがったな…?!」
だからこの世界は嫌なんだ!と地団駄を踏む芹尾君だが、私はそれどころではない。笑ってはいけないのに…どうしても、堪えられない。どうしよう。
「なんで正しく発音できねーんだよ!なんで付け足すんだよ!マジ意味わかんねぇ!」
「せ、芹尾君。私もね、佐々木楓っていうんだけど……ちょっと団長言ってみてもらえますか?」
「ん?サシャだろ……か、カイーデ?」
合ってるか?と不安そうな表情の団長に、残念な気持ちになる。ほらねと芹尾君を見たが、彼はまだ怒っていた。
「名前になってるからいいだろ!俺はっ……チェリオだぞ!ユジャだぞ?!どっちも最悪なんだっつーの!」
「私が発音できるから…」
「たった一人でなんの意味があるんだよ!」
そう言われると、なにも言えなくなる。そうか…私はまだマシな方だったのか。
「結局チェリオでいいのか?……まぁいい。チェリオ、お前は自分勝手すぎる」
「…はっ、チートの一人がなにを偉そうに。関係ない奴は引っ込んで、」
「関係なくはない!サシャは、俺の大事な部下だからな!」
少しだけキュンとしてしまった。だが、チェリオという名前のせいで頭が混乱している。どうしても意識がそっちに。
「どこの世界から来たとか、正直驚きはしたがなにも問題ではない。なぜならサシャも…チェリオも、存在しているからな。どこにいたって生きているならば、生き続けるしかないだろう!」
「っ、だから俺は必死に生きてんだっつーの!」
「そうだな、だがお前は間違っている!」
あまりの声量と剣幕に、芹尾君が怯む。
「お前は…せっかく素晴らしいスキルを授かったのに、それを悪用したから失った。それに懲りず、サシャの分まで過剰な力を望んでいる。……なぜ、普通に生きれない?」
「普通って……なんでだよ、普通だろ。ファンタジー世界に来たなら当然、」
「今まで生きてきた場所となにもかもが違うのは、サシャのこれまでを見てきたから理解した。だが…見てみろ。サシャは、与えられたものだけで…普通に生きているぞ」
「そいつだって結局チートだろうが。俺のスキルまで持ってんだぞ」
「チェリオのスキルが、なぜサシャにいってしまったのかは俺にもわからん。だが、スキルなんかなくても生きてはいける。魔法は使えるんだろう?」
なぜ働かない?と言われ、芹尾君は口を閉じた。
「サシャのように働いて、給料をもらい、どこかの街で普通に生きる。…そうしないのはなぜだ?なぜ、悪者になり目立たねばならん?出る杭は打たれるというだろう」
「……なぜ、なぜって………うるせぇんだよクソが!俺がそうしたいからそうしてんだ!目立ちてぇの!世界で一番になりてぇの!」
クズで結構!と叫び石を投げるも、団長が叩き落とす。その際粉々になったのは、見なかったことにした。なにこの空間……こわい。
「そいつのスキルがあれば、一番になれんだよ!国も!王様も!俺には敵わなくなる!」
「……ふむ。やはりお前は、浅はかだな」
サシャのスキルがあってもそんなことは無理だ。
「従魔と話せることは確かにすごい。が、契約ありきだ。そして竜人族のスキルだが、もっとすごい使い手はたくさんいる。……ちっぽけな力で、いったいなにができると思っているんだ?」
「なっ……」
「それにまた管理者とやらが動くかもしれないだろう。再び力を手に入れたところで、また取られては意味がない」
後ずさる芹尾君に近寄り、その頭に手を置いた団長にハラハラする。に、握り潰したりしないでくださいよ団長!
「……お前は、ずっと意味のないことをしていたんだよ。そろそろ気付いたらどうだ?」
そう呟いた団長の声は、今までで一番冷ややかで……私まで、冷や汗をかいた。




