衝撃
「怒りてーのは俺だからな。人のスキルでのんきに暮らしやがって」
「……いろいろ、聞きたいんだけど。なんで一度もらったものを、とられたの?」
知らねーよ、と、こちらに向かって石を蹴る。当たりはしなかったが少しビクついてしまった。
「やっぱさ?異世界に来たからには、目立ちてーじゃん?なのにさー、勇者も魔王もいねーしさー」
ひどく苛ついているようで、身の危険を感じるがどうすれば良いのかわからない。ジルコットさんの目の前で攫われたはずなので、探してくれているだろうか。
…いや、変体王子もいないから、そちらが優先か。タイミングが悪かった。
「不便なこともねーから、発展させて偉くなろうにもできねーし。魔獣いると思ったらただのアニマルパラダイスだし。チートになりたくてもなんかいっぱいいるし。俺が悪くなるしか注目されねーじゃん。だからいろいろ考えたってのに…」
「……もしかして、目立ちたいから鉱石を…?」
キッと睨まれる。あぁそうだよ!と叫んだその表情は、八つ当たりが得意な上司によく似ていた。嫌なことを思い出してしまった。
「使えるモンが鉱石しかねぇってどういうことだよ。必死こいて探しだしたと思ったら、スキル取られるしよ。ただの魔法しか使えねーから、魔獣にも勝てねーし」
お前が来なければ、と睨まれる。
「後から来る奴にスキル渡すっていうから見張ってたんだよ。本当は、もっとはやく接触する予定だったのに……」
「なんで、」
「は?お前がそれ言う?……わざとらしく、魔獣見せびらかしやがって。すげぇチート連中にも囲まれてるし、そんなん近づけるかよ」
どうしよう。この子、全然喋らせてくれない。
私がスキルを持った理由も、この子の苛立ちも理解はしたが……結局、なにがしたいのか。それを聞きたいんだけれど。
「はぁーあ、だっる……なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだよ。お前だけ楽しそうだし、マジムカつく」
「……私に言われても、困るよ。文句なら、その…管理者とやらに、」
「こっちがいくら呼ぼうが会えねーんだっつーの。人のこと散々可哀想だなんだっつっといて…あのクソ親父。自己中だろ。やること適当だしよ」
それに関しては、私も同意してしまう。一度この子にあげたスキルを取り上げ、私に渡してしまうのも……いくら悪いことをしようとしていたからといって、ひどい話だ。
犬がヘルハウンドと呼ばれる理由もわかったが、どう考えても管理者が悪い。適当……に、当てはめて良いのかはわからないけれど。
なぜ私の前には現れないのだろうと考えていれば、ジッと見られていることに気付く。
そして、とんでもないことを言われた。
「……俺のこと、少しでも可哀想だと思ったんならさ。スキル、返してくれよ」
「……………え?」
「鉱石なんてもう使わないからさ。悪いこともしない。大人しくしてるから、な?それ、返して?」
返してと言われても、困るのだが。
「竜人族のチートとー、多分お前の元からのスキル。魔獣と話せるんだろ?どっちもくれたら、金輪際関わらないって約束するし」
「違うよ。魔獣とじゃなくて、従魔契約しないと、」
「どっちでもいいんだっつーの!」
また石を蹴られ、今度は足に当たる。痛い。
すごく自分勝手なことを言っていると思うし、正直なんだコイツはとも思っている。
けれどすぐに怒れないのは、多少なりとも同情しているからだ。
私よりだいぶ年下で、いきなりこんな世界へ来てしまい…頼れる大人もいなかった。非行に走ってしまうのも仕方がなかったのかもしれない。
けれど、そんなに簡単にスキルは渡したくない。そもそも渡す方法も私にはわからないのだが……元々自分が持っていたもの以上を求めるこの子に、なんと言えば伝わるのか。
急ぎ考えようとするも、相手はかなり短気だった。
「殺しちまったらスキル消滅すんだよ。待ちたくないし、今すぐほしいわけ」
「……もし断ったら?」
「ん?まずここから逃さねーし…あぁ、お前が連れてたヒヨコ、一羽ずつ焼き鳥にして食ってやるよ。あれくらいなら俺でもやれるからな」
ニヤニヤと、嫌な笑みを浮かべながら近づいてくることに恐怖を感じるが……それ以上にじんわりと怒りがわいてくる。
私の、家族を。あの子達を、焼き鳥にして食べるだなんて。冗談でも言って良いことと悪いことがある。
同じ境遇だし、もしかしたら仲良くなれるかもと期待した。けれど、この子は……自分のことしか、考えていない。
ただの犬だからと簡単に捨てたことも。鉱石を持ち出したことも、こうやって私を攫い、脅していることも。
他人なんてどうでもいいと言わんばかりの言動、行動に、私は腹が立ちすぎて体を震わせた。といってもこの状況をどうしたら良いのかわからないのだが。
どうにか誰かに連絡を取る方法はないか、海じゃない逃げ道はないか。
左右に視線を彷徨わせたところで、地面が揺れているのに気付いた。
「…?なんだよ、いいところで…地震か?」
チッと舌打ちをし、自分にだけ防壁をかけた彼を恨めしげに見る。無駄だろうが、私にも頼んでみようか。




