急展開
生誕祭二日目。
宿へ駆け込んできたウールデリヒの兵により、私達は朝から街を走り回るはめになった。
「あんのっ……馬鹿王子!見つけたら絶対ぶん殴ってやる!」
「ちょっ、物騒ですよ!絶対殴っちゃダメです!」
「いいや殴る!」
「ひぇっ……」
ユナイシアムルの王子が、城からいなくなったそうなのだ。
あの王子は変体できるので厳重に警備していたらしいのだが、それらを掻い潜り脱走。
従魔の手も借りたいということで、私達は全員バラけ捜索しているのだが……ジルコットさんがあまりにもキレているので、私はお目付役である。
ぶっちゃけ怖いし、なにかあっても対処できる自信はない。完璧に人選ミスだった。
ちなみにララと雛達は宿でお留守だ。
「くそ野郎が……余計な仕事増やしやがって…!」
「そ、そんなに怒らなくても…!」
「怒るだろ!あいつのせいで朝飯食いっぱぐれたんだぞ?!貴重な海鮮料理だっつーのに!」
やはり食事が絡むとジルコットさんは恐ろしい。
こんなことなら、団長の提案に乗らずモモかボスと行動していれば良かったと後悔する。
「なんの気配もしねーな……」
「一度戻りましょうか?もしかしたら誰か見つけてるかも…」
そう言って彼の方を振り返った時だった。
「サシャ!」
名を呼ばれると同時に目の前が暗くなる。
意識が遠のくのがわかったが……なにも、できなかった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
宿なのに寒いなぁ、と……目を開けて、気が付いた。
ここ、宿じゃない。
「なんなの、…?」
まわりは土壁で、かなり湿っぽい。波の音がとても近く、どうやら洞窟のような場所に横たわっていたのだと理解する。どうりで寒いわけだ。
さっきまでジルコットさんといたのに、自分になにが起こったのか理解できない。
「……とにかく戻らないと、」
「ねぇお前わざとなの?わざと俺に気づかないふりしてんの?泣くよ?」
狭い洞窟だと思ったが、暗すぎて奥が見えなかっただけらしい。
暗闇から聞こえる声と足音に警戒し短剣を構えようとしたが、いつもの場所にそれはない。没収されたのだろうか。
私が一人慌てている間に声の主は明るい場所へ出てきたのだが、意外にも若く、戸惑った。成人はしてなさそうな男の子だ。顔つきが幼い。
「…私をここに連れてきたのは、」
「そうだよ、俺俺。おねーさん、本名なんていうの?」
「…?サシャだけど」
「違うって。こっちの名前じゃなくて……日本での、名前」
余計に警戒を強めた。この子、もしかして……
「もうわかるかな?俺も、あんたと同じ」
「…………いつ、」
「あー、待って待って。察し悪そうだし、俺が説明してあげるよ。なんたって優しいからね」
よくわからない子だと、思った。
本当はすぐにでも逃げ出したいのだが、洞窟の外がどうなっているのかわからない。もしも海しかなかったら、泳げない私は溺れるしかない。
現状、様子を見るしかないようだ。
「俺さ、あんたと違って何年も前からこの世界にいんの。だから先に教えといてやるよ。……俺達は、帰れない」
「っ……そんなの!」
「わかってんだよ、嫌というほど。つーか……やっぱ、マジでムカつく。穏便に済まそうと思ってたけど無理っぽいなぁ」
なぜかゆっくり近づいてくる男の子に、得体の知れない恐怖を感じ後ずさる。
「わ、私なにもしてないよ!」
「無知って罪だよな。してんだよ、この泥棒が」
意味がわからなさすぎて、泣きそうになってくる。ひどい言いがかりだ。なぜ、こんなにも怒っているのだろうか。
私を見下ろしたまま深くため息をつき、お前の罪を教えてやる、だなんて言われ更に戸惑う。
「いいか?お前が持ってるスキルはな……本来、俺のモンだったんだよ」
「………え?」
「管理者に会っただろ?あいつ……素行が悪いとか言って、勝手に取り上げやがって…!」
「ま、待って…!管理者って、なに…?!意味がわかんない…!」
「あ?……お前、あいつに会ってこの世界に来たんじゃねーのかよ」
そんなの全く知らないと首を振れば、男の子も首を傾げた。
「なんかキッカケで死にかけたろ?そん時胡散臭い親父に会っただろ?」
死にかけと言われ、地面に落ちたことを思い出すが、そんな人物には会っていない。
そう伝えれば更に首を傾げた。
「はぁ?絶対会ってるって。何個か希望叶えるって言われただろ」
「言われて、ないけど……君は、」
「会ったし、頼んだ。……俺だけに従順な使い魔と、強靭な体に回復力。………まぁ?全部お前に取られたけど?」
開いた口が、塞がらない。
この子は…………なにを、言っているんだろう。
「ほんとは不老不死って言ったのにさー。世界のバランスが崩れるとかほざきやがって。同程度の強さならとか言うから、妥協してやったのに」
「意味が、」
「使い魔もさ、俺、ファンタジー好きだから。わざわざヘルハウンドがいい!って言ったんだぜ。かっこいいじゃん?地獄の番犬」
なのに、
「いざ来たらただの犬だし。いらねーからそのへんに捨てたら、勝手に増えやがってよー。使えねーよな、あの親父」
思わず拳を握りしめた。
どうしよう。怒りたい。でも、まだこの子の目的を聞いていない。
なぜ私を泥棒と呼ぶのか。謎の管理者の存在もそうだし、聞きたいことがありすぎる。
なんとか我慢しようと歯を食いしばれば、そんな私を見て彼は、笑った。




