生誕祭
モモが直々に犬かきを教えてくれても、泳げるようにはならなかった。
最後は全員が諦め、大人しくモモの背に乗り無理矢理一緒に遊泳を楽しんだのは、一生の思い出にしようと思う。とても幸せな時間だった。
そして、あっという間に迎えた生誕祭初日。
国中がお祭り騒ぎで盛り上がる中、私達は持ち場につき楽しそうな人々を眺めつつ……不審な人物がいないか、目を光らせていた。
(しかしレディ。これだけ人が多いと、目が疲れるね)
「視界に入る分だけでいいって言われてるから、無理はしなくて大丈夫だよ」
(ねーねー、たまご、まだー?)
(うまれるー?)
「あはは、まだ生まれないかなー」
みんなで大事に面倒を見ている卵は、当たり前だがうんともすんともいわない。雛達がとても楽しみにしているので、私もなにが生まれてくるのかはあまり考えないようにしている。元気に誕生してくれたらそれで良いのだ。
(……なぁ、楓)
「どうしたのモモ」
(俺のまわりだけ………やたらと、人が多くないか)
「そう…だねぇ」
実は、さっきから気になっていた。
モモのまわりだけ人が多いというか、観察して気づいたのだが……
どうやら、待ち合わせの目印に…されている。
「綺麗なお座りだもんねぇ…」
(…?座ってないと見えないだろ)
「そうなんだけどさ」
元の世界を思い出してしまうのは、仕方がないだろう。
(モモ君、人気だねぇ。私もポーズでもつければ…)
「仕事忘れないでよー」
(…わかったよ。仕事をきっちりこなしつつ、美しくポーズを決めればいいんだね?)
誰もそんなことは言っていないが、つっこまない。ボスワールドに時間を取られては、怪しい人物を見逃してしまうかもしれない。
しかし……行き交う人々を見ていて思うが、観光で来ている人が本当に多いなぁ。肌の色でわかってしまうのが少し悲しいところだが。
あと、たまにユナイシアムルの竜人族がいる。なぜわかるかって?
(きらきらしてるー)
(ねー)
(きれいだねー)
「……目が痛くなるから、あまり見ないようにねー」
これでもかというほど、キラキラしているのだ。しかもキラキラしたまま現地の女性をナンパしているので、めちゃくちゃ目立つ。嫌がっては…いなさそうだが。
顔はいいもんな。
(おや……こんなところにまで…)
「あ、ちょっとボス…お願いだから中指たてたりしないでね。今この国の制服着てるし」
(私がそんな男に見えるというのかい?場はわきまえているつもりだよ)
(つもりかよ)
(なんだいモモ君。ツンケンしていると幸せが逃げ)
(うぜぇ)
主に雛達にだが、頻繁に女性が手を振っていくのでボスがご機嫌なのが救いだ。
そんなボスにモモもこれ以上構う気はないらしく、舌打ちをしながらオヤツのジャーキーを噛みだした。なんかガラ悪い…。
(いつまでここにいるのー?)
「夜だよ。花火があがったら、今日のお祭りは終わり。みんなが帰ってから帰ろうね」
(さきにかえっちゃだめなの?)
「うーん……ボスかモモがいるなら大丈夫だけど…」
そこまで喋って、ふと気付く。そういえばモモ……花火は、平気だろうか。
今まで音を聞かせたことは一度もない。近所でお祭りもなかったし……
犬は花火の音が苦手だと聞いたことがある。さすがに逃げはしないだろうが、耳はいいし…どうしよう。急に心配になってきた。
「モモ、あのね……花火のことなんだけど。いきなり大きい音がするんだけど、大丈夫…かな?」
(愚問だな。そんなもん平気に決まってんだろ)
「…そう?もしダメそうだったら、すぐ言ってね。どっかに逃げないでね」
(馬鹿にしてんのか)
馬鹿にはしてないけれど、モモが暴走すると大変なことになってしまうので、全力で止めなきゃいけないだろう。
ドキドキしながら過ごしていれば空はあっという間に暗くなり、いよいよ花火があがる時間になってしまう。
モモがどんな反応をするのか。
凝視していた私は、見なきゃ良かったと後悔した。
(か、楓………はやく、帰ろう……)
「うっ……うん…!」
まんまるにうずくまり、小刻みに震えるモモ。
耳はしっかりと畳んであり、尻尾はどこへいったのか。
まさかこんなに可愛い姿になるとは思わず、仕事中にも関わらず私は視線を逸らせなくなった。見なきゃ良かった…!今はモモ以外見たくないし、ずっと見ていたいのにっ…!
「くっ……なんで今仕事なんだろう…!」
(………仕事が終わったら、言ってくれ)
強がってはいるけれど、震えている声に今度は心臓が痛くなる。萌え死にするかもしれない。
(これがはなび?きれーだねー!)
(でも…ちょっとだけ、あたまいたくなるー)
(レディ、ベイビーちゃん達は宿へ戻した方が……うん?モモ君はどうしたんだい?)
「…ボス。モモも、連れてってあげてくれるかな?」
それなら自分が残ると言うボスに、首を振る。
「多分今一人で歩けないと思うんだ。それに、モモがここにいたら私が死んじゃう」
(な、なんだって?!全く意味がわからないけれど……レディを死なせるわけにはいかない!わかった、言う通りにするよ!)
モモの体に手を添え、ゆっくり宿へ向かってくれたボスに心から感謝する。
あのまま待たせておくのが可哀想だと思ったのもあるが……気が散って本当に仕事にならなかったし、私のモモ萌えゲージが限界だったのだ。
可愛すぎるのは、罪だと思う。




